2019年メディア寄稿まとめ

Rolling Stone Japan「モヤモヤリズム考 − パンツの中の蟻を探して」(連載)

FNMNL 「今月の25曲」(連載)

今月の25曲 | 2019年9月編 Selected by 高橋アフィ、CH.0、鳥居真道、Lil Mofo、和田哲郎
今月の25曲 | 2019年10月編 Selected by 高橋アフィ、CH.0、鳥居真道、Lil Mofo、和田哲郎

インタビューなど

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バイブスが死んじゃった

毎年春から夏前にかけて気持ちが晴れない日々を過ごすのが定番となっている。体調は悪くないが、脳みそが皮脂のようにベタベタする膜で覆われているような感じがして頭がすこぶる冴えない。気晴らしに何かしたところで、気の抜けたぬるいコーラを飲んだときのような心持ちにしかならない。さらに、物理的に脳みそが圧迫されているような感じがする。頭蓋骨と脳みその間にある空気が膨張しているような感じといえばよいか。

昨年のこの時期に書いた日記を読み返してみたところ、やはりバイブスが死んでいる状態だった。いつもそんな調子だし、「憂鬱は凪いだ熱情に他ならない」という至言のとおり、物事に一生懸命取り組んだことの反動だと思っているので、あまり深刻になることはないが、それでもやはり暮らしていてつまらないといえばつまらない。

「はいはい、いつものあれね。」などと言い、ただの気分の問題としてやり過ごすこともできようが、それはそれで癪だ。因果関係を明らかにすることは難しいものの、バイブスが死ぬようなことが現に起きているではないか。バイブスを殺しにかかる諸問題に対策を講ずることなく、暗雲が過ぎ去り、陽が差すのを待っていればいいのか。そんな調子では無力感が増すばかりではないか。

とは言うものの、頭が冴えないので今は何をしたって無駄である。唯一できることといえば、積極的にやる気をなくしていくことぐらいだ。やる気というか何かに期待する気持ちをなくすといったほうが近いか。冷静になって考えてみると、何かに期待してがっかりするというルーティンに一抹の安らぎを感じてしまっているような気がしないでもない。例えば「揚げたての天ぷらは美味しい」「労働の後のビールは格別」「新垣結衣はやっぱり可愛い」というような世の理と、「何かに期待すると必ずがっかりする羽目になる」ということは同種のもので、それを反復することでままならない世の中にあっても、変わらないこと、または変わらないものがあるという事実が確認できるし、それは我々の心に平穏をもたらすであろう。けれども、がっかりしてばかりいると心が死ぬ。だからこの腐ったループから抜け出さなければならない。そのために何かに期待するのをまずやめてみようという算段だ。

実際にやる気をなくしてみてびっくりすることは、自分がやる気を出そうがなくそうが、現実とでも呼ぶべきものはそんなことを全く意に介さないということ。一度自走するシステムを作ってしまうとそれを止めることは難しい。自分、もしくは自分たちの意志で始めた何かを続けているうちに、人格を離れた新たな何かへと変容し、気がついたら主従関係が逆転しているというのはよくある話だ。例えるのならいまだにエイプリル・フールのおもしろ企画に取り組んで滑っている企業のようなもの。「いやぁ、おもしろいことしたいっすねえ」という一片の羞恥心もない一言からはじまった企画を惰性で続けているうちに企画それ自体が自律し始め、おもしろいことをやらされている状態になり、誰もおもしろいことなど求めていないし、また誰もおもしろいことなどやりたくないにも関わらず、おもしろいことが撒き散らされる事態となってしまう。

映画『マトリックス』では機械と人間の主従関係が逆転した未来で人間は主体性を取り戻すために反乱を起こすことを企てていたが、自分の場合はやる気をなくすという行為により主体性を取り戻そうとしていたのだが、うんともすんとも言わず、無駄な抵抗にしかならなかった。

「走ってんのか、走らされてんのか。一回そこをはっきりさせたい。そのために一回ペダル漕ぐのを止めまーす」

積極的にやる気をなくすとはこういうことなのだが、ペダルから足を離しても自転車が勝手に走っているものだから泡食ったという話。そして、崖から転落。チーン。

 

マシュマロ炙ってくよ

やっほー!お店の人に「他のお客様もいらっしゃいますので…」と言われてしまったのでこっちでやることにします。回答に冴えたところがまるでなし。もう実家に帰ります。さようなら!

