元ネタとしてのシュギー・オーティス

「トリプルファイヤー 鳥居の人気」と検索をかけてこのブログまでたどり着いた人がいた。そんな検索の仕方があるかよと思うけれど、心配してくれてありがとうございます。

ある人物が洒落たカフェにいたところ、トリプルファイヤーを感じさせるような音楽が流れてきたので、「絶対これパクってんな」と思い、便利なアプリを使って曲名とアーティスト名を調べたそうだ。それは一体何ですかと聞けば、シュギー・オーティスの”Sparkle City”とのことであった。

“Sparkle City”が収録されているInspiration Infomationというアルバムは大の愛聴盤ではあるものの、シュギー・オーティスを元ネタとして指摘される日がくるとは思わなかった。なぜならシュギー・オーティスは洒脱であるから。

垢抜けてはいるが、洗練と呼ぶにはあまりに自然な風体であり、このさりげないクールさ加減は天性のものだと考えられる。

さらにシュギー・オーティスの音楽には浮世離れした響きがあり、これを「彼岸のレイドバック」と呼びたいと思う。

“Inspiration Infomation”は今から40年前の1974年に発表された作品だが、未来からの贈り物のような趣もある。当時、シュギー・オーティスは若干21歳。

このような音楽はもう奇跡としかいいようがないので、指摘に対しては、誠に恐縮ですというしかない。畏れ多い。畏れ多いのだが、実際に参考にしている部分もある。細かいフレーズの掛け合いで全体を作っていくという方法はずいぶん参考にした。したものの、という話である。

ちなみにある人物とはジョニー大蔵大臣です。

2013年にアメリカのテレビ番組『Late Night With Jimmy Fallon』にてハウスバンドのThe Rootsと共演したときの映像。
 

真夏のミックステープ”Summertime” / マッスル・ショールズの映画『黄金のメロディ マッスルショールズ』

8月7日は立秋で、暦の上では秋に入ったらしい。しかし、立秋は暑さのピークでもあり、日中は外に立っているだけで滅菌されそうな日差しである。夕暮れ時は風が出てやや涼しい。
帰宅後、冷房の効いた部屋でアイスを食べながら音楽を聴くのがこの季節の贅沢であるが、この夏、もっぱら聴いているのは、DJ Jazzy Jeff & MickによるSummertimeというミックステープだ。
DJ Jazzy Jeffは昔、ザ・フレッシュ・プリンスことウィル・スミスと組んでヒットを飛ばしていた人物。
相棒のMickはセレブのプライベートパーティーなどで回すような一流DJとのことである。
90年代から2000年代前半頃のヒップホップ及びR&Bのヒット曲が選曲の中心となっている。ある曲を元ネタからつないだり、往年のソウル名曲を良い塩梅で配置するなど演出がニクい。
ヒップホップやR&Bはアルバム1枚通して聴くよりも、シングル曲を並べて聴いたほうが、飽きないし、楽しみやすいと思っているので、こういうミックステープが聴けるということは大変喜ばしい。
以下のサイトより、最新版のSummertime Mixtape Vol.5がダウンロードできる。バックナンバーもダウンロード可能。
DJ Jazzy Jeff & MICK present #Summertime5
新宿シネマカリテにて『黄金のメロディ マッスルショールズ』鑑賞。
マッスルショールズはアメリカ南部アラバマ州の田舎町で、その地名はソウルやロックの名産地として知られている。
60年代の頭にリック・ホールという人物がマッスルショールズに「フェイム」というレコーディング・スタジオを建て、地元のミュージシャンを集めてレコード制作を始める。ホールや彼の周囲にいた者が制作したアーサー・アレキサンダーパーシー・スレッジのレコードがヒットし、やがてアトランティックやチェスなどレコード会社専属のウィルソン・ピケット、アレサ・フランクリンエタ・ジェイムズといった黒人シンガーがレコーディングに訪れるようになる。
フェイムお抱えのスタジオミュージシャンであるところのロジャー・ホーキンス、デヴィッド・フッド、バリー・ベケットらはリックの下を離れて「マッスル・ショールズ・サウンド・スタジオ」を設立する。70年代にマッスルショールズ・サウンドの虜となったロックミュージシャン(ローリング・ストーンズ、ポール・サイモン、ボブ・ディラン、トラフィック、ロッド・スチュワート等)が多く録音を残している。
『黄金のメロディ~』は、リック・ホールと、彼の下に集まったソングライターやミュージシャンたちといったいわゆる裏方たちが主役の映画である。
カイゼル髭が目を引くリック・ホールは、クリント・イーストウッドが演じそうなアメリカの頑固な親っさんといった風情。近年のキャンディ・ステイトンのレコーディング場面では、スタジオでミュージシャンたちに遠慮なく指示を飛ばす。曰く「甘やかしたところでそいつのためにならん」。
アレサの旦那とホテルで殴り合った話や、アトランティックのやり手プロデューサーであるジェリー・ウェクスラーとの仲違い、オールマン・ブラザース・バンドをスルーしてしまった話などがリックによって語られる。
リック・ホールを主役として劇映画として仕立ててもおもしろいものができるのではないか。バリー・ベケットらが独立する旨を伝えにリックの部屋を訪ねていく場面や、ハイになって良い気分のミックやキースが来訪する場面は良いシークエンスになりそうだ。ぜひとも『ウォーク・ハード ロックへの階段』のようなコメディにしてほしい。さすがにあそこまでやってしまうのはいささか心配ではあるが。何の心配をしているのだろうか。
映画鑑賞後、改めてマッスルショールズがらみの音源を聴いているのだが、第3期ハウスバンドであるFame Gangの演奏が自分の好みのようである気がする。リズムの質感が軽やかだからか。
映画では主役級であった「スワンパーズ」にしても独立後のステイプル・シンガーズの“I’ll Take You There”といったラテン風味の隙間のある演奏が好きだ。
ただ、タイトルバックで流れる“Land Of 1000 Dances”の巨石が迫ってくるような音を聴くと否応なしに高まる。やっぱりトミー・コグビルのベースが好きなんだな。
などと言いながらメンフィス・ボーイズのコンピを聴くと、良い。マッスルショールズとスタイルは似ているが、アメリカン・サウンド・スタジオの演奏のほうが口当たり(耳当たり)が軽やかではないか。そうなるとフェイムはエビスか。