やっぱりどうしても納得がいかない。アボカドだ。
いつどこでそれを覚えたのかは定かではない。最初にアボガドと覚えたもんだから、本当はアボカドなのだということを知っても、聞かなかったことにしてアボガドで通してここまでやってきた。
だいたいアボカドって言い難くないか。試しに「アボカド」と10回唱えてみると、7回は失敗だった。「カ」。これが曲者だ。「ボ」と「ド」という濁った音に挟まれているせいもあって、釣られて「カ」も濁ってしまう。しかし、そうであれば、ある意味で「ガ」のほうが理に適っているとも言えないだろうか。「あたらしい」っていうのも元々「あらたしい」だったそうではないか。そういう例は山ほどあることだろう。そういうものだと思ってここは一つ「ガ」ではダメか。
山崎さん。一口に山崎さんと言っても世の中には”やまさきさん”もいるし”やまざきさん”もいる。こっちのが俺的に呼びやすいという理由で、”さき”にされたり”ざき”にされたら山崎さんも困るだろう。やまざきさんはやまざきさんなのだし、やまさきさんはやまさきさんなのだ。そういうことを考えると、個人の勝手な理由でそれをアボガドと呼ぶことにためらいがないわけでもない。
しかしアボカドは外来語である。誰が決めたのかは知らないが、アボカドというのは日本独自の呼び方であって、厳格なルールの元でそう呼ばれているわけではない。だから変更も可能であるはず。昔デビッド、今デヴィッド。こういった表記の変更はよくあることだ。また、ピーター・バラカンがアレサのことをアリーサと呼ぶというような例もある。だからアボカドにもまだ考える余地は残されているはずだ。
アボケイド。調べてみたところアボカドのスペルは”Avocado”であった。少し本格的に読めばアボケイドだ。「ディケイド」式の読み方である。これでアボカドより幾分言いやすくはなったと思う。問題の「カ」を「ケイ」にすることで舌が回るようになった。いっそのことエイボケイドではどうだという案もあったが、過ぎたるは及ばざるが如しで、それでは親しみやすさが薄くなってしまうので却下した。本格的な発音は顰蹙を買うということを配慮した結果だ。
・アボケイドバーガー
・海老とアボケイドのサラダ
・じゃがりこアボケイドチーズ味
こうして実際に使用してみるとなんだか無機物っぽい響きに思えてくる。あまり美味しそうではない。やはりアボカドが無難なのか。
ここは折れることにしよう。 アボカド。やはり問題は「カ」だ。次第に「カ」を意識する余り、最後の「ド」が濁りきらず、「アボカト」になってしまうようになった。「ド」をきちんと発音するには肚に力を入れないといけない。ここで気がついた。結局、肚の力の弱さが全ての原因だったのだ。
色々と難癖つけてアボカドをアボガドやアボケイドと呼ぼうとするのは一重に自分の肚の弱さを認めたくないからだ。思えば、肚が据わらないことでこれまで多くの失敗をしてきたし、それで恥もかいてきた。しかし、それに正面から向き合おうとはせずに常に目を逸らして生きてきた。そんな己の弱さを棚に上げて何を偉そうにやれアボガドだ、やれアボケイドだ、 阿呆かと。
アボカドはアボカドなのだ。やまさきさんがやまさきさんであるように、やまざきさんがやまざきさんであるように、アボカドもまたアボカドなのだ。現実を受け入れろ。肚に力を入れろ。10回きちんと言えるようになるまで唱え続けろ、アボカドと。
納得のいかないものはホワットの「ホ」や「ドッチ」「ドッジ」「ドッヂ」ボール問題、ハンターハンターに登場するキャラクターの名前なども残されているが、アボカドアボカドアボカドで今はそれどころではない。
アーニー・K・ドー ”いじわるママさん”