トラップ・ビートのリズム構造解析

このテキストは定期的に開催している「邦ロックから遠く離れて」というトーク・イベントのために書いたものだ。毎回テキストを用意して、実際に足を運んでいただいたお客さんだけに公開している。 イベントの告知をしていたら「テキストを購入したいので販売してください」というメッセージをいただいたのだが、 今回は一緒にイベントを行っている張江さんの勧めで一般公開することにした。イベントにお越しになった方で「えー!無料で公開しちゃうの!」と思った方はライブ会場などで鳥居にお詰め寄りください。何かしらの形でお詫びいたします。

「え、無料?全然課金するよ!」という奇特な方がいましたら、気が向いたときにnoteで公開中の記事を購入してください。サポートも随時受け付けています。勘違いなさっている方がいるといけないのではっきりさせておきますが、わたくしは断然ビッグマネーを掴みたいクチです。そのあたりをご考慮いただけると幸いです。

下のSpotifyのプレイリストは今回扱った音源をまとめたもの。ちなみにaikoと山下達郎はSpotifyにありません。音源を聴く場面で実際に聴きながら読み進めていただきたい。

トラップ・ビートが内包するリズムを分析

欧米のヒットチャートでヘゲモニーを握るトラップ的なビートは一聴すると珍奇なようでその実ベーシックなリズムの構造によって支えられているものである。例えばハーフタイム、ダブルタイム、ファンク、クラーベ、トレシージョといったキーワードからトラップを解析していくことが可能だ。トラップが内包するリズムの数々をひとつずつ取り上げたい。

本日取り組みたいものは以下の通り。

目次

  1. トラップは縦ノリ?
  2. “Mo Bamba”と同じBPMの曲を聴いてみる
  3. 倍なのか?ハーフなのか?二層式リズム
  4. トラップのフィールに近いものをファンクから探してみる
  5. ファンクに取り掛かる前にまずサブディビジョンを意識して聴いてみる
  6. We Will Rock Youを細分化
  7. 満を持してファンクに取り掛かる
  8. 水平的16ノート・フィールと垂直的16ノート・フィール
  9. クラーベについてかけあしでさらってみる
  10. サブディビジョンをグルーピングしてクラーベにしてみよう
  11. トレシージョ、3-3-2
  12. バックビートとは?
  13. クラーベ、ファンキードラマーをもとにトラップビートを作成するところをLogicで実演
  14. 脱中心化されたリズムの中心化

いやいや、ちょっと待て。そもそもトラップって何なの?と疑問に思われる方もいるかと思う。けれども「ジャズってなに?」「ロックってなに?」みたいな質問だと考えてここでは捨て置きたい。ほっといても現行のヒップホップを聴いていくうちになんとなくわかるかと思われる。

と言って次に進みたいところだが、やはりそれではあまりにも不親切なので、トラップのビートに限定して、その特徴について少し言及しておこう。まずローランド製のTR-808を用いたディケイの長いキックおよびベース、またはそれらを模した音源が低域を担う。2拍目、4拍目、いわゆるバックビートは808のクラップが鳴らされる。 キックとクラップの間を埋めるのは装飾的に配置されたスネアの音だ。クラップとスネアが中域を担う。そして、トラップで一番耳を引くであろうクレイジーなパターンのハイハットは8分、16分、32分、64分、3連、6連、12連という異なる単位の刻みを組み合わせたもので、これが高域を占めている。だいたいこれらのものがトラップ・ビートの特徴と言えよう。

トラップは縦ノリ?

定期的に開催している「邦ロックから遠く離れて」というトーク・イベントを通じてトラップビートメイキングに取り組むことになった。その際に、”How To Make Trap Beats”というようなタイトルのチュートリアル動画や、プロデューサーがビートメイキングの様子を撮影した動画を視聴して参考にすることが多かった。とりわけFACT MagazineがYouTubeで配信している名物企画”Against The Clock”はトラップと関係なくよく視聴した。”Against The Clock”は10分という制限時間内にビートを作成する企画だ。それににヒップホップのプロデューサー、Zaytovenが出演する回があり、その中で、彼がビートメイキングしている際のノリ方、つまり体の動かし方を観てトラップのノリ方に開眼したところがある。Zaytovenは上半身を縦に揺らしてリズムを取っている。こうやってリズムを取るんだと納得したのだ。

トラップは縦ノリであると強く印象づけたものとして、他にはSheck Wesのライブ動画も忘れがたい。

縦ノリ、そして大合唱。客はトラックの倍のテンポでリズムを取っている。ラッパー本人も同様。むしろトラックのほうがハーフテンポと考えることもできる。なんにせよBPM72とBPM144の二層構造になっているといえる。トラップビートというものは基本的にこの構造になっているといって差し支えないだろう。

“Mo Bamba”と同じBPMの曲を聴いてみる

“Mo Bamba”のBPMは72。BPM72の曲をすこし聴いてみたい。

BPM72周辺

♪ 中島美嘉 – 雪の華(BPM72)
♪ aiko – カブトムシ(BPM74)

いわゆるバラードのテンポ。コンサートにおいて聴衆は左右に手を振ってノってしかるべきテンポといえよう。むしろノらずにじっと歌唱に耳を傾けるのかもしれない。実際のところは不明。次は72の倍、BPM144の曲を聴いてみる。

BPM144

♪ Nirvana – Sliver
♪ Britney Spears – Toxic
♪ Offspring – Pretty Fly (For A White Guy)

早め、いわゆるアップテンポのロック、ポップス。

倍なのか?ハーフなのか?二層式リズム

トラップはこれらふたつのBPMが同居するような感覚を持つ二層式のリズム。こうした感覚を持つトラックは2000年前後からヒップホップ、R&Bにおいて流行した。

♪ Destiney’s Child – Say My Name
♪ Brandy – Never Say Never
♪ TLC – Fanmail

これらのトラックのサブディビジョンは32分音符。スネアを2、4拍目のバックビートだと解釈したときの話だが。早くもあり、また遅くもある。複線的なリズムと言って良い。SMAPの「らいおんハート」のトラックを同じ構造になっている。一方、先ほど聴いたバラードやロックは単線的といえよう。しかし、バラードを倍のテンポでリズムを取ってみるとなんとも言えないおもしろさがある。

♪ いきものがかり – ありがとう

余談だが、J-POPのバラードに倍テンの4つ打ちキックいれて踊り狂うイベントすでにありそうだと感じる。実際のところあるのだろうか。あれば盛り上がりそう。

トラップのフィールに近いものをファンクから探してみる

トラップにリズムの感覚に近い音楽がかつてなかったのか?なかったわけがないだろうと考えたときに、あるタイプにファンクが近いように思われた。それらを紹介したい。したいのだがしかし、その前に周到に取り組みたいことがある。

ファンクに取り掛かる前にまずサブディビジョンを意識してみる

サブディジョンってなんぞやと思う方のために、周辺の用語と併せて説明したい。

・ビート
拍、拍子。BPMとはBeat Per Minuteの略。1分間の拍数のこと。

・サブディビジョン
拍を細分化したものの最小単位のこととする。あくまで、このテキストにおける用法であって一般性は保証しない。

・パルス
脈。用法に幅のある用語だが、ここではビートを細分化したものある単位でグルーピングし、それを連続させたものをパルスとする。イメージとしては周期性をともなった波形。こちらも一般的な用法ではない。

今まではサブディビジョンとパルスをごちゃ混ぜにして使用してきたが、今回からきっちり分けたいと思う。現時点ではこれらの用語についてなんのことやらよくわからないかもしれないが、話が進むうちに意味がはっきりしてくると思われる。

We Will Rock Youを細分化

「ぶんぶんぶん」という有名な童謡をふざけて「ぶるんぶるんぶるん はるちるがるとるぶるん」と歌う遊びをご存知だろうか。これから行うことはこの遊びに近い。

課題曲に選んだのは”We Will Rock You”。最初に足と手を使って”We Will Rock You”のリズムをパターンをみんなで実演してみよう。映画『ボヘミアン・ラプソディ』では「みんなが参加できる曲が欲しいとブライアン・メイが考えて作った曲というエピソードが披露されていた。

♪ Queen – We Will Rock You

|ドンドンパン・ドンドンパン|
|パジェロ・パジェロ|
|めぐろ・めぐろ|

足踏みと手拍子によって演奏されるリズムパターンを聴こえたまま擬音で表記すれば上記の「ドンドンパン」ようになる。下の「パジェロ」および「めぐろ」という表記は日本語でリズムを模したもの。「パジェロ」といいながら再度実演してみよう。

実はこれらの解釈を悪い例として挙げた。この取り方だとロックや飲み会のコールは対応できてもファンクには対応できない。なぜならファンクはサブディビジョンが細かいから。”We Will Rock You”をファンク的に解釈すると以下のようになる。

|どつ・どつ・たつつつ・どつ・どつ・たつつつ|
|きよ・すみ・しらかわ・きよ・すみ・しらかわ|

「つ」の部分は実際には音が鳴っていないものの休符として感じるべきサブディビジョンを示したもの。「きよすみしらかわ」はサブディビジョンを日本語で模したもの。「き・す」で足踏み、「し」で手拍子を打てば”We Will Rock You”のパターンになる。なるのだが、「き・す・し」以外の部分も意識しなければ元の木阿弥。音が鳴っていない部分もしっかりとリズムを取ることを忘れずに。

なお、上記の文字をすべて合わせると16文字になるのはサブディビジョンが16分音符だから。言い換えると。1小節を16等分しているから。4/4拍子の1拍を4等分したと考えたら良い。

サブディビジョンを意識しながら、あるいは「きよすみしらかわ」と言いながら再度実演してみよう。「パジェロ」のときと曲の聴こえ方が変わったかどうか。フレディのボーカルにより接近して聴こえるようになったのではないか。

ちなみに、サブディビジョンについて改めて強く意識したのはモー娘。の加賀楓さんのインタビューをたまたま読んだのがきっかけ。

モーニング娘。’18加賀楓が「リズム」を通して発見したこと

https://rollingstonejapan.com/articles/detail/29611/1/1/1

満を持してファンクに取り掛かる

おそらくドラムの入門書にはファンクとは16ビートで演奏される音楽というような表記があると思われる。実際その通りだ。なお、すでに書いたがビートというのは拍のことなので、16ビートは本来16拍という意味になる。ファンクは多くのポピュラーミュージックと同様に基本的に4拍子で演奏されるものなので、16拍と言われても何のことを言っているのかよくわからない。そんなわけで、16ビートという用語は使用せず英語式の16ノート・フィールというふうに呼んでいきたい…ところなのだが、面倒なので16ビートと呼んでしまうことにする。ちなみにノートとは音符のこと。16ノートは16分音符を指す。

16ビートの何が16なのかといえばハットの刻み。16分刻みのハットでインパクトをもたらしたのはスライの”Stand!”のコーダ部分。細野晴臣だったか林立夫だったかが衝撃を受けたとどこかで言っていた気がする。

♪ Sly And The Family Stone – Stand!

水平的16ノート・フィールと垂直的16ノート・フィール

16ビートは2種類に分類できる。一般的な16ビートはハットを両手で刻んで1・3拍目にキック、2・4拍目にスネアを入れるというもの。ディスコ・ビートと呼ぶこともある。ドラム初心者が8ビートの次の取り組むリズム。実例を少し聴いてみよう。

♪ Blondie – Rapture
♪ Chic – Good Times

もう一方は右手でハットを16分で刻みつつ2・4拍目にスネアを入れ、さらにスネアのゴーストノートを鳴らしながらシンコペートしたキックを入れたりするパターン。その誕生はディスコ・ビートよりも古い。

♪ James Brown – Funky drummer
♪ Bill Withers – Use Me
♪ Childish Ganbino – Have Some Love

リズムの取り方として、前者が1拍ごとに水平に揺れて取るとしっくりくるものとすれば、後者は1拍につき2回ずつ、つまり8分の刻みで垂直に揺れて取るとしっくりくるものになっている。感覚的な話で恐縮だが、そういうものだと思っていただきたい。

前者を「水平的16ノート・フィール(以下水平的16)」、後者を「垂直的16ノート・フィール(以下垂直的16)」と呼びたい。横ノリ、縦ノリという言葉もあるが、解釈に幅がありそうなのと、あまりかっこよくないので、別称を考えた次第だ。

この二つのどこで差がつくのか考えてみると、パルスの取り分け方にある。つまり16個のパルスをどのようにグルーピングしていくかということだ。

まず、1小節を1枚のピザに見立ててみたい。4拍子なので4等分したのちに、さらに4等分して16切れのピザにする。水平的16では4人にピザを4切れずつ配るのに対して、垂直的16では8人に2切れずつ配る。つまり1枚のピザを4等分するか8等分するかの違いということ。言い方を変えればハット4つでパルスの波ひとつとするのか、ハット2つでパルスの波ひとつとするのかの違いとなる。サブディビジョンが4等分したピザをさらに細かく等分した最小単位だとすると、パルスは人数となる。

リズムアナトミーにお越しいただいた方にはすでにお話したことだが、ここで少しリズムの取り方の基本について説明したい。1拍は基本的にオモテとウラに役割が振り分けられている。4拍子の場合、1拍は4分音符に相当する。それを二つに割って二つの8分音符にする。そして、前半の8分音符をオモテ、後半のそれをウラとする。このオモテとウラをガイドに体を前後、左右、上下に往復させてリズムを取っていく。オモテが往路、ウラが復路。もっといえばオモテで筋肉を脱力させ、ウラで緊張させる。例えば頭を前後に動かしてリズムを取るする際は、力を抜いて顎を前方に突き出すと同時にオモテに突入し、ウラに変化するタイミングめがけて首に力を入れて頭を後方にひっこめる。これがベーシックなリズムの取り方。この往復運動をパルスと呼ぶこともできよう。

水平的16のほうはピザ4切れ分につき1度の往復運動を行う。垂直的16のほうはピザ2切れにつき1度の往復運動を行う。垂直的16は水平的16に対して往復する回数が2倍になる。パルスの幅が短くなった分、波形が鋭角になる。いわゆる縦ノリになるということだ。

水平的16のほうはキックとスネアがオモテのときにしか鳴らないのであまり緊張感がない。逆にいえばノリやすいともいえる。

わざわざピザに例えてみる必要があったのか不明だが、ともかく、サブディビジョンをグルーピングするという考え方はこの後に扱うクラーべにおいても大事なのでしっかりと押さえておきたい。

Sheck Wesのライブ映像を観ればわかるとおり、トラップの乗り方は垂直的16と言っても良い。トラップのフィールに近いファンクを他にも聴いてみよう。4という1拍のサブディビジョンを2つずつにまとめたパルス、つまり1小節を8等分するパルスで構成されたタイプのファンク。

♪ Betty Davis – They Say I’m Different
♪ Funkadelic – Hit It and Quit It

余談だが、パンク寄りのロックの産湯に浸かって育ったミュージシャンはピザを等分してリズムを作っていくという感覚が希薄でどうしてもブロックを積み上げていくようなリズムになってしまいがち。走高跳をすると踏切で歩数が合わなくなり棒につっこんでしまうようなリズム。ドラムでいうとフィルの後の1拍目が遅れてしまう。いいかえれば周期性がないということ。

クラーベについてかけあしでさらってみる

『文化系のためのヒップホップ入門』(長谷川町蔵・大和田俊之)でも指摘があったが、2000年ごろよりサザンヒッピホップの台頭とともにクラーベ的なビートのトラックが流行するようになった。トラップにもそうした感覚が根付いているように感じている。例えば・・・・

♪ Travis Scot – YOSEMITE

クラーベとは大雑把に言ってキューバ音楽で使われるリズムパターンのこと。通常クラベスという木製の拍子木のような楽器を打ち合わせて以下のように演奏する。

|X..X..X.|..X.X..|

ボ・ディドリー・ビートないしジャングル・ビートでもおなじみ。山下達郎の「ドーナツ・ソング」や「ジャングル・スウィング」のパターンといえば話が早いか。ニューオーリンズのセカンドラインと呼ばれるビートもクラーベと同じパターン。

♪ The Rolling Stones – Not Fade Away
♪ Dr John – Iko Iko
♪ 山下達郎 – ドーナツ・ソング

早速クラーベが鳴らされているキューバの音源を聴いてみたい。

♪ Sexteto Habanero – La Loma De Belen

こちらはソンと呼ばれるスタイルのキューバ音楽。ソン初期のヒット曲。1925年にリリースされたSP盤を盤起こしした音源。クラーベには3-2クラーベと2-3クラーベがあり、こちらは前者。

♪ Don Azpiazu – El manisero

こちらは2-3クラーベ。世界中でヒットしたソンの代表曲。日本では「南京豆売り」として有名。 アメリカでは 「ルンバ」として紹介されたが、キューバにおける「ルンバ」は打楽器とコール&レスポンスをベースとした音楽を指す。こちらは1930年のSP盤を盤起こしした音源。

クラーベの由来について決定的なことは言えないが、アフリカから奴隷としてキューバに運ばれてきたエウェ族が持ってきたハチロクないし12/8拍子で演奏されるベル・パターンがスペインから来た白人の2拍子と混ざって生まれたのではないという説が一般的・・・といって良いのだろうか。文献にあたっても決定的なことは書かれていない。だから、あまり迂闊なことは言えない。キューバ音楽は混血の音楽と呼ばれることがあるが、クラーベこそ混血のリズムだといえよう。

♪ Ewe musicians, dancers – Kpegisu

ガーナからナイジェリアに居住するエウェ族のベル・パターンを聴いてみる。12/8拍子で演奏されている。ベル・パターンと4分で打たれるもう一方のベルがいわゆるクロスリズムになっている。

♪ Drums of the Yoruba of Nigeria – Bata Drum

キューバ音楽の誕生に寄与したナイジェリアのヨルバ族のバタドラムの演奏。ハチロクと4拍子のクロスリズム。

|X.X.X..X.X..|

上記のパターンは標準パターンと呼ばれるベル・パターン。これがどのようにクラーベに変化したのか示した音源を作成したので聴いていただきたい。

まず、ベル・パターンとクラーベをそれぞれ2回分ずつ聴いてみる。最初にアゴゴで2小節分カウントいれている。そのあとに演奏されるのがベル・パターン、次がクラーベという順番。サブディビジョンおよびグルーピングを示したパーカッションを音もつけてある。

次に2回分ずつ交互に聴き比べてみる。

今度はサブディビジョンのグルーピングを示した音を抜いたベル・パターンのみ、クラーベのみの演奏を2回分ずつ交互に聴いてみる。

最後はベル・パターンとクラーベを同時に鳴らしたもの。パンを調整して、前者を左に、後者を右に振ってある。

サブディビジョンをグルーピングしてクラーベにしてみよう

クラーベの5つの打点を以下のように解釈してはいけない。

|な・か・め・ぐ・ろ|

これでは日本式の337拍子だったり、「伯方の塩!」のようになってしまう。ただしくは以下のように解釈する。

|うえの・おかち・まち・こま・ざわ・だい・がく|

上記の文字列の「う・お・ま・ざ・だ」でクラベスを鳴らせばクラーベになるということ。「うえのおかちまちこまざわだいがく」と唱えながら「う・お・ま・ざ・だ」のタミングで手拍子を打つとパルスを伴ったクラーベになる。我々は休符を文字通りお休みの箇所だと感じてしまいがちなのだが、実際は音が鳴っていなくともサブディビジョンを感じていなければならない。サブディビジョンをグルーピングしたものだと考えてクラーベを打つことが大事。日本語のアクセントおよび発音で駅名を唱えるとリズムにならないので、まるでロボットかのごとくアクセントをつけず一文字ずつぶつぎりで唱えなければならないことに注意。

クラーベは「33424」と表記されることがある。これはサブディビジョンをグルーピングした数の表記となっている。つまり、3(うえの)3(おかち)4(まちこま)2(ざわ)4(だいがく)ということ。以下のように別の駅に置き換えるとわかりやすいかもしれない。

|めぐろ・えびす・のぎざか・みた・あかさか|

ただし33424というふう表記してしまうと、2-3クラーベを一体どのように表記したら良いのかという問題にぶちあたる。なぜなら2-3クラーベは1拍目が8分休符だから。224332となるのか?最初の頭の2は休符なのだが・・・この問題は今は捨て置く。

日本語は子音が弱いので、あまりリズムを取るために使用するには向いていない気がする。妥協案として以下のように唱えながら取り組んでみると良いかと思われる。

|たつつたつつたつつつたつたつつつ|

クラーベ練習用音源を用意したので、それに合わせてサブディビジョンを意識しながらクラーベを打ってみよう。


クラーベのグルーピングを意識しつつキューバ音楽を再度聴いてみよう。

♪ Septeto Nacional Ignacio Piñeiro – Viva el Bongo

このようにサブディビジョンを意識しながらクラーベを聴くと自然と16分音符2つで往復する垂直的16でリズムを取りたくならないだろうか。この感覚はトラップを聴くうえで大事なことなので、頭の片隅に置いておいていただきたい。

トレシージョ(3-3-2)とは?

