私は現在、トリプルファイヤーと名乗って活動するバンドに所属しており、今年の8月にその一員としてコンサート・プロモーターのSMASHが主催する「フジロックフェスティバル ’17」に出演した。出演したのは3日目で、「苗場食堂」というスペースに設営されたステージに上り演奏した。後日、そのときに撮影された自分の姿を見て驚いた。「なんということだ。気づかぬうちにこんなにもむちむちした姿になっていたのか。」
考えてみればそれも当然のことだ。夜な夜なスーパーに出向き、揚げ物などの惣菜やスナック菓子を買ってきて、それを肴にホワイトベルグを3本ほど空けていれば太るに決まっている。しかも寝る直前までだらだらと食べたり飲んだりしていれば尚更だ。
何にも縛られず、気の向くままに食べたり飲んだりしていればむちむちした体になるし、腹の贅肉はベルトの上に乗っかるようになってしまう。当然の帰結であろう。腹の贅肉を両手で左右から挟み込んで中央に集めるとグレープフルーツ大になる。けれども、そこには何の悔いもない。たくさん飲み食いし、それ相応の満足は得た。幸福の搾りカスが脂肪として体に蓄積された。ただそれだけの至ってシンプルな話でしかない。
シャツを買うときは無印良品のものを選ぶことが多い。なぜならシルエットが綺麗だし価格も手頃だから。学生のころはMサイズをタイト目に着ていたが、去年の年末頃にMサイズを買って着てみたら小さすぎて着ることができなかった。そのときこんなことを思った。「あれ無印、知らない間にサイズの見直しした?」
このように、変化したのが自分ではなく外部のほうであると思い込んでしまう自己認識の図々しさに危機感を覚えてはいたが、痩せようと思うには至らなかった。フジロックの写真を見るまでは何となくやり過ごしていたが、さすがにあの写真にはショックを受け、痩せようと強く思った。目標は11/16のリキッドでのライブまでに2015年にクアトロでワンマンをやった頃の体重に戻すこと。なんとなく始めたダイエットに成功して近年で一番痩せていた頃の体重だ。
太ってしまったことに多少の自覚がある人はその原因を運動不足に求めがちだが、100%これは間違いで、食べ過ぎ以外に人が太る原因は存在しない。アメリカには”You can’t out train a bad diet.”という格言があるそうだ。
「高校生の頃はご飯をもりもり食べていたけれど全然太らなかった。ゆえに太る原因は食べ過ぎに非ず!」と言い張る者は話にならないのでお引き取り願いたい。「なんもしてないのにいきなりパソコンがおかしくなったんだけどッ!」と言って怒りを露わにし、その原因を教えてあげようとしている周囲の人間にも八つ当たりをする人物と同じ程度に話にならない。
例えば5kmを30分かけて走ったとしても重めの菓子パン1個分のカロリーしか消費できないといわれている。そうであれば、飲み会で飲み食いした事実を運動によってなかったことにするためにはどれだけの時間を運動に当てなくてはいけないのか。一説によるとフルマラソンを走りきっても体重は350gしか減らないとのことだ。ダイエットと称してこれほど効率の悪いことを継続的にこなすことができる人は少ないだろう。それなら最初から食事を控えめにするのが賢明ではないか。
ただし自分の場合は軽はずみにものを口にしないよう戒めとして3日に一度、30分間ランニングするようにしている。菓子パン1つを我慢できなかったせいでこんな面倒で辛いことをする羽目になったという教訓めいた話を体に叩き込んでいるといえば良いだろうか。はじめは辛いものの、ひと月我慢して走っていれば体も出来上がってきて走るのがだいぶ楽になる。走り終えた後はとても良い気分になるし、ランニングをもはや苦しいことだと思わなくなった。
