遅刻はサブカル

九州ツアー出発の朝は早かった。7時発の東京駅八重洲口発成田行きのバスに乗らなくてはならず、メンバーの集合時間は余裕をもって6時半に設定された。

当日、5時に設定したアラームで一度起床した後、念のため二度寝をする。15分程して本格的に起床するために気持ちを整える。5時半頃、山本君より起床の確認メールが届く。返信。シャワーを浴び、着替えを済ました後、荷物を持って家を出る。水っぽい雪が降っていたためコンビニでビニール傘と朝食の菓子パンを購入。10分程かかる駅までの道のりを半分ほど進んだところで、足元に異変を感じる。もしやと思って目を向けるとやはり左右異なる靴を履いていた。左足はKedsのChampion OXFORDを履いており、右足はVansのEraを履いていた。どちらも黒だ。傍目にはわかるまいと思い、第三者目線をシミュレートして確認すると、思惑とは裏腹に両者の差異だけがやけに目立って見える。Kedsは革靴のようなシェイプがエレガントでいかにもプレッピーといった風情、方やVansはストリート育ちの無骨な作りが頼もしい。これは旅の恥の範疇に数えてもいいのか。いやそれ以前の問題だと判断し、家に向かって走りだした。

雪で足元がままならぬ中、傘を差しながらギターおよびエフェクター類を担いで走るのは大変骨の折れることであった。家までつくとVansを脱いで、Kedsを履いた。せめて足元だけはエレガントでありたいと思ったからだ。

息を切らし汗だくになりながら走ったら何とかバスには間に合った。もちろん集合時間には遅刻したが。

学生時代、サークルの打ち合わせのため皆で部室に集まるということが何度もあったが、必ず時間通りに来ない者が何人かいた。一度、先に来たものだけで遅刻について話したことがあった。約束に遅れて焦ると股間がキューっとなるから嫌だという人や、太宰治を引き合いに出してまあ実際待たせるほうがつらいってこともあるよななどとを言う人がいた。私は授業などは平気で遅刻するが人との約束はあまり遅刻しないということを言った。少々得意げな所が癪に触ったのか、黙って聞いていた後輩の女子が一言。「謝るのが嫌なだけでしょ。」

小学生のときの夏休み、最初の一週間は地区ごとのラジオ体操に参加しなければならなかった。毎年基本的に皆勤賞で休むことがなかったが、一度だけ寝過ごしてしまい開始時間に間に合わなかったことがある。会場に近づくとラジオ放送がスピーカーから流れているのが聞こえた。皆が放送に合わせて体操する所を見て完全に日和ってしまった。皆の視線を浴びるのかと考えると堪らなくなり、誰にも気づかれないうちに踵を返してメソメソ帰宅した。

遅刻には肝っ玉や器の大きさを測られるようなところがあって、恐ろしい。大物は遅れて登場なんて言葉も洒落で片付けられないような気がする。遅れても何となく許されてしまう人柄や愛嬌、機転が利かせられる頭の良さなんてのも試されているかもしれない。勘弁してほしい。

遅刻とは反対に、大事な用があるときに約束の場所に早く着きすぎてしまった際、人がどうしているのかが気になっている。例えば就職活動なんかで面接会場のビルに早く着いてしまった場合、私はちょうど良い時間が来るまでそのビルの周りをぐるぐる回ってしまう。同じようなことをしている就活生を目撃したことは一度もなかった。皆ちょうど良い時間を狙って移動しているのか。コンビニで立ち読みしたりして時間を潰すのか。不思議だ。

 
 

Masamichi Torii