ご質問はこちらから

—デモを作成する時メロディはどのようにしていますか?ギターでメロディも弾いて渡すのか。鳥居さんが仮歌を入れているのか。メロディは入れず吉田さんにこんな感じと口頭で伝えているのか。気になります。

最初はトラックだけ渡してスタジオで適当に合わせてみますが、結局シンセでメロを入れるパターンが多いです。

—最近ライブでやってるトリプルファイヤーの新曲(曲名がわからないのですが、以前imaiさんがTwitterにアップしてた曲)が、曲の展開やリズムの変化が今までのトリプルファイヤーにない感じでとても気になってます。作曲に当たってのコンセプト、意識したところなどあれば教えて下さい。

トラップのように「垂直方向に細かく揺れつつもテンポ感はリラックスしている」みたいなリズムのハチロク版がやりたかったので作ったような気がします。単純にファンカデリックとかベティ・デイヴィス、カーティスっぽい曲がやりたかったっていう気持ちもありました。若干CANも意識しつつ。当たりが出るまでガチャ引き続けるみたいな作り方してるので実際のところ、意図がそこまで明確にあるわけではないです。

—ギター初心者です。上達のヒントを教えてください。

人様に何か言えるような立場ではないのですが、かつての自分に言いたいことがあるとすれば、自分が上手だと思う人がどういう音を出しているのか細かく細かく細かく聴いて聴いて聴きまくって耳を鍛えてから練習したほうがいいよということです。のび太の名言に「もう少しうまくなってから練習したほうが 」なんて言葉があります。指だけそれなりに動くけどセンスなし、みたいな状況だけは避けたいですよね。耳こそはすべて。

—鳥居さん視点で、ビートルズを「バンド」として考えた上でグルーヴを感じる曲ってありますか?

グルーヴを「リラックスしつつも躍動感のある黒人的なリズムの感覚」というふうに限定せずにいえば、”You Can’t Do That”のドスの利いたリズムが好きです。”Hey Jude”とか”Let It Be”のリズムも良い。さすが名曲。”And Your Bird Can Sing”とか”Nowhere Man”の軽快なグルーヴも好きです。”I Want You”の重たさも良いですね。

—メディアで見る限り言葉を選んでゆっくり話す方だなという印象です。普段から一言一言気を付けて喋っていますか? 余談ですが細野晴臣さんの話し声や話し方が好きです。YMO御三方とも色気がありますが、たまたまラジオで聞いたプロデューサーの村井邦彦さんも素敵でポ〜っとなって氏の本を購入しました。声の魅力おそるべし。

口下手なので言葉がスラスラ出てこないんです。選んでるというより探してるってところでしょうか。細野晴臣のバリトンボイスはいいですよね。

—最近「怖いな」と感じたことはありますか?

ハンドルを握りさえすればそうでもないんですけど、車を運転することを考えると怖くて怖くてたまりません。とっとと免許返納したい。

—クラシック聴きますか?

全然聴きません。軟派な音楽ファンなのでフランスの近代音楽(フランス印象派?)にチャレンジしたこともあります。今は「あ!この曲知ってる!」みたいな有名曲を集めたコンピがあれば聴きたいです。

—鳥居さんがこれまで聞いてきたバンドの楽曲の中で、一番アウトロが長くてしつこい曲を教えてください!

全然思いつきません。カラオケで山下達郎を歌うと最後の繰り返しがくどいためにだんだん気まずくなることはあります。 サティにもアウトロがしつこくて笑える曲があったはずです。

—好きな卵料理はなんですか? 私は卵かけご飯が好きです。

半熟のゆでたまごが好きです。

—私生活で何かこだわりはありますか

一人で無と向き合う時間をなるべく確保するようにしています。

—ブレイキング・バッドは観ましたか?

観ました。まだNETFLIXなどのサービスがない頃にDVDでイッキ見しましたねえ。

—WEEZERは聴きますか?

3枚目が中2のときに出たので買って聴いて、遡りつつ『マラドロワ』まで聴いてました。『ピンカートン』は好きですが、微妙にツボから外れている感じもあります。ラモーンズがそこまで好きになれないというのと似た感覚とでも言いましょうか。

—1日だけ手伝ってくれと言われてライブを手伝いたいバンドは?海外勢で。

機材が少なそうなバンドがいいですね。あと怖くない人たちだと嬉しい。

—キスマイのメンバーだと誰推しですか??

全然わかんないです。マリウス葉はキスマイですか?

—最近読んで印象に残っている本を教えてください。

頭が終わってて最近全然読めていないです。『プリンス録音術』はおもしろかった。

—鳥居さんのブログが好きです 書籍化するとしたら帯はどなたに書いて頂きたいですか?