トレシージョとはスペイン語で三つ子のこと。クラーベの前半部分をこのように呼ぶ。16分音符8つを3-3-2でグルーピングしたものと考えて良い。例のごとく駅名で表すと以下の通り。

|めぐろ・えびす・みた|

トレシージョは3連符を無理やり2/4拍子に組み込んだしたものとも考えられる。アフリカ由来のハチロクと4拍子のクロスリズムを2/4拍子に落とし込んだものというか、クロスリズムに馴染みのない西洋の人間がそのように聴いてしまったのではないかという話。

クロスリズムは一聴するととっつきにくく感じられるかもしれないが、構造はいたってシンプル。12個のキャンディを6人に2つずつ配ったグループと4人に3つずつ配ったグループが同じ部屋にいると考えればよい。

もう少し具体的に説明したい。まず1小節を6等分して6つの点を用意する。それをさらに2等分して12個の点にする。ハチロクで刻む場合は12個の点を2個ずつグルーピングして6つのグループを作る。4拍子で刻む場合は12個の点を3個ずるグルーピングして4つのグループを作る。図示すると以下のとおり。

|X.X.X.X.X.X.| ハチロク
|X.. X.. X.. X..| 4拍子

例のごとく駅名で表記すると以下のとおり。

|あけぼのばしあけぼのばし|
|ひがしなかのひがしなかの|

上がハチロク(「あ・ぼ・ば」が打点) 、下が 4拍子(「ひ・な」が打点)。

「Groove Pizza」というアメリカの音楽教育家が開発したソフトがある。ピザの形をしたドラムマシーンのようなものだ。こちらを使用してクロスリズムを作成すると、視覚的にもわかりやすくより理解が深まるかと思うので是非確認されたい。

https://apps.musedlab.org/groovepizza/?source=pub&museid=HyITfxDmV&show-grid=true&multi-lock=&brainpop=false&midimap=&

両手で机や太ももなど叩いてクロスリズムを演奏したいときは、以下のように右手でハチロク、左手で4拍子を演奏すれば良い。右手、左手を入れ替えたり、両手、両足に割り振ってとっても良いだろう。

|R.R.R.R.R.R.| ハチロク
|L..L..L..L..| 4拍子

クロスリズムとトレシージョを比較した音源を用意したので聴いていただきたい。

4分のキックは鳴らしっぱなしにしている。2小節あって、最初に演奏されるハットがハチロク。それが2回繰り返された後に、演奏されるハットのパターンがトレシージョ。

少し脱線するがせっかくなのでクロスリズムを使ったアフロファンクを聴いてみよう。

♪ Fela Kuti & The Africa ’70 – Observation Is No Crime
♪ Jingo – Fever

後者は初めて聴いたときにリズムがどういう構造になっているのかまったくわからなかった。おそらくスネアをバックビートだと解釈してしまったから。ドラム単体で聴けばスネアがバックビートになるのだが、他の楽器のパルスを基準にするとスネアが鳴るのは2拍目、4拍目のウラになるからバックビートとは言えない。バックビートは通常2、4拍目のオモテで鳴らされるもの。我々はスネアのタイミング=オモテだと考えてしまいがち。

トレシージョの仲間にハバネラと呼ばれるリズムパターンがある。ハバネラは1800年頃フランス人によってカリブ海に持ち込まれたイギリスのカントリー・ダンスに黒人風のリズム感覚が加わって生まれたリズムで、4分の2拍子で演奏される「タタンタ・タンタン」「ターンタ・タンタン」というリズムが一般的なものだ。白人が作ったアフロ風パターンと言ってよい。

♪ Maria Callas – Carmen “L’amour est un oiseau rebelle” (Habanera)

ハバネラのパターンはトレシージョに2、4拍目(バックビート)がくっついたものだといえよう。ちなみに先程聴いたOffspringの”Prety Fly”のメインのリフはハバネラのパターンだ。

トレシージョはポップスにおいて頻繁に使用されるリズムフィギュアである。ウワモノのループ、ベースのパターンなどで散見される。現在はトレシージョの時代と言って良いほど。ビルボードの常連ジャンルのレゲトンはその代表と言ってよい。

♪ MIA – Bad Bunny Featuring Drake

Sheck Wesの”Mo Bamba”もウワモノのループはトレシージョになっている。

♪ Drake – Passionfruits

ドレイクの”Passionfruits”はトラップではないが、ウワモノのループが3-3-2になっている。

レゲトンとトラップが決定的に違うのはトラップはバックビートを遵守しているところ。

バックビートとは?

説明するまでもないが、2、4拍目に鳴らされるスネアのこと。アール・パーマーの録音を始祖とするのが定説。誕生以来ポップスの定番ビートとなった。昔(50年代ごろの話?)の日本人は2、4拍目に手拍子を入れるのが苦手でロックのコンサートでも1、3拍目に手拍子を入れていたなんて話があるが、本当か?

♪ Fats Domino – The Fat Man

クラーベ、ファンキードラマーをもとにトラップビートを作成するところをLogicで実演

※イベントではLogicの画面を観ながら説明していったが、テキスト上では同じようにはできないので、今回はそれをまとめた音源を聴いていただきたい。

音源はまずアゴゴベルの音色のクリックが2小節あった後以下のように進行していく。それぞれ4小節でひとつの単位となっている。

  1. クラーベのパターンを作成する
  2. クラーベを808のキックで鳴らす
  3. バックビートとして808のハンドクラップを鳴らす
  4. キックとクラップの重なるクラーベの最後の部分のキックを抜く
  5. “Funky Drummer”のリズムパターンを用意
  6. “Funky Drummer”のキックを消してスネアとハットを808で鳴らす
  7. ミュートしていたキックとクラップを戻す
  8. “Funky Drummer”のハットをトラップ的なハットに変える
  9. 完成

これでトラップのベーシックなビートが完成する。もちろん他にもベーシックなパターンは存在する。例えばクラーベの前半の3のほうの真ん中にあたる音を抜いたパターンだ。 ハーフテンポのトレシージョが感じられるパターンといえよう。 後半部分のバックビートとかぶって消した部分を後ろに16分音符ひとつぶんずらすパターンも多い。

脱中心化されたリズムの中心化

以上、見てきたとおり、トラップは様々なリズムを内在させつつそれを撹乱するようなところがある。脱中心化されたリズムと言って良いだろう。刻みの単位がめまぐるしく変化するクレイジーなハットのパターンなんて良い例だ。そして、トラップにおけるラップに3連のフローと16分のフローが同居するのは、トラップのビートの内部で様々なパルスが同時に進行しているからではなかろうか。

おもしろいのは撹乱されたリズムの要素が縦ノリに収斂していったところだろう。トラップがパンクなどの縦ノリでのってしかるべきタイプの音楽と決定に違うところは縦ノリのガイドとなる音がわかりやすく示されていないところだ。敢えて図式的に言ってしまえば、パンクが自ら手拍子している音楽だとすれば、トラップは手のひらをこちらに向けてハイタッチを要求している音楽である。(ここではどちらが偉いとか音楽的に優れているといったことまで言及はしていない。念のため。)我々は自らその音楽に参加する心づもりで聴いたり踊ったりしないことには楽しめない。というか、聴いていても大しておもしろくない。(そんなことを言えば、パンクのライブ、ひいてはどのような場であっても同様ではあるだろうが) 逆にいえば押し付けがましさのない音楽だといえよう。

 

30 Days Kick and Snare Challenge

“30 Days Kick and Snare Challenge”とは

リズムリテラシー向上のために、毎日1曲ずつ、ヒップホップ・クラシックスのキックとスネアのタイム感を完コピしていくという訓練。課題曲は全部で30曲。ひと月分。
なぜ課題曲がヒップホップなのかといえば、単純にループだから。以下、課題曲のリスト。

課題曲リスト

  1. Award Tour – A Tribe Called Quest – Midnight Marauders
  2. Shook Ones Pt. II – Mobb Deep – The Infamous
  3. Gin & Juice – Snoop Dogg – Doggystyle
  4. Regulate – Warren G – Regulate…G Funk Era
  5. Can I Kick It? – A Tribe Called Quest – People’s Instinctive Travels And Paths Of Rhythm
  6. Slow Down – Brand Nubian – One For All
  7. Aint No Half Steppin – Big Daddy Kane – Long Live The Kane
  8. Mass Appeal – Gang Starr – Hard To Earn
  9. Halftime – Nas – Illmatic
  10. Juicy – The Notorious B.I.G. – Ready To Die
  11. C.R.E.A.M. – Wu-Tang Clan – Enter The Wu-Tang (36 Chambers)
  12. Drop – The Pharcyde – Labcabincalifornia
  13. Luchini (A.K.A. This Is It) – Camp Lo – Uptown Saturday Night
  14. Ice Cream – Raekwon – Only Built 4 Cuban Linx
  15. California Love – 2Pac Feat. Dr. Dre & Roger Troutman – Greatest Hits
  16. ATLiens – Outkast – ATLiens
  17. Ambitionz Az A Ridah – 2Pac – All Eyez On Me [Disc 1]
  18. How I Could Just Kill A Man – Cypress Hill – Cypress Hill
  19. It Was a Good Day – Ice Cube -The Predator
  20. I Used to Love H.E.R. – Common – Resurrection
  21. N.Y. State Of Mind – Nas – Illmatic
  22. The Choice Is Yours (Revisited) – Black Sheep – A Wolf in Sheep’s Clothing
  23. They Reminisce Over You (T.R.O.Y.) – Pete Rock & C.L. Smooth – Mecca & The Soul Brother
  24. Scenario – A Tribe Called Quest – The Low End Theory
  25. In Da Club – 50 Cent – Get Rich Or Die Tryin’
  26. Paid In Full – Eric B. & Rakim – Paid In Full
  27. Still D.R.E. – Dr. Dre – 2001
  28. Southernplayalisticadillacmuzik – Outkast – Southernplayalisticadillacmuzik
  29. The Light – Common – Like Water for Chocolate
  30. Ms. Fat Booty – Mos Def – Black on Both Sides

やり方について

キックは右手、スネアは左手で、それぞれのタイミングに合わせて太ももを叩く。その際、佐久間正英方式(『直伝指導! 実力派プレイヤーへの指標 How to be a professional player?』を参考にされたい)に則り、太ももを叩く瞬間以外、手はギリギリまで動かさないようにする。また自分と音源のタイミングがきちんとシンクロしているかどうか厳しくチェックするために、太ももを叩く音はなるべく鳴らさないようにする。太ももにサンプラーのパッドが付いていると思い、指先でパッドを押した瞬間に課題曲の音源のキックやスネアが鳴るようにタイミングを調整していく。
主眼はあくまでキックとスネアのタイム感を完コピすること。ブレイクやオカズなどは良きように取り計らう。
精度は上げても上げすぎるということはない。寸分の狂いもないように完コピする。
これを1曲につき最低でも3回ずつ行うことにする。
1回目
パターンを覚える
2回目
音源と自分のタイミングを一致させる
3回目
音源と自分のタイム感を同期させつつキックとスネア以外の楽器に気を配り、他の楽器とどのように絡んでいるか意識してみる
4回目以降
可能な限り精度を高めていく

狙い

右手本位のリズム感から脱却するため。3点の主役はあくまでキックとスネアということを改めて体感する。主役にも関わらず、甘くなりがちなキックとスネアのタイミングの精度を高めるため。これが一番重要かもしれないが、音楽に同期する感覚を養うためでもある。
ドラム以外の楽器を演奏する者あっても、ドラムに対するアプローチをより正確なものにするための手助けになると思われる。

一週間経過・・・・・・

一週間取り組んでみて、気をつけるべきポイントが見えてきたので共有したいと思います。

気をつけるべきポイント

1.アタックを芯で捉えられているか / 手の動きと音源がしっかりと同期できているか
2.キックだけ、またはスネアだけに意識が向いてしまっていないか
3.きちんと音源が聴けているか / 体の動きに気を取られていないか
4.ぎりぎりまで手を動かさないようにしているか
ひとつずつ見ていきます。

1.アタックを芯で捉えられているか / 手の動きと音源がしっかりと同期できているか

この課題の主眼はキックとスネアのタイミングを完コピすることです。パターンをただコピーすることではありません。完コピとは、音源と手の動きを寸分違わずに同期することをいいます。完コピができるということは、自ずと自分の思い通りのタイミングで演奏できるという状態です。
「アタックを芯で捉える」ことについては、言葉にしづらい感覚なのですが、手の動きと音源のタイミングが一致したときに受ける独特のインパクトのようなものがあります。音源のキックやスネアが骨に響く感じといいましょうか。それをぜひとも体感してもらいたいです。

2.キックだけ、またはスネアだけに意識が向いてしまっていないか

タイミングを細かく聴き取ろうとすると、キックだけ、またはスネアだけに意識が向いてしまいがちです。キックとスネアに等しく意識を向けるようにしましょう。さらにキックからスネア、スネアからキックへ至る過程とその「間」も意識していきます。

3.きちんと音源が聴けているか / 体の動きに気を取られていないか

自分の体の動き、または動かし方にばかり意識していると、やはり音への注意力が散漫となります。この課題の裏テーマは「耳を鍛えることです」。注意の割合としては、耳が8割、体が2割というバランスで取り組んでみてください。体を意識しすぎないほうがかえって体が思うように動くものです。

4.ぎりぎりまで手を動かさないようにできているか

体の癖で音を出さないようにするためにぎりぎりまで手を動かさないようにします。さらに打面をヒットするときのスピードを上げるためでもあります。

2週目以降のメニューは?