痩せるために控えたものは以下の様なものだ。菓子パン、スナック菓子、コンビニスイーツ、スーパーの惣菜、ラーメン。松屋で定食を頼む場合は必ずご飯はライスミニを選んだ。やよい軒では必ずご飯を十六穀米(並盛り)に変更した。白米を食べすぎてしまうのはやはりよろしくないことといえよう。ただ、白米が食のアキレス腱になっている人は多く、白米に対して不用意なことを言って顰蹙を買った経験も少なからずあるから、あまり下手なことは言えない。何にせよ米に限らず炭水化物は控えめにするのが吉だ。
お酒を飲むのは好きなほうだが、一旦飲み始めると食欲のリミッターが外れてしまうので、家で晩酌するのはやめた。飲酒を控えるようにしてわかったことは、酔うと余暇が一瞬で過ぎてしまうということ。酔わなければ時間はゆっくりと過ぎていく。作業や楽器の練習に時間を充てることも可能。
さらに今まで飲んだ翌日はなんとなく腹の底から鬱が沸々と湧いてくる感じがあったがそれもなくなった。睡眠の質も向上した。睡眠時間が少なかったりその質が悪かったりすると普段よりも食欲が湧いてしまう傾向もあるらしいから、しっかりと寝ることにも気をつけたい。
何と言っても一番の敵は清涼飲料水や炭酸飲料など甘い飲み物であろう。私はお酒なんかよりもコーラのほうが数百倍は好きだが、一切飲むこと止めることにした。だって好きなんだもんしょうがないじゃんといって居直るのはここぞというときにしか使ってはいけない禁じ手という感じがするし、好きというポジティブな気持ちを何かの言い訳に使うのはどこか後ろめたさがある。これがコーラじゃなくてコカインだったら「だって好きなんだもんしょうがないじゃん」とは言っていられない。まあコーラは決してコカインではないのだが。
ダイエットという話題からはやや外れるが参考までにネットで読んだ話を紹介しよう。NASAは甚大な予算をかけた宇宙開発において、宇宙空間での人間同士のいざこざほど無駄なものはないと考えたそうで、その予防のために人間がイライラする原因を研究したとのことだ。NASAが出した結論は血糖値が下がると人間はイライラし、さらに作業のパフォーマンスも低下するというものだった。血糖値が大きく上下しないように食事をコントロールすることが肝要らしい。
たしかに甘い飲み物やアイス、コンビニスイーツなどを止めたら気分にムラがなくなったような気がする。以前は堪忍袋の緒がプツリと切れて目が覚めることが多かった。起きた瞬間から「あいつだけは絶対に許してはならない」という気分に取り憑かれることもあったし、「だから何回も言ってんだろうが!」と怒鳴る自分の声にびっくりして起き上がることもあった。さらに夕食時が近づき空腹を感じるとイライラすることが多かったし、食べたら食べたで、その後も小一時間ほどイライラしていた。甘いものを控え、腹八分目にするようにしたらこうしたイライラもかなり軽減した。当然それでもむかっ腹が立つことはある。「やはりあいつだけは絶対に許してはならない」と心に誓うこともある。それはよりリアルで心の底から湧き上がってきた怒りなのだろうと思ってポジティブに対処している。
寝る前の3時間は何も口にしないようにした。美食家として振る舞うアンジャッシュの渡部がテレビで体型維持の秘訣を訊かれ、その一つとして寝る前の4時間は食べ物を口にしないようにしていると答えていた。4時間はさすがに難しいと感じたから3時間にした。目覚めの胃の重さが少し改善されたような気がする。
体重計を新調したのが9月の中頃でそこからリキッドまで4kg減量できた。フジロックから数えたらおそらくトータルで5Kgは痩せたであろう。現状維持のための努力ほど面倒で面白みに欠けることはないから、今後は再び増量するかさらに減量するかのどちらかになると思われる。禁欲的になろうが欲望に振り回されようがそれに伴うストレスの量に大して変わりはないだろうし、どっちだって良いじゃないの、幸せならば。