現実を度外視するのなら、ブルゾンちえみさんです。

—好きな力士を教えてください。(現役じゃなくても可)

これ麒麟児って答えで合ってます?

—今日Spotifyで女性アイドルのプレイリストを作っていたらアイドルっぽく無い人もいると言われました。 Spotifyで何となく音楽を流していると本人の情報をまったく知らずに聴いているので、例えばAmber markはシンガーぽいけどアイドルと感じます。 プロデュースされてたり踊ってたりアイドルの定義はあると思いますが、そういった情報なしに音楽だけでアイドルっぽいと感じるポイントがある気がします。 Gwen Guthrieもアイドルですよね?

Gwen Guthrieをアイドルだと思ったことはないですねえ。

—ドラムやりたいです

やりましょう!

—今までギターを何本手に入れましたか?

数えてみます。ストラトのパチもん、アイバニーズのHSHレイアウトの安いギター、グラスルーツの安いレスポール、フェンダーのストラト、ギブソンのファイヤーバード、フェンジャパのテレキャス、ギブソンのメロディメイカー、エピフォンのシェラトン、グヤトーンのLG-65T。計9本。今手元にあるのが4本。

—エレキギターの魅力、メリット・デメリットがあれば教えてください

魅力は音がかっこいいところです。メリットは持ち運びできるところ。デメリットは弦の交換が必要なところ、電気系統の不良で音が出なくなるところ、ケースなどアクセサリーが野暮ったいところ、競合が多いところ、機材の知識でマウンティングしてくる人がいるところ、前時代的なダサい楽器というイメージがついているところ、何かとお金がかかるところ、ギターケースをかついで外を出歩くのが少し恥ずかしいところなどです。

—鳥居真道って鳥居さんにぴったりの素敵なお名前だとつくづく思います。鳥籠の中でひとり遊びしてるのが楽しいけど、たまにはピヨピヨとおしゃべりしたい。そして邪道なことは嫌いという感じでしょうか?

私も自分の名前はすごく気に入ってます。鳥籠の中ってことは飼われているってことですよね。誰に飼われているんだか。今~わたしの~ねが~いごとが~♪鳥居を野に放て!まつすぐな道でさみしい。

—元々トリプルファイヤーは他の3人でやっていたと聞いたのですが、鳥居さんが加入したきっかけってどのような感じだったのでしょうか

お互い知人程度の関係だった吉田くんから突然メールが届きスタジオに誘われました。ちょうど人生の雲行きが怪しくなってきた頃で、借りパクしていたロジャニコのCDを返しがてら気晴らしに参加して今に至ります。人生の雲行きが怪くなってるときにバンドを始めるって一体どういう料簡しているんでしょう。暗雲は未だに視界から消えていませんね。

—トリプルファイヤーのFIRE、最高傑作だと断言できる出来だと思います。 しかし、こういうこと御本人に言うのもどうかと思うのですが、某サイトのレビューで「音質がよくない」という意見をいくつか目にしビックリしました。 どう考えても最高にかっこいい音だと思うのですが、今やバンドのメインコンポーザーの鳥居さん的にはどうなのでしょうか?

その他の部分は置いておくとしても、ミックスに関していえばどう考えたって最高です。例えばタランティーノの『デス・プルーフ』なんてわざと映像にノイズ入れたりしてますが、音楽でもそういうことしますよって前提が共有されてないのかもしれないですね。音質はクリアならクリアなほど良いっていう価値観はワンオブゼムでしかないっていう。

—鳥居さんが音楽以外に興味あることはなんですか?

特にないです。

 

ファンキー風ロック・セッションの諸問題

「ファンキー風ロック・セッション」というものをご存知だろうか。いや、そんなものは知らない、と云う方が多いはず。なぜならこちらが勝手にそれをそう呼んでいるだけで決して一般的な名称ではないから。けれども中には「ファンキー風ロック・セッション」と聞いだけでピンと来る方もいるかと思われる。

ファンキー風ロック・セッションとは、ライブ前のサウンド・チェックやリハで突発的に発生するジャム・セッションのことで、その音楽的な内容からこのように名付けた。なぜファンキーではなくファンキー風と呼ぶのかといえば、それがファンクについてあまり理解が及んでいない「頑固なロック主義者」から見たファンクらしきものでしかないからだ。もっといえば世間一般に流布されたファンクのステレオタイプをなぞっただけの代物にすぎない。