2週目はもう少し難易度を高くしようと思います。
1回目
パターンを覚える
2回目
音源と自分のタイミングを一致させる
3回目
拍のオモテに合わせて顎を前方に突き出し、ウラに合わせて首をすくめて頭を後方に引っ張るという動きを維持する。そのうえで、両手でキックとスネアのパターンをトレースしていく。その際、頭の前後運動でハットの8分刻みをトレースするような意識をもつ。これを整理すると・・・・キックが右手、スネアが左手、ハットが頭となる。
4回目以降
うまくできなかった部分がなくなるまで繰り返し取り組む

狙い

拍という枠の中にキックスネアの位置をマッピングすることにより、キックがウラなのかオモテなのか、または16分刻みなのかはっきりさせるため。またシンコペーションにつられて拍が取れなくなるという事態を防ぐため。要素を増やすことで、右手だけ、左手だけに集中することがないようにするためでもある。

30日経過・・・・・

本日からセカンドシーズンが始まります。一周目よりも難易度を挙げたいと思おいます。
1回目
“One and Two and Three and Four and”と唱えながら、頭でリズムを取って行きます。オモテで顎を前方へ突き出し、ウラで頭を後方へ引っ込めます。オモテは弛緩、ウラは緊張ということを意識して動かしてください。オモテはパー、ウラはグーです。最初はなかなかスムーズに動かず違和感があるでしょうが、続けているうちに心地よくなってくるはずです。これは独自のリズムの取り方ではなく、黒人音楽ファンの間ではよく知られたリズムの取り方です。黒人音楽は根本的に脱力でリズムを刻んでいます。
2回目
右足で4分を刻みつつ、右手と左手でタイム感を完コピしていきます。その際に、右足の刻みに合わせて”One and Two and Three and Four and”と口で唱えてください。
注意すべきは”Three”を発音するタイミング。英語の発音では”Three”は1シラブルです。ちなみにシラブルとは音節のことです。日本語式の発音だと「スリー」の場合は、「ス」と「リー」で2シラブル。「スリー」以外の「ワン」、「トゥー」、「フォー」はそれぞれ1シラブルなのに対して、「スリー」のみ2シラブルです。
2シラブルの何が問題かというと、オモテのタイミングで「ス」と言ってしまう人と「リー」と言ってしまう人の2パターン発生してしまうことです。
キックスネアチャレンジで扱う曲のキックは2拍目4つめの16分で鳴らされることが多いです。これにつられて、そのタイミングで「ス」と言ってしまいがちです。
ですので、オモテに入ってから、つまり左足が床を踏むタイミングで「ス」というようにしてください。
3回目
右足の刻みを倍にして8分で刻んでいきます。口でカウントを刻むのはなんとなくで良いです。それよりも音源としっかりシンクロしているかということに意識をしっかりと向けてください。
8分で刻むことで、キック及びスネアが1小節を16分割したグリッド上のどこに位置するかしっかりと認識するという狙いがあります。
またおろそかになりがちな8分のパルスをアンサンブル上の縦でしっかりと揃える訓練をするという意図もあります。
4回目以降
おそらくスムーズにはいかないでしょうから、仕上げのつもりでもう一度行ってください。

“30 Days Kick and Snare Challenge”から遠く離れて

巷でディラがどうしただのポリリズムがどうしただのと言われて久しいが、それにに比べて自分のやっていることはなんと泥臭いのだろうと考え込んでしまう。どうしたらリズムキープができるのか。どうしたらクリックに合わせて演奏できるのか。初歩中の初歩だが、これを抜きにして何か新たな試みをしたところで、それはゼロに数字を掛けるようなものだから、どうにもならない。そこからやっていくしかない。
久方ぶりに”30 Days Kick and Snare Challenge”に取り組むにあたり作成したプレイリストの曲を聴いてみるとキックとスネアのタイミングを先取りしつつ自然と頭を前後させてしまう。小学生の頃、テレビで放映された『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作をビデオテープに録画し毎日繰り返し観ていた。たしかマーティーが織田裕二、ドクが三宅裕司のフジテレビ版だったはず。気づくと吹き替えのセリフを諳んじていて自然と声に出して観るようになっていた。これと似たようなことが”30 Days Kick and Snare Challenge”にも起こっている。セリフを諳んじてビデオ見ながら発生によって上書きすることも、キックとスネアを諳んじたうえで音源と体の動きを同期させることも共に身体的な快楽を伴う行為といえよう。そして、自転車の乗り方と同様に忘れようにも忘れられない感覚ではなかろうか。一度その味を覚えてしまったらもう後戻りはできない。リズムの快楽は永遠です。

 

リズムについてのメモ(拍・パルス編)

8/31
・前提
理想の演奏は、”1,2,3,4″とカウントを刻み体内メトロノームを基準にして音を配置していくというものです。現状の演奏を分析すると、まず音の配置ないしパターンを覚えて、それを音ゲーのように良きタイミングで演奏するという具合になっているようです。順番が逆です。「始めにリズムありき」ということを常に意識してください。
音価及びタイム感にこだわりすぎるということはありません。 リフ一発をひたすら繰り返すような音楽をやっている限り、リズムに関わることをおざなりにできません。音価コントロールやタイムコントロールこそが演奏の肝です。 ジェフ・ポーカロでさえ「俺のタイム感はマジでクソ」と言う世界です。コントロールおよびタッチに心血を注いでいきましょう。
音価コントロールといったミクロの視点と併せて、最初に説明したような拍をきっちり取って演奏するというマクロの視点も大切。シンコペーションやアクセントが拍のウラにきても、つられずにきっちり4拍子を取れるようにしましょう。
・課題
体内メトロノームを筋肉に染み込ませてください。これに関しては自転車の乗り方と同様、一度身につけたら死ぬまで失われることのない感覚です。演奏における基礎の基礎。料理における器。器がないとどうにもなりません。器のないラーメンを想像してみてください。どうやってそれを食べろというのですか。
体内メトロノームを養うには音楽に合わせて首を突き出して引っ込めるという往復運動をひたすら繰り返すのがいちばん手っ取り早いと思います。
体幹でリズムを取ることでリズムのオモテとウラの相互関係を体感的に理解していきましょう。まず〈リズムのオモテとウラ=筋肉の弛緩と収縮の繰り返し=反復運動〉と考えます。 ブランコ、振り子の動きと一緒です。一度動き出したら静止することはありません。さらに音を点で捉えないようにします。
なんとなく鼻歌を歌っているときに、どこからともなく4拍子のクリックが自然に聴こえてきて、頭も勝手に動いてしまうぐらいになるまで徹底的に取り組みましょう。
9/1
・課題
1.「体内クリック=1拍×4」を基準にして演奏する
ドラムでいうとカウントから実際の演奏に移行するときやブレイクに入ったときにテンポがよれがちです。それは体内クリックが絶対的な基準になっていないからではないでしょうか。
高校生の頃、DJの真似事をしているときに、色んな曲を”1,2,3,4″とカウントを取りながら聴いた時期がありました。そのときにリズムに対する感覚が鋭くなったという経験があります。
絶対的な基準となる体内クリックを開発するために、好きな音楽(踊れるようなものが良し)に合わせて、体を使い”1,2,3,4″とリズムを取ると良いです。全然しんどくないしやってみたら良いと思います。
2.リズムを静止した点で捉えない
音楽を聴きながらリズムに合わせてカウントをとるときに、リズムを静止した点で捉えないことが重要です。必ず首や腰など筋肉を動かしてリズムを取りましょう。リズムを筋肉の弛緩と収縮という一連の動きの中で捉えることが大事です。
3.自分もリズムにのって演奏する
「リズムを静止した点で捉えない」ことにも関わってきますが、いわゆる「音ゲー的な演奏」と「音楽的な演奏」の違いは、演奏する人が自らリズムにのっているかのっていないかの違いではないでしょうか。「俺がリズムを刻むんだ!」「俺がリズムを生み出すんだ!」という具合にガチガチにコントロールしようとするのではなく、流れるプールに身を預けるように、自らリズムの流れに乗っかって演奏すると良いです。演奏しつつ自分がお客さんになった気持ちでやってみてください。
4.リズムの組み立て方を考える
すでにカットされた一切れのピザを色んな所から適当に複数枚用意し、それを一つにまとめたところでまん丸のピザにはなりません。リズムに関しても同様に、小さい単位のフレーズをただなんとなく繰り返すだけでは踊りたくなるようなリズムは描けません。
まず一枚の丸いピザがあり、それを4等分すると考えてみてください。それをさらに2等分して8分割、再び2等分して16分割するというプロセスを踏んでいきましょう。3連系も同様です。同じ周期ないしスパンで音が鳴らされることが踊れるリズムにとって大事です。
9/2
すでに首や背筋などの体幹を使って4分でリズムを取ることの重要性を説きましたが、「なんで?」ということがイマイチ明確でなかったので、補足したいと思います。
前回のメモでも似たようなことを書きましたが、なぜ体幹でリズムを取るのかといえば、リズムを点で捉えないためです。体幹は文字どおり体の幹です。どっしり安定していますが、同時に小回りが利かないともいえます。しかし、この小回りが利かないことがリズムを点ではなく円運動の軌道として捉えることに適しているのではないかと思うのです。
なぜリズムを円運動の軌道として捉えるのかといえば、カクカクした硬い演奏ではなく柔らかい演奏にするためです。柔らかい演奏とはしなやかで躍動感があり踊りやすい演奏といえるでしょう。直線的な往復運動はエネルギーのロスが大きいです。適当な例といえるかどうか不明ですが、車の動きで例えてみます。
AとBという2つの地点があります。AとBの間を車を運転して往復するとします。往復するにあたり、前進とバックを駆使して往復するのと、AとBを直径として結んだ円の上を走行するのとでは、どちらが楽でスムーズでしょうか。
他にも理由はあります。一度ついてしまった癖は抜けにくいということと一緒ですが、脳ではなく体に染み込ませたほうがより忘れにくいというか体から抜けにくいので、体幹に染み込ませることが大事です。例えば声を出してカウントすることはすごく良いと思います。ただひとつ気がかりなのは声でカウントを取っているとシンコペーションなどに釣られて「ワンッアトゥーーウ~ウ・・スリッ・・・フォーーオ!」といった具合に間隔が崩れてしまいがちなことです(自分にそういう傾向があります)。そういう理由で、声を出すことは必ず体幹とセットにしてください。
9/29
演奏が走ってしまうのは気が急いているために休符に余裕がなくなり、ドミノ倒しのような演奏をしてしまうからでしょう。その対策として音を出したら出した分だけ絶対に物理的な反動があると考えみてください。バランスボールに座ってぴょんぴょんハネているような心づもりで演奏してみてはどうでしょう。反動は絶対に殺さないでください。むしろ反動を利用して次の音を出していくというイメージです。合理的な身体運用によって発せられた音にこそ心地よさが宿るものです。
10/7
オモテとウラの役割を感覚的に掴む。そのために・・・
・首でリズムを取ってみる
音楽 (4分の4拍子のもの)に合わせて「1 and 2 and 3 and 4 and…」とカウントしていきます。顎を突き出すのは拍のオモテです。顎を突き出すと言っても力(リキ)を込めて突き出すのではなくて、首の力を抜いてダランと前方に顎が落ちた状態にすると良いでしょう。顎を引っ込めるのはandの部分、つまり拍のウラです。このとき、うなじの下あたりにクッと力を入れ、顎を引っ込めます。顎を引っ込めたら今度は次の拍のオモテと顎を突き出すタイミングが合うように力を抜きます。要するに筋肉の弛緩と緊張あるいは伸展と収縮でリズムを作っていくという感覚です。ちなみにこの方法は七類誠一郎が書いた「黒人リズム感の秘密」という本の受け売りです。
大事なのは、「オモテが脱力/ウラが緊張」という役割を担っているということです。ウラで溜めた力をオモテで解放するという感じです。また、キレ=脱力、タメ=緊張ということも意識してみてください。あと、これをやるときに首だけを意識して背筋と腹筋を使わずに行うとたぶん首痛めます。背骨ごと動かしていくと良いです。
最初は力が入ってしまってスムーズにいかないと思いますが、やっているとそのうちコツがつかめてくるはずです。音楽に合わせて「1 and 2 and 3 and 4 and…」と声を出しながら首でリズムを取っていくと感覚がつかめると思います。ドラムの音を首に共鳴させる意識でやると尚良し。コツを掴んできたら動きを大きくしていくと円運動の中で点を捉える感覚が養われてくると思われます。
最初に感覚を掴むためにはBPM100以下の90年代東海岸ヒップホップの曲に合わせてやるのが良いでしょう。90年代東海岸ヒップホップのビートはウラ(=and)で鳴るHHがよく目立つので、わかりやすいかと思います。

が、その前に・・・・
ウラを取るシンプルな練習に取り組むほうがより即効性があると思われます。ウラが取れてないからなかなか4分が揃わないのでは…と思います。自分でやってみて思ったのは結構ウラを基準にして次に来るオモテのタイミングを読んでいるところがあるなぁ、ということです。というわけで、クリックを鳴らしてウラに手拍子を入れるという練習を小一時間ぐらいやったら効果があるのではないでしょうか。
ついでに、以下のようなことも頭の片隅に入れておいてください。
「の」の字を描くようにリズムを刻むべしという話があります。実際に自分が演奏する場面に限らず、音楽を聴く場合においても体を使って「の」を描くように聴いてみると良いでしょう。先日の首の動きでリズムを取るのと一緒です。自分が聴いていて気持ち良いと感じるのは同じ形の「の」が延々と続いていくような演奏です。つまり4分の刻みが、イーブンではないにしろ、一定の間隔を保ったまま1小節単位で繰り返される演奏です。
英語で”in the pocket”という表現がありますが、これは同じ形の「の」が描けているような状態をそう言うのではないかと思います。予想通りのタイミングで次の音が来るから「気持ち良いなぁ!」って感じるのではないでしょうか。校庭に「うんてい」っていう遊具がありますね。あの遊具の掴む部分の間隔がランダムだったらとっても気持ちが悪いはずです。一定の間隔でスイスイスイーっと行けるからこそ遊んでいて楽しいのだと思のですが、どうでしょう。
10/10
楽器を演奏する人に対して「裏拍を取れるようになることが大事」と良く言いますが、その真の重要さが沁みてきた昨今です。裏拍を取るというか、次の表拍への折り返し地点をコントロールできるようになることが大事だという気がします。
Until You Come Back To Me (That’s What I’m Gonna Do) – Aretha Franklin
Rock Steady – Aretha Franklin
Funky Nassau, Pts. 1 & 2 – The Beginning Of The End
Harlem River Drive – Bobbi Humphrey
Teasin’ – Cornell Dupree
Feel Like Makin’ Love – D’Angelo
Wicki Wacky – The Fatback Band
Jungle Boogie – Kool & The Gang
Feel Like Makin’ Love – Marlena Shaw
Runaway – The Salsoul Orchestra Feat. Loleatta Holloway
We Are Family – Sister Sledge
Peg – Steely Dan
I Got The News – Steely Dan
メトロノームで練習してばかりでは味気ないと思うので、練習用に裏拍のハイハットが目立つ曲を改めて集めてみました。これらの音源を聴きながら口ドラムでコピって感覚を覚えてしまうのが早いのではないでしょうか。
これはあくまで持論ですが、腕や足での練習を中心にしてしまうと腕や足のコントロールの精度が基準となってしまいそれ以上の正確さがなかなか掴めないと思われます。音を出すことに関しては手足よりも口のほうがおそらく器用です。カタカナっぽく「ドン・チッ・タン・チッ」と発声するのではなく、英語の子音だけを使って発音していくとアタックが強調されてベターかと思われます。タンギングの感覚も養われて一石二鳥ではありませんか。寝ながらでもできるし。
バスケのドリブルで例えると、ボールが床に当たって跳ね返る瞬間がオモテだとすれば、ウラはボールを手のひらに収めた後、運動エネルギーの向きが上から下に変える瞬間といえましょう。音楽をバスケの選手、自分の頭をボールだと思いこんで、思いっきりドリブルされ続け、その感覚をトラウマ並みに体に染み込ませてください。機械のように正確なリズムは本来的にとても気持ちの良いものだと思うので、気持ち良さを追求するつもりでやったら良いと思います。
かようにリズムというものは根本的に「寄せては返すもの」だと思い込んでください。力を加えたらその力を跳ね返すだけの弾力性をもった物体こそがリズムの正体です。あえて雑に言い切ってしまいましょう。
その弾力の折り返し地点である裏拍をいついかなる状況においても意識していなければなりません。ウラを意識しないで演奏することは息を止めて暮らすようなものだと思ってください。 まさに命取りです。心臓だってオモテとウラを刻んでいるわけで、どちらかが欠けたらそれはもう心臓停止です。
10/17
以下のリズムにおける基礎あるいは土台的な部分をなんとしてでも身につけなければいけません。
・リズムにはオモテとウラがある
・リズムの基本型は4分の4拍子
・リズムは点でなくて円で構成される
11/15
緊張するとやはり体が固くなって、弛緩と収縮、緊張と緩和のダイナミクスがなくなる気がします。グラビアアイドルが笑顔で砂浜を走っているのだけど、揺れるはずのところがまったく揺れてないというような違和感があります。
・拍問題について
それがロックであろうとソウルであろうとジャズであろうと、広義の「ポップス」と呼ばれる音楽を聴くと人は誰しも必ず拍を取って聴いてしまうと考えてください。塩を舐めたらしょっぱいと感じる、サウナに入ったら暑いと感じる、頬っぺたを叩かれたら痛いと感じるといった具合に、音楽を聴いたら誰もが拍を感じてしまうものなのです。これはもう大前提です。ポップスがそういう前提を元にデザインされていることは明らかです。嘘でも良いのでそのような意識をもって今一度音楽を聴いてみてください。
とにかく拍を意識することです。それは音楽に拍という補助線を引いてそこに描かれているものを明らかにしていく作業といえるかもしれません。例えば企業のロゴに黄金比がよく使われるというのは有名な話ですが、実際に黄金比のガイドラインを当てはめてそのことを明示するのに似たようなことだと思われます。
リズムはその人固有のものではなくて共有物です。自分独自の感覚と長年にわたって培われてきたリズムの歴史を戦わせて、それに勝利するなんてことはありえません。そんな気がしませんか。
前提を取りこぼしたまま取り組んでも空回りしてしまいがちです。リズムは他人のためにあるものだと考えてください。他人の耳を意識してみましょう。
12/01
・16ビートの感覚を覚える
とにもかくにも真似することから始めましょう。とりあえずシェウン・クティというフェラ・クティの息子の曲を聴いてみてください。モダンで聴きやすいアフロビートとなっております。

