「邦ロックから遠く離れて」とは一体?

「邦ロックから遠く離れて」という一体何をやっているのかよくわからないトークイベントを新宿のROCK CAFE LOFTで定期的に開催している。先日、年内最後となる第5回目を行った。口下手で人前で話すのが苦手で声を発するのも危ういというなんとも情けのない30過ぎの良い大人がトークイベントを半年も続けていることはまるで奇跡のようなことだが、これは120%一緒にやっている張江さん、田村さんのおかげである。本当にありがとうございます。もちろん根気よくお付き合いいただいているお客さんがいなければイベントは成立しないわけで、そのことには感謝しても感謝しきれない。いつも本当にありがとうございます。
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そもそもこのイベントは、「リズム・アナトミー」でお世話になっていたロフトの日野さんから張江さんに鳥居と二人でアメリカのヒット曲について話すイベントをやってくれないかという話があって始まったものだ。リズムアナトミーでもアメリカのヒット曲についてすこし取り上げることがあったから、それがキッカケとなったのだろう。そこに張江さんの高校時代の友人で映像作家の田村さんが参加することとなった。音楽のトレンドに造詣が深く、また音響機器や機材事情についても精通していて、毎度毎度話を聞きながら刺激を受けている。その知識量はイベント一回目の後にお客さんから「田村さんって何者ですか?なんであんなに音楽詳しいのですか?」と質問のメールをいただいたほど。張江さんの名司会者っぷりはもはや言うまでもないだろう。いつも助けてもらっていて頭が上がらないし、足を向けて寝ることができない。
第一回は6月25日に開催。かなりリキが入っており、事前にビルボード・ホット100の曲を一曲ずつ聴き、周辺情報をリサーチ。もうちょっと肩の力抜いても大丈夫だよと言ってあげたいところ。しかし、最初にしっかり体力をつけておいたから5回も続いているともいえる。口下手の人間が事前にしっかり準備していかないでどうするという話もある。
そんな入念な下準備をよそにイベント内容はMVを見てツッコミを入れてゲラゲラ笑うというようなものになった。実際自分もゲラゲラ笑った。リズム・アナトミーの流れを汲んだイベントだと思ってやって来たお客さんはやや拍子抜けしてしまったそうだ。ただし滅茶苦茶笑ったとのこと。鳥居はというと、張江さんと田村さんの同級生アンサンブルに上手く入っていくことができず、二人を遠くから眺めるに終始。例えば、スタジオでセッション的なことをする場合もバリバリ弾きまくってみんなを引っ張るタイプではなく、場に慣れるまで様子を見つつ目立たないようにちょろちょろ音を出すタイプ。それが鳥居。
大学の入学式が終わった後に行われた語学のクラス別オリエンテーションに、体をこわばらせて足を踏み入れると、内部進学の者が固まって後ろのほうの席を占拠し、ずいぶんとリラックスした様子で会話しており、上京したてのうぶな心は大いにかき乱された。中学校は小学校と同じメンバーがそのまま持ち上がるだけだったし、高校も市内の高校に入学したからずっと同じような顔ぶれに囲まれており、大学生になるまで自分がこんなに寡黙で人見知りだとは気づくことがなかった。あのオリエンテーションの雰囲気にたじろいで以来、ずっと腰がひけたまま気づけば三十路。しかしシャイだの口下手だのそんな甘っちょろいアティテュードでは世の中を渡っていけない。これはプロフェッショナルなビジネスの話だ。やはりイベント後に「鳥居喋らなすぎ。これってなんのイベントだっけ?トークでしょッ!トーク・トーク!ミュージック・マシーン!シーン・ボニエル!」といったご意見をいただくことになった。ギターの場合はあまり弾かないほうがかっこいいという価値観があるのだが・・・
このイベントにおいて「ドレイクはいじられキャラである」という認識が参加者全員に共有されたのは特筆に値することだろう。音楽に対して属人的な評価を与えることに関して常に疑問を呈しているのだが、アメリカのヒットチャートという場が属人性で動いているのだから仕方がない。仕方がないけれど、「キャラ消費」の是非については考えていく必要がある。
第二回は7月30日。チャートがあまり変動しないこともあって、アトランタを中心にサザン・ヒップホップの勃興からトラップ的なサウンドがヒットチャートで覇権を握るまでの歴史をさらうといった内容のコーナーを設けた。現在のヒットチャートを追ううえで絶対に必要な知識だと思ったからだ。ただし、悪い癖で調べていくうちにどんどんボリューミーになってしまい、当日は尺が足りず駆け足となり中途半端な内容になってしまった。準備のためのメモ自体は良い具合にまとまっているだけにもったいないことをしてしまったと今にして思う。MVをいじってゲラゲラ笑うパートが激減したために、イベント後にもっとMVを観ながらゲラゲラ笑いたかったというご意見をいただいた。第二回はわりとトラウマ回。怒号も飛んだ。
第三回は9月3日に開催。田村さんからアメリカは音楽制作に関するチュートリアル動画が充実していると聞いた。そういうことであれば、それらの動画を参考に自分でトラップ・ビートを作り、それをイベントのワンコーナーにしようと思い立った。一ヶ月取り組んでみてどれだけ成長できたか当日に披露した。ちなみにプロデューサー名は「Victorii」。鳥居のビートはインテリジェントでトラップっぽくないという話になったが、昨今のトラップは、サウンドのテクスチャーがかなり洗練されており、2000年代中頃にあったドン・キホーテ的なギラギラ感はもはや皆無だと思う。次回は誰かにラップしてもらおうという話になった。後半はMVを観てゲラゲラ笑うパートもありイベントとしてもバランスの良いものになった。スタイルが確立された記念すべき回。
第四回は10月10日に開催。張江一門、いわゆるハリエボーイズのラッパー、猫まみれ太郎さんにラップしてもらうことになった。トラックは第三回以降にシコシコ作っていたものから3パターン用意。猫まみれ太郎さんにその場でラップをのせてもらい、その後トラックに対する意見やダメ出しなどをいただいた。USヒップホップを全然聴かないという猫さんの視点もおもしろく、このイベントのテーマのひとつとなっている日米の比較という点でもとても参考となる意見を聞くことができた。
第五回は11月26日に開催された。張江さんの提案ですこし邦ロック的なものを取り上げることになった。なまじ自分も音楽業界の末端にいるものだからあまり下手なことは言えない。けれどもクローズドな空間だから危うい発言も出やすい。危ういことをたくさん言いたいし、どんどんかましていきたい。けれどもかましたところで翌日に後悔することは目に見えている。
今回は猫まみれ太郎さんに鳥居からラップに関するリクエストを出して、そのラップを録音してもらうことにした。ネットでバズったMigosの「カープール・カラオケ」からヒントを得てリクエストをした。この音源が良い感じで、トラックを作った者としてとっても満足している。
次回は来年2019年1月23日の開催。まだ何をやるか決まっていないけれど、何かしら仕込んでおきたい。いや、当然のごとく仕込む。別に連ドラではないので、初めての方も一度お越しいただけたら様子がわかるかと思います。是非お越しください!
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Masamichi Torii