ファンキー風ロック・セッションでは教則本に登場する「ファンク・スタイル」のフレーズをさらに戯画化したようなフレーズが演奏される。ニュー・マスター・サウンズといったイギリスのジャズ・ファンクと呼ばれるバンドが演奏しそうなフレーズを日本のバンド・ブーム以降のリズムの感覚で演奏したようなものと説明するとわかりやすいかもしれない。

ギターでいえばナインスを半音下からスライドさせつつカッティングするパターンが一般的だろう。ベースは1拍目でルートの音を出し、その後、バックビートに合わせて1オクターブ上のルートが入れられる。3、4拍目はシンコペートしたフレーズが演奏される場合が多いが、演奏者が音価、休符、サブディビジョンといったことに注意を払わないため、ただの音の連なり、言い換えれば節のようになってしまいがちだ。彼らには音を間引くという発想がないのだろうか。ドラムはNirvanaの「Smells Like Teen Spirit」をファンキー仕立てにしてみました!とでも言うような威勢の良いパターンが多い。元々ファンキーなパターンではあるが。音量はスネアやシンバル類など上半身で演奏されるものがやたら大きい一方で、キックは音量、タイミングともにぼんやりとしている。BPMは130~140ぐらい。ファンクにしては速いテンポだ。自分の演奏で他人の演奏を活かすという考え方がないためか、はたまた単純に人の演奏の聴いてないためか、アンサンブルが噛み合うことはない。それぞれのギヤが空回りしたような躍動感のやの字もない演奏になりがちだ。こうした箸にも棒にもかからないような代物に、半開きになった口、眉間の皺など陶酔に関連性がありそうな表情が添えられているから、それを目の当たりにする我々はいたたまれない気持ちになってしまう。

なぜファンキー風ロック・セッションがこれほどまでに気に食わないのか。それはファンキー風ロック・セッションに興ずる者たちがロックがロックであること、引いては自分が自分であることに自足しきったことを表すかのようにそれを演奏するからだ。決して「ダサいから」とは言わない。大人なので。

いわゆる「バンドマン」を自称する者たちが屯する界隈に出入りするようになった頃の話だが、音楽関係者に何が好きかと尋ねられたので、JBが好きだと言ったところ、「JBみたいなことがしたい?日本人に黒人のグルーヴは出せないよ」と言われて身体中の力が抜けてしまったことがある。彼にとってその言葉は、コミュニケーションのためのコミュニケーションとして放たれたもので、それっぽい誰かの受け売り以上の意味はないのだろうが、それでもやはりこうしたクリシェが口から出てしまうことに一片の羞恥心も感じないことには驚嘆するしかない。誰かの演奏をブラインドテストしてその人種を言い当てることができるほどの繊細な耳の持ち主であるのなら少しは納得する余地もあるのだが。

「当初は黒人のまねっこから始まったものの、試行錯誤を繰り返しながら、着実に進歩し、遂には黒人コンプレックスを克服し、ロックはその独自性を獲得したのである」というようなロック史観を持っている人物からすると、古いブルースやR&B、ソウルやファンクを聴くことはどうも反動的に映るらしい。非オルタナティブな人間のように扱われることもままあった。 黒人音楽など日本人にわかるはずがないからカッコつけるために無理して聴いているに違いないと決めつけてくる輩もいた。こちらとしては、 黒人だの日本人だのごちゃごちゃ言うわりは盲目的に白人の価値観を内面化しすぎではないか、そもそもそのことに自覚はあるのかと指摘したくもなったりする。

ファンキー風ロック・セッションは意外にも、というべきか、当然のことながら、というべきか迷うところではあるが、先に述べたようなロック観を持った者によって演奏される場合がほとんどだ。日本人には云々というそれっぽい誰かの受け売りや「ファンクってこうだよね。よく知らないけど」というステレオタイプで世界が構築されていることがファンキー風ロック・セッションから窺い知れる。

ファンキー風ロック・セッションはテレビのバラエティ番組的な場のあり方と類似型といえよう。 そうした場においては、 コミュニケーションの効率化のためにファンクはファンキーなキャラを与えられ、誰もが安心して聞いていられるような自己言及的なギャグを言わされ続ける。ファンクのもつ可能性、別のあり方、未知なる部分など存在しないかのごとく振る舞うことを要求される。なぜなら経済的ではないからだ。どのようなことを考えているのかよくわからない人物と話すことはそれなりに骨の折れることだから仕方がないといえば仕方がない。けれどもやはり仕方がなくはない。