こちらの音源に合わせてひたすら16分音符を両手で刻んでいきます。できる限り小音量で。ポイントはこれらの曲を演奏する人たちが共有している16分刻みに焦点を合わせることです。自分を溶かして流し込むようなイメージです。
大縄跳びが想像以上に続いて思わず笑ってしまうときのような高揚が得られたら自分もその16分刻みが共有できている証拠です。ボーカルおよびギター、ホーン、パーカッションなど各楽器の奏でるフレーズが自分の刻む16分音符の上を気持ち良く通り過ぎていくような感覚を味わってみてください。
12/05
・シェウン・クティの音楽に合わせて16ビートを会得する
まず前提として、シェウン・クティの音楽は16分音符というサブディビジョンで構成されています。ドラム、パーカッション、ベース、ギター、ホーン、コーラス、ボーカルが16分音符を主軸としたフレーズを演奏しており、彼らの間では16分刻みが完全に共有されています。自ら16分を刻みつつシェウン・クティの音楽を聴くことは、彼らと16分のサブディビジョンを共有することでもあります。サブディビジョンをシンクロさせると言っても良いでしょう。上手くいくと忘我状態というかトランス状態になります。アドレナリンが出てくるような気がします。
これを継続的にやった後に別の音楽を聴いてみるとその音楽の構図が見えてくるような気がしてきます。つまり特定のフレーズが16分刻みで聴こえて来るというようなことです。16分音符のグリッドが見えるというか。デッサンを学んでいる美大志望者が我々と同じ風景を見たとしても、 彼らの目には一点透視図法的な補助線が見えていると思われますが(実際は知りません)、そういうようなことです。
リズムの補助線が見えるか否かがプロとアマを大きく分かつ要素だと言って過言ではないです。例えばラップがどのように聴こえるかがその分水嶺となるといえるでしょう。ただの英語の早口に聴こえる場合はリズムが見えていない状態で、より音楽的というかリズムを奏でているように聴こえるのなら見えている証拠です。
12/10
・シェウン・クティに学ぶ16分音符の刻み方について
しつこいようですが、合わせるというよりも自分を溶かすという感覚でやってみましょう。いかにシンクロさせるかということが課題です。もう少し負荷をかけみたいと思います。
1.左手からスタートさせる。
2.頭を前後させて4分を刻む。(なぜ頭でやるかというと頭を後ろに引っ込めるときウラが刻めるからです)
「音源のモノマネばかりしていたらおれの個性がなくなってしまうじゃないか!」と考える人もいるかもしれませんが、モノマネしてみて似なかった部分がその人の個性だというふうに大滝詠一は言いました。光浦靖子もアメトークで何度もやろうとして頑張ったけどどうしてもできなかったことがその人の持ち味になるというようなこと言っていました。何にせよ取り組んでみないことには何も生まれないのでとりあえずやってみることから始めてみましょう。
1/13
細野晴臣がライブでリズム隊を務める若手二人に対していつも「豆腐を切るように演奏しろ」ということを言っているそうです。豆腐を崩してしまわぬよう力まず丁寧に、ということでしょう。
70年前半の音楽にあって現代の音楽でなかなかお目にかかれないもの、それは8ビートにかすかに混じるシャッフルの感覚ではないでしょうか。スイングする感じといいましょうか。字義通り捉えて頭で考えていても一生感覚は掴めないので、虚心坦懐に曲そのものに耳を傾けなくてはいけません。
プラス、シャッフルの会得も急務です。たとえば”Heat Wave”などモータウンのシャッフルなど絶品。出汁が効いています。そろそろ唐辛子や山椒などでごまかすことは控えたいです。現実的な話をすると音と音の間にちゃんと隙間があって聴いていて息苦しくならない。そして滑らか。呼吸するかのような演奏をしていきたいところです。
1/16
【サブディビジョンの宿題】
・サブディビジョンとは?
演奏者が感じている拍を細分化する最小単位のことをサブディビジョンと呼びます。
サブディビジョンとは方眼紙の罫線のようなもので、演奏者はこの罫線をもとに音の配置を決めていきます。例えドラマーがキックとスネアのみで「ドン・タン・ドドン・タン」とだけ鳴らしている場合であっても1拍を4等分した16分のサブディビジョンを感じている可能性があります。また、ブレイクなどで一旦演奏が止まったとしてもサブディビジョンは体内を流れ続けています。実際に聴こえている音がリズムの全てではないということです。
サブディビジョンはエンジンの動力を伝えるギヤのようなものです。現状はギヤがないのでエンジンが空回りしている状態です。他の楽器の演奏者からしてみると取っ掛かりがないし、反対に他人の演奏から絡めば良いのか不明なのではないかと思います。
・サブディビジョンの読み取り方
ここではひとまずサブディビジョンの最小単位を16分とします。16分音符だからといって1拍を4等分したイーブンの16分音符とは限りません。「タッカタッカタッカタッカ」といった具合に16分のウラが少しだけハネている場合もあります。「ターカターカターカターカ」のようにエグくハネていることもあります。
サブディビジョンの構造をわかりやすく図式的に説明すると、16分のオモテとウラの音価の比率によってサブディビジョンの構造が決定されると言えます。オモテ:ウラ=52:48みたいなことです。実際はこのようにシンプルではありませんが。
次にサブディビジョンの読み取り方です。まず課題曲を流しながら、テーブルや膝をパーカッション代わりにして、右手の人差し指でオモテの16分を刻み、左手の人差し指でウラの16分を刻んでいきます。その際何にタイミングを合わせるかといえば基本的にはドラムです。右手はハイハットに合わせ、左手はキックやスネアのゴーストノートを基準に考える。右手だけでやったほうがわかりやすい場合もあります。音楽に波長を合わせて両手でリズムを刻みながらサブディビジョンの平均値をとっていきます。
ドラムだけではなく、他の楽器やボーカルも同様にサブディビジョンを感じながら演奏しているはずなので、そちらも参考すると良いでしょう。またはドラムのオカズでサブディビジョンが音として表出することもあります。
音を追いかけるという感覚ではなく、歩調を合わせるという感覚で取組んでみてください。ギヤがかっちりとはまるように音楽と膝やテーブルを叩く音を溶かしていきます。
また大事なのは4分と8分のサブディビジョンもしっかりと意識することです。フラクタルのイメージです。
課題曲はこちら

1/17
【サブディビジョンの宿題の補足】
・サブディビジョンを点ではなく波で捉えてパルスを意識する
サブディビジョンを点で取ってしまえば従来のリズム解釈を踏襲するものとなってしまい元の木阿弥です。この宿題をこなす意味がありません。サビディビジョンを波のような線で結んだものをパルスを呼びたいと思います。
パルスがどのような形をしているか考えていきましょう。初めに肺から吐き出される二酸化炭素に色がついているという前提で、ゆっくりと一定の速さで口から息を吐いていきます。その際に「ホワンホワンホワンホワン」と発音するつもりで口の形を変えていきます。そうすると口から吐き出された色付き二酸化炭素はパンでいうコルネのような形になると思います。この波形こそがサブディビジョンです。リズムを構成するための土台となります。惑星にとっての軌道のようなものです。
・パルスを立体的に捉えよう
パルスを波形として捉えることに関連することですが、パルスを二次元的に捉えると演奏も平坦で面白みのないものになってしまいがちです。 「幅」「奥行き」「高さ」のという3次元の空間の中でパルスがどのように機能しているか意識してください。これは音価とアクセントの問題に属するのかもしれませんが。
・テーブルやパッドを叩くのではなく、手のひらで太ももやお腹など体の一部を叩こう
なぜかというと手のひらが体の一部に当たるという物理的な作用を空気の振動、つまり音として捉えるため。手を主体と考えると体の一部は客体となります。これをそのまま演奏者と聴衆の関係に置き換えて考えてください。こうすることで、演奏者と聴衆の二役を一人でこなして、客体として受け取った感覚を主体として演奏にフィードバックさせることができるのではないかと考えました。音が空気を介した物理的な作用であることを意識するために体を叩いてみてください。
・シェウン・クティの16分イーブンの習得も併せて行おう
サブディビジョンを計測するための「ものさし」をより正確なものにするため。シェウン・クティもややアフロっぽい訛りの中で16分を刻んでいるので、機械的なイーブンではないことに注意してください。
・手のひらを枝、体幹を幹と考えよう
サブディビジョンは拍を分割したものと考えます。木の枝というものは、あくまで幹から派生したものです。逆もまたしかりで、枝が結合して幹になるわけではありません。サブディビジョンはあくまで枝。大きく4分を取る体幹を細分化したものが16分を刻む手のひらになるわけです。
よく使う例えですが、一切れ分のピザを先に作って後からそれを複数くっつけても丸いピザにならないように、16分一個を4個くっつけたところで1拍にはなりません。たしかに理論上はなりますが、わざわざそんなことを不自然で面倒なことをする必要はありません。まず丸いピザを作ってから8等分ないし16等分しましょう。
具体的なことを言えば、腰や首など固定した状態で手のひらを動かしていけないということです。必ず腰や首などで4分を取って16分を刻みましょう。また、反対に枝の動きが幹に与える影響ということも意識してください。動きの波が体幹から手への一方通行ではないことがわかるでしょう。そこからファンク特有の16分音符の役割を推測することも可能なはずです。だからこそ体幹は動かし続けてください。
・シンクロさせなきゃ意味がない
サブディビジョンを読み取る作業は繊細さが必要です。「合わせてるつもり」という思い込みを殺していかなくてはいけません。よし合ったと思って翌日やってみるとその認識が甘かったことに気づくことがあります。徐々に精度をあげていきましょう。スマップのダンスのようにバラバラではいけません。シンジとアスカのようにシンクロさせてください。自我を押し殺して音源に溶かすつもりで16分を刻みましょう。必ずギヤががっちり噛み合う瞬間があります。是非このときの快感を味わってください。脳内麻薬が出ること請け合いです。
・ヒントはドラムのオカズやシンコペーションにあり
ブラックミュージックの場合、単純な8ビートに聴こえはするもののドラマーは若干ハネた16分のサブディビジョンを感じながら叩いている場合が多いです。なぜそのことがわかるかというと16分音符で構成させたオカズが微妙にハネていたりするからです。16分ウラでかすかに鳴っているゴーストノートがハネている場合もあるし、気まぐれで踏まれたシンコペートしたキックが若干ハネている場合があるからです。さらに精度があがっていくとハットの強弱でなんとなくわかったりします。そもそも、「こういうパルスのフィールで演奏していくよ!」と演奏者とお客さんにわかりやすく提示してあげるのがドラマーの役目だと思います。
・この宿題は休符も「音」として捉える練習
休符はただの無音ではありません。リズムを構成する大切な要素です。今までは音ゲーのようにそれらしいところでボタンを押すといった二進法ないしデジタルな捉え方しかしてこなかったと思いますが、サブディビジョンを読み取るという練習を通じて休符の役割がなんとなくわかってくると思います。その役割を言葉にしようとすると難しいのですが…この練習は休符に音をつけて音符として捉え直すというものです。音が鳴っていないところで何が起こっているのか検証する作業ともいえます。肌で感じることはできても目では見ることができない「風」というものを可視化するために屋根の上に風見鶏を設置したり狼煙をあげたりするといったことと同じです。
・強弱も大事
手のひらで16分を刻むときに曲に適した曲弱をつけてみてください。強弱というよりは音のベクトル及びスピードと言った方が正確かもしれません。音が描く放物線ないし波形にも留意して取り組んでください。結局サブディビジョンのみならず音の強弱も音の放物線ないし波形を構成する要素となっているような気がします。
・「この曲に一番適した16分刻みはどのようなものか」を考えてみる
ある日、アレサのプロデューサーからスタジオに呼び出されたとします。そのプロデューサーなる人物に「”Until You Come Back To Me”に16分刻みのタンバリンが欲しいから叩いて」と言われたとして、その際にどういうタンバリンを付け足すかを考えれば良いのです。もしそこで「はいはい、16分っすね」などと言って「シャカシャカシャカシャカ」とバカの一つ覚えでイーブンの16分を叩いたりしたもんなら大顰蹙ですよね。その曲ごとに適したサブディビジョンないしフィール及びニュアンスを汲み取る能力が必要です。よくいう「リズムリテラシー」とはそういった能力のことを言います。
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【サブディビジョンの宿題の補足その2】
両手を使ってサブディビジョンを刻むとき、振り上げた手で太ももを叩くまで、つまり手を上から下へ降ろす動きだけを意識するのではなく、叩いてから振り上げるまで、つまり手を下から上へ持ち上げる動きにも注意を払ってください。
演奏が「つまって」聞こえるのはウラとオモテというコンセプトが理解できていないからと以前に言いました。両手でサブディビジョンを刻む際、右手がオモテ、左手がウラという役割を担うことになります。右手はオモテだけ刻めばいいかと言えばそうではないです。
右手による一連の動きを高さという視点で見た場合、右手が一番低い位置に来るのは太ももを叩くタイミングとなります。これがオモテのタイミングです。このオモテのタイミングさえあっていればそれで良しということではありません。右手が一番高い位置に来る瞬間をウラのタイミングに合わせることも大事です。
もう少し説明します。太ももを叩いた後、手を振り上げて一番高い位置まであげます。この瞬間がウラのタイミングとなるように意識してしっかりと手の高さ及びスピードを調整することが大事です。感覚的にわかりづらいということであれば、左手を右手の上に用意しておいて、右手をウラのタミングで振り上げたときに右手の甲が左手に当たるようにして、ウラが音として鳴るようにしてみてください。このときバスケのドリブルの要領で左手のスナップを利かせて軽く右手を叩いてやると、オモテとウラの関係がなんとなくわかると思われます。
ついでに右手だけでウラをきちんと音にとして出す方法も説明します。まず手首の位置の高低をウラオモテとして捉えます。指先がなるべく太ももから離れないように16分のオモテを刻んでいきます。そうするとウラのタイミングで手首の位置を高くしたときに、指先がズボンに触れているためにズボンが擦れる音がします。これをウラの音として刻んでいきます。わかりますか?この方法は右手が太もも触れている時間の長さをそのまま音価として捉えることができるので、より感覚を鍛えることができます。
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実践的な補足をします。サブディビジョンの宿題を行う際は、太ももを叩く音をできる限り小さくして、音源のメロディー、フレーズ、リズムパターンと自分の刻むサブディビジョンが重なる部分がきちんとシンクロしてるかどうかに注意することが大事です。もはや音が出てなくてもいいぐらいです。太ももを叩いたときの刺激だけで十分だと思います。太ももにサンプラーのパッドがついていると思い込んで、自分がパッドを押した瞬間に音源のキックなりスネアなりハットなり楽器のアタックが鳴るようにタイミングを調整してみてください。手をパーにするよりはマウスを握るときのように軽く手を丸め、指の腹で太ももを叩くと良いでしょう。ドラム音源の入ったサンプラーを自分がコントロールしていると思い込んでやってみてください。最初はキック、スネア、ハットのアタックをちゃんと聴いてから合わせていくと良いかもしれません。「このへんかな?」ってポイントよりもやや後ろを意識しつつ。
あと、4分、8分でそれぞれ一回ずつ刻んだのちに16分刻み取り組むと良いかもしれません。分割というコンセプトを意識するために。何もしないでただ聴くという行為も絶対にしたほうが良いです。
サブディビジョンの宿題。今回はテンポの遅い曲にチャレンジ。

ドラムはポーカロさんです。3拍目直前のシンコペートしたキックが左手のタイミングにしっかり合うように調整してください。16分のウラはたぶん思っているよりも後ろにあります。念のために補足しておきますが、スネアが鳴るのは2拍目および4拍目です。
テンポの遅い曲なので、指先でちょこちょこサブディビジョンを刻むより、なるべく手を高い位置まで上げて弧を描くようにサブディビジョンを刻むと良いような気がします。特にジャストよりもやや後ろにあるスネアのタイミングで太ももを叩くときは大きな弧を描くと良いでしょう。
思い込みかもしれませんが自分で実証済みなので、毎日精度を上げていくつもりで取り組んでいったら成果が出るように思います。今取り組んでいることは言うなれば模写の世界です。自分の描いた絵をシビアな目で検証してちょっとずつ修正していくことが大事です。右手左手を入れ替えて右手でウラ、左手でオモテを刻むと左手のコントロールの疑わしさに気づいたりもします。ボケ防止にもなりそう。
・サブディビジョンの宿題その前に【初級編】
メトロームを使ってやったのち、課題曲にも合わせてやってみてください。生きたサブディビジョン感覚を身につけるためです。

  1. 4分音符で太ももを叩いてみよう
  2. 太ももを叩くタイミングは”1, 2, 3, 4”とカウントするタイミングです。注意してほしいのは太ももを叩いたらなるべくそのまま手のひらを太ももに押し付けたままにしておくということです。そのときに、力を抜かず手を太ももに押しつけて圧をかけてください。そして、次の拍の直前で手を振り上げて次の拍の頭で太ももを叩きます。振り上げる動作はその曲に適したタイミングで行ってください。その繰り返しです。なんのためのやるかといったら4分音符の音価を身につけるためです。両手でやってみるのもひとつの手であると思われます。

  3. 8分のウラで太ももから手を離してみよう
  4. 太ももを叩くタイミングはその1と一緒ですが、今度は8分のウラのタイミングで素早く手を太ももから離してみてください。さらに8分のウラのタイミングになるまで手は太ももに押し付けていてください。なんのためにやるかといったらウラの音価を感じるためです。

  5. 8分音符を刻んでみよう
  6. 今度は8分を刻んでみます。その1でやったように叩いたらそのまま手を太ももに次の音符までつけておくようにしてください。片手でやるのは難しいので今回は両手でやってみましょう。歩くときと同じ要領です。片方の足が地面から上がっているとき、もう一方の足はどうなっていますか。地面についていますよね。このような具合で両手をつかって8分音符を刻んでみてください。

  7. 16分のウラで太ももから手を離してみよう
  8. その2でやってことをさらに2等分してみます。その3とは違い、両手ともに空中にある瞬間ができます。その瞬間が16分のウラとなります。腰やお腹あたりから16分の波を派生させるつもりでやるとうまくいかもしれません。

