どうしようもない恋の日記 Part4

ガンダムを見に行こうとメールで誘われて友人二人とお台場まで自転車を走らせたのは4年前の夏のこと。各々深夜に家を出て、渋谷宮益坂のマクドナルド前に集まった。
寝間着同然の姿で近況報告などしながら銀座六本木を行き、途中、東京タワーに寄って記念撮影をした。前年も同じようなことをしてレインボーブリッジは自転車の通行ができないことを知っていたため、我々は築地からお台場を目指した。
埋立地に架けられた橋の上で自転車を止め、欄干から身を乗り出し夜の海を覗きこむと眼鏡が落ちそうで怖かった。
眼鏡を海に落としたことはないが、ラーメンのスープに落としてしまったことならある。
それはいわゆる家系ラーメンを食べていたときのことだ。ナプキンで拭いたところで気休めにしかならず、レンズは脂で曇ったままだった。帰りに眼鏡屋の店頭に置かれている超音波洗浄器で汚れを落とした。この一件以来、ラーメンを食べるときは必ず、耳たぶと眼鏡の耳あて部分を割り箸で挟んで眼鏡が落ちないように一工夫している。
あるとき、初めて入ったラーメン屋で、用意されている箸が使い回しのプラスチック製のもので困ってしまうことがあった。運ばれてきたラーメンを前に、とりあえずラーメンを口まで運ぶための箸を手にとり、どうしたもんか考えながら固まっていた。
「よかったら使ってください。」
店員さんがカウンターごしに手を差し出した。掌には洗濯バサミが二つ。
「あ、ありがとうございます!」
「眼鏡をかけてらしたんで。」
店員さんの爽やかな笑顔。私はお辞儀して洗濯バサミを受け取り、それを使って耳に眼鏡を固定した。これで安心してラーメンが食べられるぞ。
帰りの電車に揺られながら、「サービスってのはああでなくっちゃ」と心の中でつぶやいた。
「サービスだかなんだか知らねぇけど、そういう洒落たもんに色気エ出すめエ。ンなもんが腹の足しになるってエのかい。うちはずぅっとラーメン一筋でやってきてんだ。それなりに美味いもんを出してるってェ自負もある。それで何か文句あるんなら他所へ行け他所エ。みたいな態度のラーメン屋も多いけど、飲食業もサービス業であるんだから、やっぱり、あれ、なんだか耳が痛むぞ。なぜなんだろう。」
そこでようやく洗濯バサミをつけたまま店を出てしまったことに気がついた。洗濯バサミを外し、返しにいこうかと考えたが、電車賃のことを思い、二の足を踏んだ。悩んでいるうちにだんだんと用済みとなった洗濯バサミが煩わしく思えてきた。そこで、飲み会帰りと思しきいかにも愉快であるといった調子の学生一団がいたので、その中で一番そばにいた学生が背負うリュックサックのストラップにこっそり挟んでくっつけてやった。こういう悪戯が一番心にこたえるということを我々は経験から学んでいる。

 

Masamichi Torii