「おもしろネタ消費」の力学に抗うがごとくロックがロックであることに自足しきった状況にも抗っていかなくてはならない。なぜならそれは全くフレッシュではないから。パン食い競走ではないが、届かないかもしれないという不安を懐きつつも必死にジャンプしている様に我々は感動を覚えるのではなかったか。無批判にロックがロックであることに自足し、また自分が自分であることに自足することは、ただ菓子パンを食べているようなものに過ぎず、それ以上でもそれ以下でもない。少なくともパフォーマンスとして機能はしない。パフォーマンスとして機能するようなシチュエーションを用意しない限りは。自分が菓子パンを食べている姿すらパフォーマンス、または、当世風に言うのなら「コンテンツ」になりえると考えるのは芸能を舐めているとしか言いようがない。

忌まわしきファンキー風ロック・セッションの対極にあるといえるファンキーなロックを集めたプレイリストを作成した。題して「Funky Rock」。インターネット上でよく目にするしゃらくさい「おもしろサブカルおじさん」が自らのユーモアセンスを世に問うために行いがちな「おもしろサブカルいじり芸」に暗澹たる気持ちにさせられる昨今なので、こういう芸の無さこそ今は志向すべきではないか、という思いから 「Funky Rock」 というヤバいタイトルにした次第だ。

 

ザ・インターネット 2019

トラップをリズムの面から考察する記事を1月23日の夜に公開すると反響がありました。ありがたいことです。

知り合いの知り合いの知り合いぐらいの関係の方がブログの記事を紹介したツイートをファボなしリツイートしていたので、嫌な予感を抱きつつ、ついついその方のつぶやきを読んでしまいました。案の定エアリプで記事の内容に関して批判的なことを書いており、それが想像以上に堪えて、金曜日に友達と喧嘩してしまった小学生のように暗い気持ちでこの土日を過ごすことになりました。インターネットを利用するのならタフでなければならないという基本的な原則を思い出させてくれる出来事でした。

最近は2000年代初期のようにブラクラを喰らったり架空請求されたり匿名の掲示板やチャットで突然「死ね」と言われたりといったこともないので、インターネットが決してピースフルな空間ではないという事実をすっかり忘れていました。そもそも自分もネット上での誰かの言動を腐したり揶揄したりするなど、ネット弁慶的な振る舞いをしがちなのでどの口が言うのかという話なのですが。批判されること自体は何の問題もないし、むしろ良いことであるとすら思いますが、インターネット19年目にしてまだまだナイーブだった自分に情けなくなった次第であります。

そんなことがあったので、なるほど、2ちゃんねらー(5ちゃんねらー?)的なニヒリスティックな振る舞いはジャングルのように苛烈な環境のインターネットにおいて自分の身を守るために洗練されていったものなのだなあと改めて考えざるを得ませんでした。批判を受けたときに2ちゃんねらーのように振る舞えば少しは気が晴れるだろうと感じました。以下、先のブログの件とはあまり関係のない話になります。念のため。

2ちゃんねるなど所詮便所の落書きに過ぎないというコンセンサスが利用者の間で取れており、普段の生活圏で同じようなことを言ったら白眼視されるという認識があるうちは良いのですが、2ちゃんねらー的ニヒリスティックな態度は 一般の生活空間においてもそれなりに汎用性があるために、それを内面化したのちに、2ちゃん的な価値観に則した言動を取ってしまいがちだから厄介です。ストレスを感じたときなど、防衛反応としてついつい2ちゃんねらー的な態度を取ってしまうことがあります。例えば自分が愛着を持っているものに自分よりももっと詳しい人が現れたときなど。

私は自分で自分のことを音楽に詳しい人だとは思っていません。なぜなら幸運なことに自分など相手にならないほど音楽に造詣が深い人をたくさん知っているから。とは言えども、それなりに明るいといえば明るい。 まったくもって詳しくないと言い張れば嫌味になってしまうほどには。だから思わぬ攻撃をされることが度々ありました。「権威主義」だとか「詳しい自分に酔っているだけ」だとか。こういうことを言う人物が決まって2ちゃんねるのまとめブログのことを頻繁に話題にしていたことが印象に残っています。