  9. 両手で16分を刻んでみよう
    文字通りです。特に言うべきことはありません。4小節を1タームとしてその1からその5までなんども繰り返してみてください。

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・オモテとウラの役割を認識するための補足
ダウンビート・アップビートという言葉があります。ダウンビートはいわゆるオモテのことです。これは有名な話ですが、指揮者の指揮棒をオモテで振り下ろすことに由来しているそうです。他にも強拍という言い方をすることもあります。強という字をアクセントという意味合いにおいて解釈すると話がこんがらがるのでそのように解釈しないでください。一方、アップビートはダウンビートの反対で、ウラのことを言います。日本語にすると弱拍です。今回はダウンビートとアップビートという言葉が実際の演奏に活きるように拡大解釈していきたいと思います。
以前も話したことがあると思いますが、緊張と緩和という対比に当てはめたときに、ダウンビートは緩和、アップビートは緊張となります。これは力の入れ具合についての話で
ダウンビート・アップビートというものを意識しながら手のひらを使って8分刻みで4拍子をカウントしていきたいと思います。よくある”1 and 2 and 3 and 4 and”というカウントです。
ダウンビートで文字通り腕を落とし、手のひらで太ももを叩いてみます。このとき気をつけるのは、ダウンビートは緩和であるので、力を抜かなければならないということです。ここでニュートンのリンゴを思い出してください。我々が生きているこの空間では引力が働いています。腕を上げた後、力を抜けば腕は重力に従って自然と下に落ちていきます。これは別に力の必要な動作ではありません。筋肉の状態を緊張から緩和に移すだけで良いことです。この要領で、手のひらで太ももを打ってみましょう。打つというよりは落とすという意識でやると良いでしょう。
反対にアップビートでは腕を振り上げるわけですから、重力に逆らって力を入れてやる必要があります。筋肉を緊張状態にするということです。
力むと演奏が硬くなるというようなことをここ最近話していますが、これはきっとそのことにも関連する話です。
これらのことに注意して再び、首でリズムを取る訓練に取り組んでみると良いでしょう。
まず首から力を抜いて顎をだらりと前方に突き出します。生きていて良いことなど何一つないとった様子のいかにもしょぼくれた学生といった感じのポーズです。これがオモテのときのポーズとなります。次に首に力を入れて顎を後方にひっこめます。監督に試合中のミスを説教されて体がカチカチになっている高校球児といった感じのポーズです。これがウラのときのポーズです。これをリズムに合わせて繰り返していきます。
何のために行うかといえば体幹で大きくリズムを取るためです。注意してほしいのは力の入れ具合及び抜き具合のピークをウラオモテのタイミングにきちんと合わせるということです。また必ずウラのポーズが始めてください。オモテのポーズから始めてもリズムの起点が生まれません。ただ力が抜けている状態に過ぎずこれは「動作」ではありません。ピークがないわけで起点になりません。一方ウラのポーズは力を入れる「動作」なので、力のピークというものがあり、それがリズムの起点となります。
首でリズムを取ることの良いことは自分の出した音を基準にしないということです。従来の「とりあえず音を出してそれを基準に適宜間を取って積み上げていく」ようなリズム感を払拭する可能性が感じられます。
この練習にはアレサの”Until You Come Back To Me”が適しているでしょう。なぜなら8分のウラでハットが鋭く鳴っているからです。これをガイドに取り組んでみてください。ガチガチにコントロールしようとするときっとうまくいかないでしょうから、音楽に体を預けるつもりでやってみてください。他人のライブを見ているつもりで。
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JBはバンドのメンバーに”Give me the one!”とよく叫んでいたそうです。”The One”というのは1拍目のことです。”Sex Machine”を聴くとよくわかると思うんですが、1拍目のキックが他のキックよりも大きいですよね。これは私なりの解釈ですが、JBの音楽における1拍目はリズムの起点であり、同時にリズムの目標地点という気がします。次の1拍目を目掛けて2、3、4拍目を演奏していくといった感じです。言い換えれば1拍目で時計の針が一周するという考え方です。従来の目分量で拍を積み重ねていくという方法では1拍目は揃わないし、JBの音楽のようにシマリのあるループ感が出せないでしょう。
リズムを時計に置き換えて考えてみます。1時間が1小節だとすると、長針が1拍目で0分、2拍目で15分、3拍目で30分、4拍目で45分の目盛の上を通り過ぎていくようにリズムを刻まなくてはいけません。1時間を4等分する感覚が必要です。今までの感覚は、4等分という意識がないために、だいたい体感時間で15分ぐらいやったから2拍目にいくというような感じになっているのではないでしょうか。このような拍の取り方を実際の時間にたとえてみると2拍目から16分、33分、48分と続いていって、1小節が一周して1拍目に来た時に、本来長針が0分を指し示していなければいけないところが、5分前後を示しているといった印象があります。
なぜこのような考え方が大事かといえば、リズムはみんな共有物だからです。時計というのは皆の指標であって、ある誰かの個人のものではありません。リズムはみんなが踊るための指針にならなくてはなりません。簡単に言ってしまえば、リズム時計になってくださいということです。
ウラとオモテということに関しても補足しておきます。ウラというのはただのタイミングや場所を指したものではなく「拍の折り返し地点」であると考えてください。1拍を左右対称の山で表したときの頂点にくるのがウラです。左右対称の山とは二次関数のグラフみたいな形をした山のことです。現状は「だいたい8分音符一個分やりました。はい、ウラが来ました」といった感じになっているような気がします。拍が山になっておらず平面上に点をなんとなく落として拍のようなものを作っている感じです。つまり2拍目の位置を見越した上でウラが取れていないということです。
1拍という長さにおける始点と終点がない限り二等分はできないし山は左右対称にはなりません。次の拍の頭を目指して左右対称の山を越える感覚が大切です。山の頂点までいったら位置エネルギーを運動エネルギーに変えて斜面を重力に従ってただ滑っていくような感覚が重要です。
理想は振り子のリズムです。振り子が一番低い位置に来るのがオモテで、一番高い位置に来るときがウラです。やはり重力というものを意識すると良いでしょう。重力に従うのがオモテ、重力に反発するのがウラです。この緊張と緩和、オンとオフが音楽に推進力を与えていると思ってください。
話が煩雑になってきたのでまとめます。まず4分音符の長さ=1拍の長さをしっかりと認識することが大事です。そのためには1小節を4等分するという感覚も会得する必要があります。それには”On the One”を合言葉にするJBの音楽がもってこいです。

4拍子をきっちり取ることを意識しつつ、ウラとオモテの役割をしっかりと認識することも大事です。敢えてウラにオモテとは別の役割を持たせる理由は、オモテを際立たせるため、なんでしょうか。この辺は言葉にしづらいのですが、踊れる音楽はウラとオモテがある、という一点だけは間違いありません。しかし、この感覚は万人共通のものではないとは思います。
4分をきっちり取れるようになったら、その縮尺を4分の1に縮小するだけで16分が美しく刻めるようになるはずです。フラクタルとかコッホ曲線で画像検索するとそのイメージ図がいっぱい出てくるので、参考に検索してみると良いと思います。
「習うより慣れろ」というわけで、JBの”On The One”よろしく「1 and 2 and 3 and 4 and」がひとまとまりということを意識しつつ、例の頭で4分を取る練習をしてみてください。首の筋肉及び上半身の筋肉の収縮と伸展でウラとオモテを刻むことも大切です。自分の頭がバスケのボールになったと思ってJBの音楽にドリブルされてみてください。オモテで床に叩きつけられ、ウラでは手で叩かれるといった要領です。主体的に働きかけつつ音楽に自分を溶かすという客体的感覚も忘れないださい。あくまで相手とハイタッチして初めて音が鳴るという感覚が大事です。くれぐれも勝手に自分で手拍子を打たないでください。全音符、二分音符、四分音符、八分音符、十六分音符、それぞれの単位で周期が揃っていることが前提です。JBのバンドの演奏のブレなさを体感してください。
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リズムを取る際に1拍目はもちろんのこと、1小節の中心であり折り返し地点となる3拍目を、次の1拍目を見越した上で、正しい位置で捉える意識が大事です。
次のことは頭の動きと曲のウラオモテをしっかりシンクロすることができたら自ずとわかると思うのですが、やはりファンクはオモテの「接地時間」が短いです。尚且つウラの「滞空時間」が長い。ロックはその逆というかほとんど接地したままで、アクセントないし音の強弱だけを推進力にしています。「の」の字でリズムを取るとわかりやすいかもしれません。例えばJBの「セックスマシーン」ではスネアの音が上に向かって飛び跳ねて聴こえるような感覚があります。

拍のアタマを下から掬い上げるイメージでリズムを取ると良いと思います。2、4拍目のスネアはアタックの瞬間とともにウラに向かって上昇する感じです。ブロックくずしのボールがバーに当たった瞬間の感じ。というか、テニスや卓球でボールをラケットで打ち返す感じですかね。手で「の」の字型の円を描くとわかりやすいかも。
・宿題
課題曲に合わせて4分を手拍子で鳴らす。その際にリズムの軌道を描くように手を動かすことも忘れずに。
チェックポイント
・1小節を均等に4分割できているか
・ウラとオモテの波が描けているか
・音源と自分のリズムを同期させることができているか
・大前提
以下の言葉は音楽の心地よさを言語化しただけのものであり、この言葉通りに演奏すれば心地良い音楽になるというわけではない。音楽の手本は音楽以外にありえない。言葉はあくまで補助輪のようなもの。
・前提
1. サブディビジョンは直線的に左から右へ進んでいくものではなく、円のような軌道を描くもの。マラソンでいうとトラック。ロードではない。
2. 一小節は4拍でひとまとまり。5拍目9拍目と進んでいくのではなく、1拍目に戻るという考え方をする。
3. 拍は分割するもので積み上げていくものではない。
4. 出した音を反応して行き当たりばったりの演奏はせず、体内メトロノームに従って音を出していく。
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音楽が回転して進んで行くように感じられることがあります。そこでリズムは機関車の動力の仕組みに近いのではと思いました。

ピストンの部分がステディな「1 and 2 and 3 and 4 and」というカウントで、車輪が円運動となります。とりわけ海外の心地よいリズム感を会得している人たちはピストン運動を背骨ないしその周辺の体幹をシャフトにして円運動に変換しつつリズムを取っているのではないかと考えています。ピストンのみでリズムを刻んだ場合、それは点でしかなく一応リズムではあるものの推進力はありません。つまり踊れないということです。一方、車輪のついた円運動型のリズムは前に進んで行く動力を得たわけですから、これは踊れるリズムとなります。
これをどう演奏に活かすのかということはまだ言葉にできていませんが、足でカウントを取り、手で縦に円を描くと足で取っているカウントに躍動感が増すという気がなんとなくしています。なので、この感覚を保ったまま実際に演奏すれば自ずとその演奏にも躍動感が生まれるのではと考えました。
足で刻むウラとオモテのピストン運動を背骨ないしその周辺の体幹をシャフトにして頭の円運動に変換するという二段構えのリズム解釈が一番に理に適っているのではという説です。機関車の仕組みと踊りたくなるリズムの仕組みの違いは、リズムの場合は車輪もピストンの動きに作用を与えるということです。それと踊れるなリズムが描く円は、機関車の車輪のように綺麗な円というよりはラグビーボールのような楕円形をしていると思われます。ラグビーボールが坂道を転げ落ちている感じがします。
試しに頭の横あたりで手首を支点にして先述の軌道を描いてみると体感できるかと思われます。こちらも機関車のように、肩の上下運動をピストン、腕をシャフト、指先の円運動を車輪に見立ててやるとなお良いでしょう。円の回転は時計回りにしてやってみましょう。
2/5

上下運動と円運動の合わせ技でリズムを捉えるための課題曲です。このぐらいのBPMが丁度良いのではないかと思いこちらの曲にしました。縦に強くバウンスするような躍動感をもったリズムです。高校生の頃に聴いたときは平板でつまらん!と思ったものですが、今ではこれほどに躍動感のある曲は他にないと思うほどです。
ひとまず自分が楽器を演奏する人だということを忘れて取り組んでみましょう。楽器に関わるものは一切持ってはいけません。これは良きリスナーになるためのレッスンです。話はそれからです。
円運動だけで捉えてしまうとウラとオモテが甘くなってしまうのでお腹の力を使って上半身を上下させて拍を取りつつ、手を使って1拍分の円を描いてください。ガイドとしてつま先で4分を刻むというのも一つの手ですが、注意深く聴くべき音をマスキングしてしまうおそれがあるので今回はやめておきましょう。
円周上のオモテのポイントを通過するときにキックおよびスネアのアタック(!)にきっちり合うようにしてください。キックの場合は”don”の”d”、スネアの場合は”ta”の”t”がアタックです。ウラのポイントを通過するときも同様にハットのアタックにきっちり合わせるつもりで円を描いてください。
まずは注意深く音源を聴いて体の動きと音楽がばっちりシンクロするようにしてください。音源が発するリズムを利用して自分の体重を回転させるというイメージです。実際に体を使って円を描いてください。自転車と一緒でのれたときはのれたと感じます。少しでも違和感があればのれていないということです。頭を空にして体を動かしながら感覚をつかんでみてください。何度でも良いますが実際に体を動かして取り組んでください。こういうのは質よりも量です。そして、手を動かすことに気を取られて音を聴くことをおろそかにしないこと。耳も手もどちらも100%の配分で取り組んでいきます。自我を捨て、体をリラックスさせることも重要です。
コツがつかめてきたら自分の演奏の音源を聴いて上下運動と円運運動で捉え直してみると良いでしょう。
2/6
やはり認識のズレが不安なので今一度整理します。
今取り組むべきはリズムの動きを感じ取ることです。そのために音楽に合わせて腕を回す作業に取り組もうと言っている次第です。「分割」といったことはたしかに関連することですが、今は無視してください。そして、あまり言葉の意味を考えこまないでください。どんどん実体からかけ離れていってしまいます。今までがそうです。まずは体を動かして覚えましょう。
メジャーコードが明るい/楽しい。マイナーコードは暗い/悲しい。この感覚はわかると思います。わかることを前提に話を進めていきますが、このコードの響きによってもたらされる感覚を元に音楽というものはデザインされています。そういうことにしてしまいます。これらコードの役割と同様に、ダウンビート(=オモテ)が下降、アップビート(=ウラ)が上昇といったリズムに関わる感覚も音楽を音楽をデザインする際の前提となっています。だがしかし、我々はこの上昇/下降の感覚を無視して音楽を聴いてしまっているし、演奏してしまっています。本来ならこの感覚は足し算引き算レベルの出来て当たり前、わかって当たり前の話であってしかるべきなのですが、なぜか良いように無視されてきました。
今我々がやろうとしていることは、リズムの上昇/下降の感覚を、体を使って覚えようということです。 だから別に体を上下させるだけでも充分といえば充分なのですが、オモテやウラを点として捉えようとすると運動を止めてしまいがちなので、それらを円運動の中のポイントとして捉えてみよう、そのために腕を使って円を描いてみようと提案しているのです。
コンセプトだけ理解してもそれは頭の中の出来事にすぎず、実際に上昇/下降が体感できなければ、音楽的に何の意味もありません。だから実際に体を使って感覚を会得しようと提案しているわけです。こういうのは、質よりも量だし、習慣付けが大切です。上昇/下降という前提を抜きにして音楽に取り組むことは足し算引き算を覚えずに微分積分に取り組むようなものです。基礎中の基礎をやり直すという気持ちで今回の課題に臨んでください。
こういう書き方をすると、修行を積むみたいで全然ロックじゃねぇよなぁと思うかもしれませんが、やっていて楽しいし気持が良いことであるはずです。脳内麻薬がガンガン出ている気がしてなりません。
パーラメントの曲に合わせて腕を回す際に、キックとスネアが会陰から体に入ってきて背骨を通ってウラのハットを合図に頭頂部から出て行くと思い込んで聴いてみると良いです。キックとスネアの運動と質量が感じられるはずです。
2/9
《問題》拍がべたっとなってしまい、4拍子がわかりやすく提示できていない
ウラとオモテは円運動の中の力の折り返し地点ということに注意。アタックが力の折り返し地点にくるように円運動のスピードを調整する。曲そのものがもつ軌道に乗る意識が大事。これは後回しでも良いですが、16分の刻みに即した身体の運用も必要でしょう。音だけ合っていればそこにいたるまで体の動きは何でも良いと思っていると絶対に合わないです。
さらにウラとオモテの上下運動に回転を与えたものがリズムの円運動であると認識すること。円の一番下側がオモテ、一番上側がウラ。このポイントは揺るがない。これら二つの点を結んだ直線を直径とした円を描く。
次の課題曲

オモテとウラが強調されたこの曲であれば・・・という期待を込めてチョイス。強く上下にバウンドするようなリズムだから縦長の楕円を描くと曲にフィットするはずです。
BPMが112なので一曲トータルで552回腕を回す計算。腕を回し続けていたらいやがおうにも腕が疲れる。そして疲れてからが勝負。最小の力で腕を回し続けることが肝要。腕や肩の小さな筋肉ではなく、大きい筋肉=体幹を上手く使うこと。10回ぐらいリピートして腕を回し続けることができれば、人前で小一時間ライブして通用するだけの円運動のための体力はつくはず。
とにかく実際に腕を回して覚えること。繰り返し体を動かして筋肉に叩き込むことが重要です。私は人柱になるつもりで実際に腕を回しながら10回リピートしてみます。
2/16
上半身でリズムを取るのがダメなら下半身で取る。というわけで、膝の上下運動ないし前後運動でリズムで取るということをやってみましょうか。
まず立った状態からウラに合わせて軽く膝を曲げて上半身の位置を落とします。拍がウラからオモテに切り替わる瞬間めがけて太ももの力を使って膝を伸ばします。 オモテ(Up Beat)で上半身が上にクッと上昇する感覚を覚えてください。上半身の位置は、ウラで低くなり、オモテで高くなります。ここ大事です。
膝は、手のようには動きをアイソレートできないため、自ずと全身でリズムを取ることになります。さらに不器用な分、音楽に合ってないときにはちゃんと合ってないと判別がつきやすい気がします。手で取っているとなんとなく合ってるようなつもりになりがちです。
・何のために取り組むのか?
リズムに対するセンスを養うため。また、音楽のもつリズムの心地よさ・快感をより多く受け取るため。4拍の刻みを安定させるため。
この1か月で体内リズム器官のようなものがかなり鍛えられたと自分で感じています。この器官がリズムに関する判断を行っているように感じます。反対に言えば、これらを鍛えないことには自分の演奏が合っているのかズレてるのかいつまでたっても判別がつかないといえます。自分の演奏が良くない場合にきちんと「気持ち悪っ!」と感じられるように、今はとりあえず感性のみを鍛えていきます。楽器のことはとりあえず置いておきます。楽器に触ると自分に甘くなりがちです。
経験者のただそれっぽいだけの演奏ではなく、勘の良い素人による下手なんだけどツボは抑えてるみたいな心地良い演奏のほうがベターです。勘の良い素人になるために膝でリズムを取ることに取り組んでいきます。
以前、自転車の例を出しましたがサーフィンに近い感覚もあるはずです。サーフィンを例にした場合、波が音楽に相当します。サーフィンには半分ぐらい波に乗れてるといった状態はありません。乗れているか乗れてないか、はっきりと二分されます。音楽も同様に乗れたら乗れたとわかるはずです。乗れるまでやります。乗れるまでやらなかった意味がありません。波に乗れていなかったらサーフィンと言えないし、音楽に乗れていなかったら音楽とは言えません。
2/17
問題点の整理・切り離し(解決のために)
※大前提
バスケのドリブルはボールを地面に当てて跳ね返ってきたところをまた手で叩いて地面に当てます。この繰り返しです。これがそのまま拍およびウラ拍とオモテ拍の関係となります。バスケのドリブルを音で模したものがリズムです。
【問題】演奏から「ウラ」が感じられない
8分刻みだとしたら本来「1 and 2 and 3 and 4 and」とならないといけないところが、「1 1 1 1 1 1 1 1 」となっているように聴こえます。つまり8分が全てオモテになっていてウラが感じられない。
・リズムへの影響
そのように演奏してしまうと、リズムが下に沈んでいくばかりで踊れません。呼吸に例えると吐くばかりで吸えてない感じです。リズムが息苦しく聴こえます。これは、沼地を走っているような状態です。地面に足がついたときの反動が使えないために次の一歩が出せません。
・解決案
まず、拍のウラオモテというのは、タイミングを図示しやすくするためだけに拍を前後に割っただけのものではないということ。力学的な役割を元に分類されたものだと考えてみてください。
ウラというのは英語でアップビート。文字通りに上に持ち上がる拍。地球には重力があるので、モノを上に持ち上げる際には力が必要。ゆえにウラ・アップビートは力を加える必要のある拍といます。何のために力が必要かといえば、自分の体を持ち上げるためです。
一方、オモテ、ダウンビートは重力を利用するだけで良いわけだから、ほとんど力はいりません。緊張と緩和の関係でいえば、ウラ/アップビートが緊張、オモテ/ダウンビートが緩和となる。上昇と落下の関係でいえば、ウラ/アップビートが上昇、オモテ/ダウンビートが落下。こことても大事です。
この力学のルールに則って作られたのがアメリカのダンスミュージックではないでしょうか。この前提に従わないことにはダンスミュージックにはならないし踊ることもできない。このルールを無視して作られたダンスミュージック風の音楽を聴くとアニメの作画崩壊さながらのリズム崩壊に聴こえてしまいます。関節こんな方向に曲がらないよ!とか指6本になっちゃってるよ!みたいなものです。そんなダンスミュージックっていやじゃないですか。
2/19

アレサの”Rock Steady”に合わせて、ウラで手拍子を入れるという宿題は、皆が拍をどう捉えているかがわかりやすく現れるような気がします。
私の場合はもっと「訛り」を感じてウラを取りたい派。訛りというのはその音楽特有の「臭み」みたいなもんです全員で手拍子いれたときにもっと粘り気のある一体感が出ると良いです。
課題
・拍のウラとオモテにおける体重移動を身につける
今までの100倍大げさに腕で円を描いていきます。上半身の全体重をボーリングの玉に見立てて、重たいボーリングの玉が軌道上を回転していると考えます。円運動の支点は肘ではなく肩です。リズムにばっちりはまった瞬間にボーリングの玉がめちゃくちゃ軽くなるはずです。
どのタイミングでシンコペートしても拍の上下が揺るがないようにするために、体重移動によって動作するクリックを体に埋め込んでしきます。これは反復して会得するしかありません。
・ウラとオモテをさらに16分音符に分割する
おざなりになりがちな16分ウラのタイミングをジャストにするためです。
課題曲
Seun Kuti – African Soldier
一曲通してウラとオモテの円運動でリズムを取ったのちに、再び一曲通して上半身で円を描きながら両手で16分を刻む。この繰り返し。この曲のドラムのパターンは目下の課題であるスイングのリズムがベースになってるのでそのことも意識すると良いです。「タータ・タータ」ではなく「タター・タター」と取ったほうが自然です。
あとこの曲のイントロ、ちょっとした仕掛けがあるんだけど、気づきます?
2/24
クリックをシャッフルのウラとして捉える練習はなかなかおもしろいです。
シャッフルのウラ、つまり3連の3つ目の音符をきちんと捉えることで、イーブンの8ビートのウラも鍛えられるような気がします。
「シャッフルが取れない」ということは1拍を正しくウラとオモテに分けられていないということだと思います。つまり拍を上下運動として捉えられていない。
きちんとアップ・ダウンを維持しつつシャッフルでリズムを刻むことが大事です。
※大前提
とりあえず難しいことは抜きにして、1拍を三分割=三連符が刻めないことにはベーシックなシャッフルにはなりません。なので、1拍を三分割するということはどういうことなのかをきっちりと覚えてください。というわけで、両手を使ってきちんと「タカタ/カタカ/タカタ/カタカ」と刻めるようになってください。
ヒント:1(RLR)2(LRL)3(RLR)4(LRL)
※駄目なシャフル
「RLR/LRL/RLR/LRL」正解はこっちなんだけど、
「RL/RL/RL/RL/RLRL…??!」こうなりがち。
・宿題

シャッフルのウラをチェックするための「ウラ手拍子」課題曲です。
このようなフィーリングのリズムは我々日本人への浸透率が限りなくゼロに近いですね。こういった我々が苦手な感じだったり見過ごしてしまいがちな曲にこそリズム問題の解決への糸口があるような気もします。ちなみに演奏しているのはアメリカ南部の田舎に住む白人たちです。
この曲に合わせてウラで手拍子入れることはそれほど難しくないと思います。ただ、きちんと曲にマッチした形で手拍子を入れるのはすこぶる難しいと思われます。

 

躍動するリズムを捉えるために(ピストンと車輪のリズム指南)

前口上

「リズムを点で捉えるな。円で捉えろ」なんてことをよく言いますが、わかっている人には当たり前すぎて「地球は丸い」といった話程度にしか感じられず、「別に改めて言うほどのことか」と思われるでしょうし、全くピンと来ない人は「なんだかわかったようなわからないようなことを言うなよ」と思われるのではないでしょうか。
リズムは絶えず運動し続けるものだと認識しています。バスケットボールをつくときのような、トランポリンの上で飛び跳ねるときのような、ホッピングで跳ね回っているときのような、フラフープを腰で回すときのような躍動を想起させてやまないものです。その一方で全く躍動しないリズムというものも世の中には散見されます。カップ焼きそばの湯切りに失敗して麺をシンクにぶちまけてしまったときのような感覚のリズムです。もはやそれをリズムと呼んで良いのかわかりませんが。
太平洋を挟んでお隣の国、アメリカには「It Don’t Mean A Thing (If It Ain’t Got That Swing) 」なんて曲があるそうですが、私も同じように躍動しなけりゃ意味がないね、と思うわけです。リズムにおける躍動感は食べ物における旨味成分のようなものだと考えています。躍動感のないリズムはさしずめ出汁の出てない味噌汁と言ったところでしょうか。なんだか味気ない。
出汁というものの存在を知っているにも関わらず、それを使うことができない状況に対してここ何年かずっともどかしさを感じていました。出汁の利いていない演奏は聴く側も演奏する側もともにあまり楽しくないものです。(もちろんこれは音楽のスタイルにもよりますけれど。微妙に躍動感を馴らしたような演奏にも魅力があります。先日亡くなったヤキ・リーベツァイトの演奏にそういったものを感じます。)
今に至るまで、リズムが躍動する感覚、またはその捉え方をなんとか言葉にして説明できないものかと思案してまいりました。これは自転車の乗り方を口で説明するようなものですから、七面倒くさく、また困難を伴うものです。いくつものフレーズが脳裏をかすめては消えていきました。例えば、「ホースの口を絞る」「リズム圧」「ウラとオモテにおける緊張と脱力あるいは筋肉の伸縮」「休符で本当に休む奴がいるか(帰れと言われて本当に帰る奴がいるか)」「リズムの円運動」「心臓ないしポンプ」「ヨーヨーの要領」「子音と母音の問題」「タンギング」「タオルをパシーンと鳴らすように」「遠心力」「急ブレーキ」「ジェットコースターの急降下と急上昇」「ゴムボール」「ドミノ倒し」などといったものです。これらを説明しようとしてみてもひとりよがりで終わることが多かったです。さらにこういったものは胡散臭くなりがちで、書いているうちに空気が淀んできて気分が悪くなってくることもあります。
正直なところ、こういったことは早々にクリアした上で、「これはやっぱさぁ、ディラ以降の感覚だよねぇ」みたいなことを語りたい。あるいは「おっちゃんのリズム」「1拍子」「The One」といったキラー・フレーズをガツンとかまして終わりにしたい。自転車と同様に乗れて当たり前、出来て当たり前の世界の話をわざわざ云々するのは野暮だし、「みなまで言うな」とつっぱねる態度がやはり粋だと思うのですが、生憎それを貫くだけの才覚を持ちあわせて居ないため、愚直に泥臭く取り組んで行く他ありません。

鳥居のリズム革命

ブーツィー・コリンズがジェイムズ・ブラウンの「The One」というコンセプトについて説明する動画がYouTubeに何本か上がっています。ブーツィーがベースを持ち実演しながら説明してくれるのですが、その際ブーツィーは頭をテンポに対してジャストではなく後ろからゆっくり追いかけるように揺らしています。一方、下半身は太ももを上げての足の裏でイーブンに近い感覚で拍を取っています。これら二つの動作を見て、なんとなく上下運動と円運動の連動がリズムの躍動を生むのではないかと考えるようになりました。(別にブーツィーが頭で円を描いていたわけではないので、話にやや飛躍がありますが。)さらにこれは機関車のピストンによる往復運動が車輪を回転させる仕組みと似たものではないかと思いつきました。おそらくどこかで見聞きした種々のアイデアがここに来て結実したのでしょう。そこで音楽を聴きつつ実際に体を機関車に見立てて動かしてみるとなんともしっくる来る。思わず”Eureka!”と叫び出す勢いでした。
スネアにはただ下に落ちていくだけのスネアとバウンドして天に向かって飛んでいくようなスネアがあるとかねてより感じておりました。それは音色やアクセントではなくタイミングが決定するものであると考えていたのですが、「上下運動と円運動の連動」というコンセプトで今一度そのことに取り組んでみたら、その仕組みがわかったような気がしました。ただの思い込みなのかもしれませんが、収穫があったような気がして気分が甚だ高揚しております。

「All Night Long」に合わせてお蕎麦を頂く

これより上下運動と円運動を連動させる過程を説明してみたいと思います。同時にこれは音による躍動を体の動きに変換していく作業でもあります。回りくどくて七面倒臭いと思われるかもしれませんが、暇でやることがねぇなぁという方はお付き合いください。
まずは音源を用意します。今回はMary Jane Girlsの「All Night Long」でいってみましょう。ちなみにこの曲で聴くことのできるキックとスネアの音はオーバーハイムのDMXというドラムマシンの音です。

まずは噺家さんが蕎麦を食べるときのような仕草でリズムを取ってみます。最初に拍のオモテ(この曲ではキックとスネアが鳴るタイミング)で蕎麦をつゆに浸します。オモテは英語で”Down Beat”といいますので、文字通りに箸の位置を下に落とします。箸を下げるというよりは箸を落とすといった感覚で行ってください。腕をリラックスさせてただ下に落とすだけで良いです。さらに器をサンプラーのパッドに見立てて自分がキックとスネアを鳴らしていると思い込んで取り組むのがベターです。
次に拍のウラで箸を口元に持っていきます。この曲は1小節に8回ハットが鳴るので、頭から順に数えて偶数のときに鳴っているハット、つまりキックとスネアの間で鳴っているハットがウラとなります。ウラは英語で”Up Beat”と言います。文字通り箸で蕎麦を持ち上げて口元に近づけてください。このとき腕の重さを十分に感じながら上へと持ち上げます。(これよりウラ・オモテとは言わずダウンビート・アップビートという表記に統一していきたいと思います。動きの向きを指し示す後者のほうがより伝わりやすいかと考えて採用することにします。というわけで、以下、ウラ=ダウンビート、オモテ=アップビート)こちらもアップビートと同様に、口元にサンプラーのパッドがついていて、箸の先で自分がハットを鳴らしていると思い込むと良いでしょう。
これでアップビートとダウンビートによる上下運動が完成しました。ついでに箸の動きに連動させてつま先と顎を上げ下げするとさらに良い感じになるかもしれません。さらに「1 and 2 and 3 and 4 and」と声に出してカウントを取ってみるのも有効であります。このダウンビートとアップビートによる上下運動はリズムの土台となるもの非常に重要なものです。
次に腕全体を使って蕎麦を上げ下げしていきます。現在、箸の上下運動は肩もしくは肘が支点となっていると思います。今度はこれらの支点をなくし肩自体の上げ下げによって腕ごと箸を動かします。これを肩の力だけで行うと非常に疲れるので、お腹と背中を使って肩及び腕全体を上下させます。下っ腹にトランポリンが設置されているようなつもりでやってみると良いでしょう。または自分がバスケットボールになって誰かにドリブルされてるところをイメージするのも有効かもしれません。箸は出来るだけ大きく上下させてください。このように肩全体の上下運動でリズムを取ったときのほうがキックとスネアに重みが感じられるのではないでしょうか。
これで機関車におけるピストンの部分が完成しました。次は車輪を動かしていきたいと思います。

“The train kept a-rollin all night long”

先ほどまで箸を上下させていた分の高さを円の直径とし、縦に円を描いていきます。円が回転する方向は車輪が前進するときと同じです。要はモーニング娘。の「恋愛レボリューション21」の「ウォウウォ、ウォウウォ、ウォウウォ」の振り付けを片手だけでやる、みたいなことです。これを右から覗き込むと時計回りとなります。これからアナログ時計に例に出すつもりなので、決して円を左側から覗きこまないでください。早速時計に例えますが、円を描くときに6時に通過するのがアップビート、つまりキックとスネア、12時に通過するのがダウンビートのハットとなります。1拍で12時間が経過するということになりますね。各ポイントを通過するタイミングは日本の電車のように正確でなくて構いません。なんとなくで良いです。円を描く速度も一定ではなく、曲のテンポに合った自然なスピードになるように調整してください。しかし肩の上下運動はダウンビートおよびアップビートに合わるつもりで。つま先の上下運動でガイドを出してやると良いかもしれません。さらに音楽と手の動きをシンクロさせるためにキックやスネアの余韻を指で撫でるようなつもりが取り組んでみてください。音楽が描く円の軌道上にのっかるイメージですので、宇宙空間におけるランデブー飛行と同様のものだといえるでしょう。
このように円を描きながらリズムを取ってみると拍がボールのようにバウンスする感覚と、前へ前へと進んで行く感覚が得られるのではないでしょうか。

“Get up for the down stroke”

これをさらに発展させていきます。円を縦に割って、自分に近い方の弧を「アップビートの弧」、反対側の弧を「ダウンビートの弧」と捉えます。円を描く指の進行方向を考えればすぐにわかることかと思われます。弧は英語で”arc”なので、”Down Beat Arc”、”Up Beat Arc”なんと呼ぼうかと思いましたが、「アラサーの人が高校生の頃にやってたバンドの名前」みたいなのでやめておきましょう。しょうもないことを言っていますが、この「アップビートの弧・ダウンビートの弧」というコンセプトは重要なものです。
ここで重力という要素を取り入れて今まで以上に腕の重みを意識しながら円運動に取り組んでいきたいと思います。まず腕をリラックスさせることが重要です。力を抜いてアップビートから出発し、重力に従って腕を落としてダウンビートの弧を通過していきます。上半身の体重を腕にのせるようなつもりでやると良いです。そして、腕が落下していくときのエネルギーが最大となる瞬間をキックやスネアのアタックが鳴るタイミングに合わせて、重力に逆らうつもりで腰で弾みをつけて腕を持ち上げ、アップビートの弧に突入します。腕がダウンビートを通過する瞬間に下から強く息を吹きかけて再び腕を上昇させるといったイメージを持つとわかりやすいかもしれません。(パーカッション奏者の浜口茂外也さんが「ブランコの理論」ということを提唱されていますが、それに近い感覚なのではないかと思われます。浜口茂外也さんインタビュー Vol.1
さらに、アップビートの弧を通過する際に、指先の運動エネルギーがヘソの下辺りから背骨に沿って頭のてっぺんまで通過していくといったイメージを持って取り組むと体重が移動していく過程を体感しやすくなると思われます。チャクラを下から上に向かって通過していくイメージです。
これで一連のサイクルが出来上がりました。コツがつかめてくるとだらりと脱力させた腕を腹の力だけで回転させられるようになります。このようにできれば長時間この作業に取り組んでいてもあまり疲れないと思います。
これら一連の動作を通じて、手がアップビートの弧を通過するときに筋肉は緊張した状態で、ダウンビートの弧を通過するときは弛緩した状態だということが判明しました。手を自分の方に引き寄せるときにぐっと力を入れなくてはなりません。ボートに例えるとアップビートの弧を描くことがオールで水を掻くことに相当しますから、これは力が必要です。一方、ダウンビートの弧に沿って手を前方に放り投げるときは大して力を使う必要はありません。
よく芸人さんが「緊張と緩和が笑いの基本」なんてことを言いますが、リズムの基本も同様であると言えるかもしれません。ここでは、ダウンビートを弛緩、アップビートを緊張としましたが、音楽のスタイルによってこれが逆になる場合もあります。ジャンル名の硬度が高くなれば高くなるほどにその傾向は顕著になると言えるでしょう。注意すべきは、我々がどのようなスタイルの音楽に対しても「ダウンビートを緊張、アップビートを弛緩」であると捉えがちという点です。
また、ダウンビートの弧、アップビートの弧という捉え方をすると、ダウンビート・アップビートというものが、実際は限りなくアップビートに近いダウンビート、または限りなくダウンビートに近いアップビートであることが感じられるかと思います。このように解釈してみると単純な上下運動で捉えるよりもダウンとアップを繰り返す作業が滑らかに感じられるのではないでしょうか。
上に向かって飛び跳ねているように聴こえるスネアがあるということは既に述べました。スネアのタイミングというのは点で捉えるならダウンビートなのですが、スネアの余韻が響いてる時間はアップビートの弧に属します。これがスネアが上に向かって飛び跳ねて聴こえる理由なのではないかとひとり合点がいっている次第であります。冒頭の「リズムを点で捉えるな。円で捉えろ」という言葉を自分なりに改変すると「リズムを上下運動と円運動の連動で捉えろ」となりますが、キラー・フレーズ感ゼロでとても残念な限りです。
パーラメントの曲に”Up For The Down Stroke”というものがございます。アルバムのタイトルにもなっています。この”Up For The Down Stroke”というタイトルが今回のテーマにうってつけなので、ここで聴いてみることにしましょう。もちろん上下運動と円運動の連動でリズムを取りながら。途中でトリッキーな仕掛けがありますが、どうにか乗り切ってください。この箇所に円運動がすっぽりハマることができたら脳内麻薬が分泌されること請け合いです。
ちなみに、こちらの曲でベースを弾いているのはブーツィー・コリンズでございます。JB仕込みの「On The One」を感じさせるリズムとなっております。つきましては、4拍目から1拍目に向かう円の軌道を大きく取ってみてください。つまり、”The Down Stroke”のための”Up”の弧を大きく描くということです。このように捉えてみるとリズムにしっくりハマるはずですのでどうぞご確認ください。

“Hold On, I’m Comin'” 円周上の演習

もういい加減にしてくれよとお思いの方もいることでしょう。このページを開いたのが10人いたとしたら、ここまで辿り着いたのはたった1人ぐらいではないでしょうか。これまでに費やした5900文字がただの徒労に終わる予感をひしひしと感じていますし、これもまた独りよがりになっている気がしています。しかし独りよがりついでにもう少し続けます。今度は「上下運動と円運動の連動」を応用してサザンソウルなどに見られる後ろに引っ張ったようなバックビートに取り組んでみたいと思います。次の課題曲はアル・ジャクソンのドラムによります”Hold On, I’m Comin'”でございます。演奏するのはもちろんBooker T. & the M.G.’sの面々ですが、各楽器のギヤがキッチリ噛み合っており馬力のある四輪駆動の自動車を感じさせるようなものの見事な演奏です。アンサンブルかくあるべし!

こちらの曲も例のごとく上下運動及び円運動でリズムを捉えていきます。この曲の場合、正円つまりまん丸の円で捉えてしまうとこの曲のもつダイナミズムを見失ってしまいます。この曲の躍動感を味わうために、今回は小さな楕円と大きい楕円を用意します。汚くて恐縮ですが、図にしてみたのでご確認ください。

(手書きの図を使うと一気に危ないムードが漂ってきますね。CGで描かれた謎のイメージ画像などを使用したらさらにヤバい感じになりそうです。これ、本当は時計回りのつもりで書いたのですが、縦の円を左側から覗き込んでしまったために矢印の向きが反時計回りになってしまっています。方向音痴なんです。)
この図を見てもよくわからないと思います。さらにこれを文章にしたらもっとわからなくなると思いますが、続けます。

お手玉で遊んでみよう!

上記の図は一体なんなんでしょう。要はアル・ジャクソンの叩く「遅れて聴こえるスネア」のタイミングに合わせて円の軌道を大きくしようということです。お手玉に例えると少しわかりやすくなるかと思います。まず中に鈴が入ったお手玉をひとつ用意します。もちろんこれはイマジナリーお手玉で構いません。まず、このイマジナリーお手玉を目線の高さまで放り上げます。次にダウンビートのタイミングでお手玉をトスします。このとき鈴が鳴ります。つまりお手玉の中の鈴の音でダウンビートを刻んでいくわけです。目線の位置はアップビートの位置だと思ってください。
この一連の動作を”Hold On, I’m Comin'”のドラムに合わせてやってみましょう。2、4拍目で鳴るスネア、つまりバックビートが遅れて聴こえるということは既に述べました。この遅れたスネアのタイミングに合わせてお手玉の鈴を鳴らすためにためにはどうしたら良いでしょう。お手玉をトスないしキャッチ&リリースするタイミングを遅らせてやれば良いわけですから、その位置を下げてやれば良いということになります。1、3拍目に肩の高さでトスしていたのを、2、4拍目では手の位置を下げてへその下あたりでトスしてやれば鈴の鳴るタイミングは自ずと遅れます。へそあたりでトスするときもアップビートの位置である目線の高さまで放り上げるというのがミソです。2、4拍目でトスする位置を下げて鈴の鳴るタイミングを遅らせて分、お手玉に勢いをつけないとアップビートのタイミングで目線の高さまで達しません。そうしないことにはリズムになりませんのでご注意ください。

重うてやがて素早きバックビートかな

次にこのお手玉の上下運動を例によって円運動に変換していきます。1、3拍目と2、4拍目、それぞれの上下運動の高さを直径として小さい円と大きい円にします。上記の図がそれを指し示してますので今一度ご確認ください。
これらの円が”Hold On, I’m Comin'”にばっちり合うように指先を回転させていきます。今回は図のように楕円形に捉えてみると良いでしょう。肩および上半身全体を軽く上下させることも忘れずに。この曲の持つダイナミズムと体の動きをシンクロさせるためにはちょっとしたコツがいるような気がします。
小さな円と大きな円が交差するポイントである1、3拍目のアップビートのタイミングでふっと力を抜いて重力に身を任せます。授業中に居眠りしていて頭が下にカクンと落ちるときの要領です。軽めの急ブレーキを踏まれて上半身にGがかかった状態ともいえます。約5kgほどあるらしい頭の重さを腕に乗せる感覚でやると良いでしょう。そして、ダウンビートとアップビートが折り返す瞬間をアル・ジャクソンのバックビートのタイミングに合わせます。しかし、このままでは下に落ちていくばかりで回転が止まってしまい、アップビートに帰ることができません。そこで回転を止めないために腕が下降する際のエネルギーが最大となった瞬間に浜口先生の「ブランコの理論」のごとく腰で弾みをつけて腕を上昇させます。授業中に船を漕いでいる状態で、頭がカクンとなった反動で上半身が元の位置に戻るのと同じような動きとなります。このとき、さきほどのお手玉と同様にダウンビートのポイントを下げてタイミングを遅らせて分、アップビートに間に合うように勢いをつけてやる必要があります。例のごとく下っ腹にトランポリンが設置されていると思って一気に腕を引き上げてアップビートの弧を通過させると良いです。さらに、上で待っているアップビートに向かって”Hold On, I’m Comin’!”と叫ぶと気合が入ってモアベターです。
これで遅れて聴こえるバックビートを大小の円で捉えるための一連の流れが完成しました。このように円周上の緊張と弛緩の流れというコンセプトに基づいて実際に体を使いながらアル・ジャクソンのバックビートを捉え直してみると、そのアタックは腹にズシンと重く響いて感じられ、またその余韻は天に向かって加速していくということが感じられたのではないでしょうか。こういったことは例えば楽譜のように横軸だけで捉えていてもなかなかわかりづらい事柄であると思われます。遅れて聴こえるバックビートの捉え方をディアンジェロの『Voodoo』に応用してみるときっと楽しいはずです。”Feel Like Makin’ Love”などは月面を散歩しているような感覚が味わえて最高です。この曲をアップビートの弧を無視して聴いた場合、きっと下に沈んでいくだけの、眠りを誘う音楽に聞こえてしまうことでしょう。
これまで述べてきた作業は言わばリズムに沿って体を動かすときの上半身における体重移動の過程を一旦腕を使って体感した後にその感覚を上半身まで波及させるといったものです。一度この動作が会得できてしまえば、毎度毎度律儀に手で円を描く必要はないはずです。チャック・レイニーあるいは細野晴臣といった躍動感の塊のようなベーシストが演奏中にあまり動かないことに鑑みて、むしろ動かずとも感じられるものであると考えます。

“Free Your Mind and Your Ass Will Follow” 結びにかえて

このように文章していく過程で完全に拍を見失ってしまいました。音楽に対して全くピントが合いません。どうしたら良いのでしょう。
それにしても、リズムによってもたらされる心地よさを言葉するだけでこうも息苦しいものになるとは。まったく躍動感のない文章であります。端からそんな予感はしておりましたが。こういったことはなるべくなら止して、金言をかまして終わりにするほうが絶対に良いと改めて痛感しております。仮にそれができるのであればの話ではありますがそのほうが確実にヒップです。ただ、体を使って今まで述べてきたようなことばかり何日か続けていたら、踏切のカーンカーンという音がアップビートに聴こえたり、心臓の鼓動が円を描き出したり、歩いているときに自然にダウンビートを感じられたり、自分のくしゃみがJBの”Hit me!”(4拍目)に聴こえたりするようになったで身体に対して何かしらの作用はあったと言えます。
これら一連の動きだったり円周上を点が移動していく様をアニメーションにすることができたらもっとわかりやすくなるのではと考えています。似たようなものは既にあるようですが、こちらはリズムの構造を時計をモデルとして図式化するものなので運動を図式化しようする当方のコンセプトとは別物となります。(それはそれで興味深い内容となっているのでご紹介しましょう。A different way to visualize rhythm – John Varney
さて、このへんでそろそろ黙ることにします。ファンカデリックの”Free Your Mind and Your Ass Will Follow”という素晴らしい標語を結びと代えさせていただきます。
https://www.youtube.com/watch?v=PeeYUXjp_ro

 

リズム論のためのメモ

1. なぜスネアの音量を小さくするのか
まず今わたしたちが取り組もうとしていることは一つのループの中にどれだけダイナミズムを持たせられるのかということです。ダイナミズムは躍動感と言い換えることができるでしょう。決してAメロBメロサビ大サビというような長いタームにおける起承転結で聴かせようとするものではないです。念のため確認しておきます。
ハリウッドのアクション映画のような派手な爆発というよりは、同じ爆発でも、自動車のエンジンのシリンダー内部で繰り返し行われる小さな爆発のほうが好ましいです。力ずくで物をぶっ飛ばすのではなく、小さな力の連動で何か重たいものを動かしてみようという試みです。「北風と太陽」みたいな話ですが。
ダイナミズムについてです。
1小節ないし2小節という単位をビリヤードの台に、一つの音符をビリヤードの玉に見立てます。
ビリヤード台を行き交う玉の動きと玉の描く軌道の長さがダイナミズムとなります。例えば、同じサイズのビリヤード台を二つ用意し、片方に通常のビリヤードの玉を、もう片方にはボーリングの玉をそれぞれ16個拵えてビリヤードをやるとします。この場合、どちらの玉がよりスピーディで長い軌道を描くのか…ということを考えてみてください。その答えは言わずもがなでしょう。
小さい音というよりは小回りが利く軽くて硬い音といったほうがより正解に近いかもしれません。余韻が残る輪郭のはっきりしない音ではなく、アタックがはっきりしていて、さらに音の減衰が早いほうがより好ましいということです。
スネアに限らずベースの音に関しても、例えば「ブヨヨヨオオン!」という音よりも「ッボン!」というスッキリしていて輪郭のある音が今回の取り組みには適していると思われます。
休符はいうなれば、ボールが軌道を描くための空間です。ダイナミズムを表現するのに欠かせない要素なので、休符つまり音と音の間をしっかりとコントロールすることが重要です。さらに休符は、お手玉しているときにお手玉が手を離れて空中を舞っている状態のようなもので、決して静止ではなく、位置エネルギーと運動エネルギーを携えたものだと考えてください。
そして、一度空中に放たれたお手玉が重力に従って落ちてきたところをキャッチし、またすぐにぽんと放ってやるのがお手玉という遊びです。当たり前の話ですが、キャッチしなければそのまま地面に落っこちます。音に関しても一度鳴らした音はしっかりと自分でキャッチしなくてはなりません。例えばキックで空中に放ってスネアでキャッチするといった具合に。
お手玉をして大きな軌道を描こうとするなら、スピードをつけてお手玉を空中に放らなければなりません。楽器の演奏の場合も同じ要領で一音一音を早く美しい動作で、例え音価が短くとも伸びやかに発する必要があります。
音ゲーのようにしかるべきタイミングで音を出せば良いというものではありません。一音一音が歯車のようになって相互に影響を与え合うからこそリズムという大掛かりな装置が駆動するのだと私は考えます。
2. なんのためのシンコペーション?
わたしは日頃からギャルたちが踊ってくれたら良いなと思って曲作りに取り組んでいます。この際ギャルじゃなくても踊ってくれるのであれば誰だろうと構いません。しかしまあ、言ってみれば、人は皆根源的にはギャルではありますが…
「猫ちゃん大集合」では4拍目の手前、3拍目の四つの16分音符のうち最後の16分音符がスネアを鳴らすタイミングとなっています。これはいわゆるシンコペーションです。
シンコペーションにはどのような狙いがあるのか説明したいと思います。
ランニングをしている人に背後からこっそり近づいて服を掴んですぐに離したとします。そうすることでランニングしていた人は前方によろけると思います。電車に乗っていて急ブレーキがかかったときの動きと同じです。シンコペーションとは突然の急ブレーキのようなものだと考えてください。
踊りはただの直線的な上下運動ないし前後運動では単調だし、あまりセクシーではありません。シンコペーションによるよろける感覚は単調な踊りに対して刺激を与えて予定調和とマンネリを打破するものです。わたしがシンコペーションを多用する理由はそこにあります。
ランニングする人への嫌がらせ行為の例を続けます。ランニングしている人が、走ったり歩いたり立ち止まったりといったことを短い期間にランダムに繰り返していた場合、後ろから服を引っ張ったとしても、よほどタイミングが合わない限り、前へよろけてはくれないでしょう。この人には一定の速さで走っていてもらわないと困ります。ステディなビートを刻むことは一定のスピードで走ってもらうためのガイドを示すことと同じです。さらに、ステディなビートはシンコペーションへの誘い水となり、シンコペーションをより効果的なものにすると考えられます。
また、ステディなビートによって示されるガイドは、よろけた後の最初の一歩を安定させるためのものでもあります。そのまま転ばせてしまっては傷害事件にもつながりかねません。誰かに気持ち良くイタズラを受けてもらうためににはその後できちんとフォローする体制を整えておく必要があります。
「スイングする」とか「ハネる」といった感覚も、この「引っ張って離す」という動作に近いところがあると思います。また「スイングする」とか「ハネる」とは別に、個人的に「グルーヴ圧」と呼んでいるものがあります。ホースの先端を絞って水の勢いを強めるようなものです。その話はまた別の機会に。
3. そのフォルムのようなもの
次は一番言葉にしにくく、同時に一番の肝となる部分です。
譜面に書き起こすことができるフレーズやパターンと呼ばれるような音の連なりはリズムの表層にすぎないと考えます。
ホームページなどの「問い合わせフォーム」を思い浮かべてください。「問い合わせフォーム」は目的を果たすために機能するように作られています。見えている部分からは確認できませんが、裏側にはPHPやHTML、CSSなどで記述されたソースがあります。
あえて図式的に示してしまいますが、音楽の場合においても、何らかの機能を果たすために作られています。今回の取り組みにおいては「ギャルを踊らせること」がその機能となります。
フレーズやパターンを単になぞることは、問い合わせフォームの例で喩えるなら、イラレやパワポなどで見た目の部分だけをデザインするにすぎません。もちろん見た目のわかりやすさや美しさも大事ですが、メールアドレス記入欄に書かれた情報をデータベースに格納したり、送信ボタンをクリックしたら受付完了ページにジャンプするといった本来の機能を果たさなければ何の意味もありません。
では、音楽において問い合わせフォームのソースに当たるものは何なのでしょうか。これが一番難しいところです。わたしはそれをリズムのもつフォルムのようなものだと考えています。
フォルムは文字通り型のようなもので、円形だったり波形だったりするのかもしれませんが、何せ身体的な感覚に依るものなので具体的にこういうものだと指し示すことが難しいように思われます。
そのフォルムのようなものは、それぞれの民族の営みの中で育まれてきたものでしょうが、程度の差こそあれ、部外者が後天的に会得することも可能であると考えます。音楽を聴いていてふと「鉄棒の逆上がりできた!」「補助輪なしで自転車に乗れた!」といった感覚に似た、思わず会得したぞと感じずにいられない瞬間が訪れたことがあります。リズムが表す波長に自分の体の動きがぴったりはまった瞬間といいましょうか。この経験は少なからず演奏に反映されるものだと考えます。
リズムに波長を合わせようとするとき、わたしの場合は、モノの本に書かれていたことを参考にして、拍のオモテで首を前に突き出し、ウラで引っ込める動きを繰り返します。その際、ドラムを例にとるなら、まずキックの音が首と頭の境目あたりに、スネアの音が鼻の奥から頭頂部にかけて共鳴していることを意識します。共鳴を意識することで身体が触媒となり、各楽器の発する一音一音が伸縮する様がイメージできると思います。
この前後運度を行う際に、首あたりから身体中に伝播していくときのうねりのようなものを波形として捉えたものがフォルムであると言って良いかもしれません。
リズム・パターンにはそれぞれ固有のフォルムがあると考えます。そして、フォルムはフレーズに先立つものであるとも考えます。ここはあえてフレーズはフォルムが表出した一部分に過ぎないと言い切ってしまいます。地中に埋まった根の部分も含めて一本の木ということです。根は木の自立を支える上でなくてはならないものです。
フォルムをおざなりしたまま曲の練習することは、あわよくばツールドフランスに出場しようと考えている人が自転車の乗り方を覚える前にひたすらエアロバイクで足を鍛えるようなものではないのかと近頃心配になり、今回このように文章にして確認してみました。
例えばカウントを取る時点でその曲のもつフォルムを示していてほしいわけです。ただ静止した点が4つあれば良いというものではないように思います。このあたりはパーカッション奏者の浜口茂外也がインタビューで語っているので読むと参考になると思われます。
http://topic.auctions.yahoo.co.jp/music/guitarlabo/hamaguchi/hamaguchi02/
個人的には音楽を聴いていてこのうねりのようなものに身を委ねているときが一番心地良いです。どうにかこのうねりのようなものを自分でも演奏して表現できないかと思っています。
ここから先はもうなんと言って説明して良いのかがわかりません。下手な根性論やオカルトめいた繰り言でごまかしたくはありませんが、もはや「フォースを使え。感じるのだ。」という他ありません。この前送った「研究用音源」を聴いて参考にしてみてください。
ライブを見て「ジェットコースターのつもりで期待して乗り込んでみたら、椅子の背もたれの部分が肩たたきやマッサージをしてくれただけだった…」なんてことを言う人もいるかもしれませんが、まあ仕方がないことですね。帰り道に、なんか体がポカポカするな、なんて思ってくれたら良いですけど…
https://www.youtube.com/watch?v=sHtai7OprAA

 

24ビート入門

Triplet-16th-feel-1
「16分の3連符がある。24ビートという様なものは無い」なんてことを言った人がおります。
好きなグルーヴの一つに「ハネた16ビート」というものがある。英語で”16th note triplet feel”と表記したほうがわかりやすいかもしれない。
大きな揺れの中に細かくてシャープな揺れが内在する、腰から発生したリズムの波が体の先まで伝播して、そこから再び腰まで返ってくようなあのグルーヴですよ。
ところで、「グルーヴ」という単語は曰く言いがたい何かしらの魅力を言い表すときの「彼にはオーラがある」「彼女にはカリスマがある」といった表現と似た感じで「彼にはグルーヴがある」というような使い方をされているが、そういうものとは別に「グルーヴ」という単語にはリズムの「フォーム」乃至「フォルム」のような意味合いがあるものだと理解している。(スティーブ・ジョーダンのDVD「Groove Is Here」を見よ!)
「フォーム」「フォルム」といったものは料理でいうところの器にあたるものだ。経験から言って食事をするときに器がないと困ってしまうことは想像に難くない。例えば職人が握った寿司をカウンターに直接置いてきたらどんな気持ちになる?食べられないこともないとはいえ…あるいはトンチンカンな器に盛られた料理を想像してみよう。例えばアイスパフェ用の器によそわれた白米なんてどうだろう。かようにして料理には器が必要だしさらにそれぞれの料理に適した器を拵えることも重要だ。音楽にも全く同じことが言えるだろう。(だからドラマーにはカウントで器の輪郭線を描いてほしい。あれは点を4つ打てば良いというものじゃない)まあ実際にはオニギリとかサンドイッチといった器を必要としない料理があるように器を必要としない音楽もあるので十把一絡げ(じっぱひとからげ)には言えないのだが。
「ハネた16ビート」というものに対しては、漠然と「通常の16ビートが名人のフィーリングによって良い感じに気持ちよくなったもの」ぐらいに思っていたのだが、これを1小節を24分割(=1拍を6分割×4拍)するビートだと捉え直すことで認識が改まった。演奏する者の体内には1小節を24分割するグリッド乃至パルスが予め用意されており、それに沿って(あるいは敢えてズラして)演奏されているのだと。「見かけの上ではわからないがウェブページを形作るのは裏側に書かれたHTMLである」といった話に近いのかもしれない。
分割というアイディアはかなり重要だろう。最初に一切れのピザを複数枚作り、それを後からくっつけて丸いピザを作ろうと思っても歪な形になるのと同様に、行き当たりばったりおっかなびっくり一拍またはフレーズひとまとまりを横にくっつけていっても良い塩梅のグルーヴのフォルム乃至フォルムは描けないのではないか。
こういった思いから1小節を24分割するということを強調するために、「ハネた16ビート」という表現をやめて「24ビート」と呼んだらどうだろうということを思いついたのだが、たぶんそのような呼び方は誤りである可能性がかなり高そうなのでここに記すに留めておきたい。おそらく一般的に24分音符というものがないので、自ずと24ビートもないということになるのだろう。
さらに「ハネた16ビート」にはストレート寄りでそこはかとなくハネているものから、かっちりとしたシャッフルあるいはスイングまでの間に濃淡があり、全てが24分割できるわけではない。「タッカタッカタッカタッカ」の「ッ」の幅は狭いものから広いものまで様々だ。
この前、バンドの練習の参考音源としてメンバーに聴いてもらうため、「ハネた16ビート」もとい「24ビート」の曲をまとめてプレイリストを作成した。普段はこのように参考音源を送りつけるといったことはしないのだが、口でああだこうだ説明するより手っ取り早いかと思いそうしてみた。効果の程は未知数だがまとめてて面白かったから後はどう転んでも別に良いやという気持ちが全体の八割程度。アンサンブルの向上を期待する気持ちも八割程度。数が合わないのが不思議で仕方がない気持ちも八割程度。合わせて二十四割。
思い込みを押し付けることになったらまずいので、候補として挙げた曲が、本当にハネてるのか、どれくらいハネているのか、都度再生しながら検証し条件に適うものであればiTunesのプレイリストに放り込むという作業を行った。
検証方法は、テーブルをパーカッション代わりにして、右手の人差し指でオモテの16分を刻み、左手の人差し指でウラの16分を刻むというもの。左手のタイミングが16のイーブンで割ったときよりも後ろに来ていればハネているということになる。その際どこにタイミングを合わせるかといえば概ねドラムで、右手はハイハットに合わせ、左手はキックやスネアのゴーストノートを基準に考える。右手だけでやったほうがわかりやすい場合もあり。興が乗ったら1拍を6連符で刻むということをする。そうすると今まで聞き逃していたパーカッションの6連符フレーズが聞こえてきたり、ギターやベースがオカズで6連符のフレーズを弾いていることに気付いたりして、楽しい。書道を習うときに文字のバランスを見るために方眼紙に書かれた文字をお手本としてを使うことがあるが、あれに近いところがある。音源に合わせて6連で刻むことはお手本に罫線を引く作業といえよう。
検証する際に注意しなくてはいけないのは先入観に惑わされないことだ。バカの一つ覚えで全ての音楽が24ビートに聞こえてしまいがちなので、なるべく小さい音を鳴らして音源に合わすこと。音源に溶けるまでひたすらやりこむと脳から美味しい汁が分泌されること請け合い。
6連符を刻む際は、大木を押すイメージを浮かべて実践するとよりグルーヴのフォルムが体感できるかと思う。木の幹をオモテの8分で押すと、その反動で幹がウラの8分で返ってくる。枝は幹の揺れが伝播して6連符を刻みながらワサワサしている。これの繰り返し。さらに、自分の体幹を文字通り木の幹、指を枝に見立てて6連符を刻むとかなり良い感じになるかと思われます。
最近はロックロックしたタテノリで演奏される8ビート(休符が圧縮されていて聞いていると息苦しくなるような無酸素の8ビート。粋で軽快な有酸素8ビートは大好物)の曲でもハーフタイムでリズムを捉えれば16ビートになることに気づき(あくまで自分の中で)、さらに、誰にも気づかれないレベルでそこはかとなくハネてしまえばそれはもう「ハネた16ビート」の出来上がりで、何事にも創意工夫が大事であることを実感し、また、友達がカラオケで歌っていたゆらゆら帝国の歌詞を思い出しながら、少し目の位置で何にでも変われるし、特定の局面においてもなんらかの楽しみ方があるのだと改めて感じた次第である。
このへんで件のプレイリストを一曲一曲みていこう。送りつけたものとは内容が変わっているけど、そんなの誰がわかるのかって話だ。

  1. Automatic – 宇多田ヒカル – First Love
  2. カサブランカ・ダンディ – 沢田研二 – 人間万葉歌 阿久悠作詞集
  3. What’s Goin’ On – Donny Hathaway – Donny Hathaway Live
  4. 都会 – 大貫妙子 – Sunshower
  5. Lonely Town, Lonely Street – Bill Withers – Still Bill
  6. Freddie’s Dead – Curtis Mayfield – Superfly
  7. Too High – Stevie Wonder – Innervisions
  8. N.Y. State Of Mind – Nas – Illmatic
  9. Look-Ka Py Py – the Meters – Look-Ka Py Py
  10. Choo-Chooガタゴト – 細野晴臣 – Hosono House
  11. Up On Cripple Creek – The Band – The Band
  12. The Girl Is Mine – Michael Jackson – Thriller
  13. I Am The Walrus – The Beatles – Magical Mystery Tour
  14. あまく危険な香り – 山下達郎 – OPUS ~ALL TIME BEST 1975-2012~
  15. 卒業写真 – 荒井由実 – COBALT HOUR
  16. Let Me In – Benny Sings – Benny… At Home
  17. Sugah Daddy – D’Angelo & The Vanguard – Black Messiah
  18. The Blacker The Berry – Kendrick Lamar – To Pimp A Butterfly

※ページ下部にSpotifyのプレイリストあり。

Automatic – 宇多田ヒカル

一番有名で且つ一番エグいハネ方をしているこの曲から始めよう。ハイハットの6連符を聴けばわかる通り、このトラックは1小節を24分割するグリッド上に音が配置されている。これはニュージャックスイング(NJS)という80年代後半に流行したメインストリームのブラックミュージックで採用された手法で、その元祖はテディ・ライリーとされている。
宇多田ヒカルが世に出てきた当時は「和製R&B」ということで喧伝されていたけど、今にして思えば和製ポストNJS歌謡といったほうが正確ではないかと思う。
ともあれ、自分の中でこのグルーヴのフォルムがわりとベーシックなものとして(「つつみ込むように…」「let yourself go, let myself go」「丸の内サディスティック」そして水曜深夜時代の「笑う犬の生活」の思い出とともに)根強くあるということを改めて感じる17年目の”Automatic”であります。

カサブランカ・ダンディ – 沢田研二

「早すぎた和製ポストNJS歌謡!」なんて呼びたくなるこのサウンドよ。完全にフィクションでしかないが…
「カサブランカ・ダンディ」と比較してみると、「Automatic」という曲がいかに歌謡曲/ブラック・ミュージック(ブラック・ミュージック分の歌謡曲)のアップトゥデート版という形で美しく結実したものだったのかわかる。(”Automatic”エンディングの泣きのディストーションギターを聴こう!)。「カサブランカ・ダンディ」をリハモした上で打ち込みのトラックを作り、宇多田ヒカルがフェイクを交えて歌えばわりと素直に”Automatic”になるのではなかろうかと思い脳内でシミュレーションしたところそうでもなかった。
日本人って結構このリズム好きなんじゃないか、という気がしてくる。「ルビーの指環」の例もある。ところでジュリーの声って本当に素敵ですね。

What’s Goin’ On – Donny Hathaway

名盤の誉れ高きDonny Hathaway Liveの冒頭を飾るマーヴィン・ゲイのカバー。「ああ良い感じだわあ」と思って何も考えないでベースラインをコピーしていたけれど、改めて聴いてみるとこれもハネた16ビートだ。
ダニハサのウーリッツァーに導かれてバンドの演奏が入ってくるところで、ベーシストであるところのウィリー・ウィークス(NOTウィキリークス!)が繰り出すのは6連符のオカズ。若干甘めのハネが都会的で且つ五臓六腑が温まるような滋味深い名演。
Donny Hathaway – What’s Going On

都会 – 大貫妙子

都会という単語が出てきたので「都会」。グルーヴの下敷きは言うだけ野暮かもしれないが”What’s Goin’ On”だろう。70’sモータウンマナーというか、スティービー~シリータのセンですね。
ベースはご存知、細野晴臣御大。ドラムはクリス・パーカー(ベターデイズおよびスタッフ!)。
話は変わるが、UFO Clubでライブして打ち上げに参加した帰り、深夜2時過ぎに中野付近をトボトボ歩いていたら、バーからカラオケで「都会」を歌う浮かれた調子の混声合唱が聞こえてきたことがあった。休日の深夜というお誂え向きのシチュエーションで「都会」を歌って盛り上がるというセンスに対してコンセンサスが得られている男女のグループって一体どんなだ。二次会には参加せずに機材を背負って小一時間歩く我が身との対比に思わず涙。現生では縁がなかったということで、うちへ帰ろう、いっしょに。

Lonely Town, Lonely Street – Bill Withers

というわけでロンリータウンのロンリーストリートを歩く私です。
タイトルからの安易な連想に過ぎないのかもしれないが、殺伐としたストリートの非常に厳しい雰囲気を醸し出すのはこのリズム感覚に依るところも大きいのではなかろうか。甘くてスムースなハネがある一方で、ドスの効いたハネもある。かなりビターな味わい。90年代の東海岸ヒップホップで聴くことのできるドスの効いたハネはこの辺りのイメージが援用されている、というのはこじつけか。ドラムはお馴染みジェイムズ・ギャドソン。
Bill Withers ” Lonely Town, Lonely Street “

Freddie’s Dead – Curtis Mayfield

ドスの効いたハネシリーズ第二弾。この曲ははっきりと24分割されてますね。
この曲をTV番組で披露したときの映像がYouTubeに上がっているが、そこでカーティスが6連符のカッティングをしててめちゃくちゃ格好良い。
70年代前半のアメリカ音楽が好きなんだけど、その理由の一つにハネてるからというのがあると思う。演奏する者の体内にあって半ばブラックボックス化していた「1小節を24分割するグリッド」が音として前景化するのはこの時期であろう。同時にブラック・ミュージックのリズム・セクションにラテン・パーカッションが登場することも見逃せない。
Freddies Dead – Curtis Mayfield

Too High – Stevie Wonder

ドスの効いたハネシリーズ第三弾。どちらかというと緊張感に満ち満ちたコードのほうにドスが効いているか。”Lonely Town, Lonely Street”、”Freddie’s Dead”、”Too High”はどれも1972年から1973年にかけて発表された曲。ドラムはスティービーが叩いているとのこと。というかコーラス以外全部スティービー。スティービーのハネた16ビートといえば”Sir Duke”のが一般的かもしれない。あと”Superstition”とか。
Stevie Wonder – Too High

N.Y. State Of Mind – Nas

名盤の誉れ高きIllmaticのプレリュード”The Genesis”が開けて始まりますのがDJプレミア製の”N.Y. State Of Mind”。ナズのラップはハネたりハネなかったり。超然とした態度がめちゃめちゃクール。
Illmaticは全編どのトラックにおいてもドスの効いたハネたキックが聴くことができる。ラップのトラックは基本的にハイハットの刻みが8分だ。隙間が多いほうがリズム的な遊びがしやすいのだと思われる。また、ありものの素材をレイヤー状に重ねて作ったトラックは複数のグリッドが内包されているため、聴いたときの印象として陰影のようなものをもたらす。だから、NJSのようにクオンタイズされたトラックと比べるとヒップホップにはアダルトな趣がある。同時にそれはある種のたどたどしさのようなものでもあり、その質感こそがヒップホップをヒップホップたらしてめているのではないかと思う。
プレミアのビートは、ラージ・プロフェッサー、ピート・ロック、Q-Tipらに比べるとハネ方が一番エグい。ファンの「クオンタイズは使ってますか?」という質問に対してプレミアは「使うわけねぇだろ!」と答えていた。
Nas NY State of Mind

Look-Ka Py Py – the Meters

ミーターズのハネ方は「ドスの効いたと」いうよりは、威勢の良いハネ方で、さしずめイキの良い魚と言ったところでしょうか。特にレオ・ノセンテリのギターはピチャピチャしてて魚っぽい。港町ニューオーリンズからの安直な連想か。この曲はガチガチのハネというよりニューオーリンズ流のバウンス感覚といったほうが良いかも。古めかしいスイング感覚が根付いているというイメージです。
The Meters-Look Ka Py Py.wmv

Choo-Chooガタゴト – 細野晴臣

遠征のときのテーマ曲(特に2番)。基本的に車移動だから厳密にはそぐわないのだが。
リトル・フィートをお手本にしたという話だが、ハネ方はミーターズばり。細野リズム史的には「あしたてんきになあれ」→「相合傘」→「Choo-Chooガタゴト」という系譜を辿ることができよう。ハネ方は段々とエグくなっていく。(ライブ!! はっぴいえんどの「はいからはくち」も含まれるか)
ところで、Hosono Houseのときの林立夫って結構ワイルドでポール・ハンフリーみたいじゃないですか。

Up On Cripple Creek – The Band

「下は大火事、上は大水。これなーんだ?」というなぞなぞがある。では「下はハネてる、上はイーブン。これなーんだ?」答えはザ・バンドの”Up On Cripple Creek”。みんなせーのでハネなきゃいけないっていう法はない。めちゃくちゃファンキーじゃありませんか。この曲のように個々人によってリズムの捉え方に濃淡のあるアンサンブルは何となくアメリカ的だと感じる。そしてそれはある種のとっつきにくさでもあるだろう。良薬は口に苦し、というとちょっと違うかもしれないが、ザ・バンドの音楽にはコクがある。そのリズムにも。
Up On Cripple Creek – The Band (The Band 5 of 10)

The Girl Is Mine – Michael Jackson

feat.ポール・マッカートニー!甘い!甘すぎる!軽く胃もたれしそうなこの曲はソフト&スイートで都会のレイドバックといった趣。ついついハード・オフの店内BGMを思い出してしまい申し訳なく思う。
ドラムはジェフ・ポーカロ。ベースはブラザース・ジョンソンのルイス・ジョンソン。時折入る16分の3連がニクい。
こういうサウンドにドゥーワップ調の低音コーラスをもってくるのがいかにもポールの味といった感じ。クインシーの指示かもしれないが。マイケルの歌声はマジでイノセント。
この曲を本歌取りしたであろうモニカとブランディという若きディーヴァが一人の男を取り合う“The Boy Is Mine”というビタースイートな歌もあります。
The Girl Is Mine – Michael Jackson & Paul McCartney

I Am The Walrus – The Beatles

リンゴのドラムってヒップホップみたいに聴こえるときがありませんか。90年代の東海岸ヒップホップのようにはキックがシンコペートしていないのだが、なぜだかヒップホップ的なハネが感じられる。オカズは例にもれずハネ気味。スネアの次にくるハイハットのタイミングが結構キモな気がする。
“Don’t you think the joker laughs at you?”という歌詞の後の”Ho ho ho! He he he! Ha ha ha!”という不穏な合いの手は3連符ですね。
“I Am The Walrus”以外にも”Let It Be”など結構気持ちの良いハネ方をしているように感じる。70年代前半のレイドバックしたファンキーさの萌芽がこの頃があったんでしょうね。
リンゴの叩くストレートな8ビートは聴いててとても気持ち良いけど、シャッフルの名手でもあると思っていて、端正でスマートなシャッフルを聴いていると文字通り心が弾むので大好き。”Old Brown Shoe”など絶品。ブルースというよりカントリー仕込みのシャッフルといった趣がある。
The Beatles – I Am The Walrus (HQ)

あまく危険な香り – 山下達郎

「ヤマタツリズム」という呼称(NOTヤマギシズム!)ももはや一般的とも言えるこのパターンですが、ご本人はシカゴソウルの影響を受けていると仰っております。パーカッションが6連符フレーズ叩くのを聴いて、改めてこのパターンのハネ具合を確認。(我々は「おばけのピアノ」のカバーでイタダキました。しかし、ハネ問題を曖昧にしたまま録音してしまった。嗚呼やり直したい。)

卒業写真 – 荒井由実

この朧げで繊細なシャッフルのリズムを「キャラメル・シャッフル」と名付けたい。そして、涙まみれでしょっぱすぎ!な塩分高めで食えないバラードのリズムを「キャラメル・シャッフル」に改変し微かな甘みを与えたい。そんな魔法が使えたら良いな!

Let Me In – Benny Sings

オランダのブルー・アイド・ソウル歌手ベニー・シングスによる名曲。ハネた16ビートはソウル風味のポップスの常套句でもある。パーカッションの「ポッコポッコ」というシャッフルのフレーズが効いている。ベニー・シングスのハンプティダンプティのような愛くるしい顔もポイント高し。
サックス奏者に熱っぽいソロを吹かせないで「シティ」を騙ることなかれ。メイヤー・ホーソーンより断然ベニー・シングス派!
Benny Sings – Let Me In (videoclip)

Sugah Daddy – D’Angelo & The Vanguard

ビル・ウィザーズのところで出てきたジェイムズ・ギャドソンがキックと手で膝を叩く音で参加しています。なんて贅沢な使い方なんだろう。
前作から引き続きキックより先に発音することを禁じられているかのようなタイミングでベースを弾くのはお馴染みピノ・パラディーノ。
ディアンジェロたちは単純な24分割とは別のディメンションにいますね。
D’Angelo and The Vanguard – Sugah Daddy

The Blacker The Berry – Kendrick Lamar

発表したそばから名盤の誉れ高きTo Pimp A Butterflyからの一曲。トラックのキックは若干ハネている、というより揺れている程度。しかしケンドリック・ラマーのラップが6連符という変わり種。でもこれガッチガチの24分割というよりは、16分割と24分割を並走させて行ったり来たりしている感じもあり。空間を伸縮させる感覚というかね。そういえばジミヘンのソロも結構16分割と24分割の間を行ったり来たりしてますね。
前作good kid, m.A.A.d city収録の“Swimming Pools (Drank)”ではセカンド・ヴァースで6連、エイサップ・ロッキーのLong. Live. ASAP収録の”1 Train”では2拍3連を披露している。

とても勉強になる読み物

オーサカ=モノレールの中田亮さんが書かれたSWINGについての考察が勉強になるので興味のある人は読んだら良いと思う。絶対に読んだほうが良い。読まないなんてありえない。信じられない。
「SWINGについて」(その1) – SPECIAL | オーサカ=モノレール
パーカッション奏者の浜口茂外也さんが語るグルーヴの話も勉強になるので興味のある人は読んだら良いと思う。絶対に読んだほうが良い。読まないなんてありえない。信じられない。
浜口茂外也さんインタビュー Vol.2 – Guitar Labo – ヤフオク
ドラマー、ドラムチューナー、エンジニアの三原重夫さんが語るドラマー向けのコラムも勉強になるので興味のある人は読んだら良いと思う。絶対に読んだほうが良い。読まないなんてありえない。信じられない。
三原重夫のビギナーズ・ドラム・レッスン > vol.8「難しいようで簡単な、でもやっぱり難しいリズムの構造」
3つ合わせて読むが吉。しかし音楽を聴取する感覚が変わってしまうのでコンサバな方にはオススメしない。なんてね、アハハハ。