スマートな人に対して一見意地が悪いような印象を抱いてしまうことはよくあると思います。ただし、意地悪だからといって決して頭が良いというわけではない。意地悪な馬鹿は短絡的なのでそこを履き違えがちです。 そんな適当な話がまかり通ってたまるものか。 意地悪な馬鹿は便利な言葉を覚えると馬鹿の一つ覚えでそれを使って何か言ったような気になっている場合が多いです。いわゆる紋切り型表現です。例えば「権威主義」だとか「詳しい自分に酔っているだけ」だとか「〇〇に親でも殺されたのかな?」だとか「△△とかいう自称○○」だとか「一部の意識高い人が騒いでるだけ」だとか「『耳の早い音楽ファンの間で流行ってます』みたいなリスナーの自意識の拠り所になってる感じの人たち」だとか。こうなってくるとAIのほうがまだ気の利いたことを言ってくれそうなものです。意地悪な馬鹿、性格の悪い馬鹿、恐るるに足らずであります。

2ちゃんねらー的ニヒリズムは我々から気力を奪い、お馴染みの定型文を繰り返してただ単に現状追認しているだけのものぐさで安っぽい皮肉屋を増やすことになったと言って過言ではないでしょう。ニヒリズムは誰だって扱えるような代物なのですが、それを使うことによりなんだか賢そうに振る舞えるのでルサンチマンを抱えたものぐさなレイト・ティーンズは必ず飛びつきます。かつての私もそうです。そういう経験もあるので、失礼な話ですけど、三十を過ぎたというのに未だ2ちゃんねる的なニヒリズムを後生大事にしている人物を見ると、アッ!愚か者だぁ!と思ってしまいます。馬鹿が伝染るので一定の距離は保っておきたい。こうした手合を相手にしていると時間を持って行かれるし、生きていく活力を奪われるだけです。

彼らが対象を揶揄したり腐したりできるのは自分は何もしていない、またはしていることを明かしていないという前提があるからです。人のやることを何でもネタ的にイジって散々小馬鹿する一方で、自分のやっていることはネタではなく良心に従ったマジ中のマジなもの、ピュア中のピュアなものであると信じることはあまりにも虫が良すぎます。2ちゃんねらー的態度と矢面に立って本気になって何かをすることは必ずコンフリクトを起こします。そのコンフリクトに対してあまりにも鈍感だから彼らは愚か者なのでしょう。

我々が大好きであるところの映画『ダークナイト』に登場する我々が大好きであるところのあのトリックスター、ジョーカーが万が一釈明とともに命乞いを始めた日には我々は大いにがっかりさせられるでしょう。他人を散々小馬鹿にしたり煽ったりした者が、逆の立場に立たされたときに狼狽える姿はあまりにも惨めです。ジョーカーの魅力はその大胆さにあります。それは自戒を込めたり、折を見て自虐ネタを挟むなどして人から嫌われないように予防線を張ったりしないからこそ輝くものです。彼の取り組みはネット上のユーモアセンスに恵まれた小市民のようにみみっちいものではありません。ネット上でジョーカーのように振る舞いたくて失敗した人たちのせいでジョーカーという存在それ自体がダサいものになりつつありますがジョーカー本人に罪はないはずです。

2ちゃんねる的なニヒリズムは平成の負の遺産として次の年号に持ち越されるでしょうが、今後も若い世代から「ネットでイキっている惨めなおっさん」「サブカルをこじらせたおっさん」として石を投げられ続けることは火を見るよりも明らかです。自分の知性の欠如を棚に上げて、大した努力もせずに、努力する人を見下し、嘲笑い、賢しらな態度を取り続けていたのだから道理にかなったことです。彼らに比べたら肚の据わった老害のほうがよっぽど愛すべき存在のように思えます。

大学生の頃は毎日のようにまとめサイトを読んでいましたが、今にしてみるとただ時間をドブに捨てただけという思いです。後悔だけが残っています。そもそも悪いのは2ちゃんねるではなく、己の愚かさかなのですが。それなりに志を抱いて大学に入学したはずなのに本当にもったいないことをしてしまいました。

だから今更耳の痛い意見に対して2ちゃんねらー的な態度で身を守るなんてことは選択肢にありません。ナイーブさの裏返しで凶暴なマッチョになるなんてのも論外です。謙虚で思慮深いタフガイになるしかないと思いを新たにしました。それが人から退屈と呼ばれる類のものであったとしても。

 

トラップ・ビートのリズム構造解析

このテキストは定期的に開催している「邦ロックから遠く離れて」というトーク・イベントのために書いたものだ。毎回テキストを用意して、実際に足を運んでいただいたお客さんだけに公開している。 イベントの告知をしていたら「テキストを購入したいので販売してください」というメッセージをいただいたのだが、 今回は一緒にイベントを行っている張江さんの勧めで一般公開することにした。イベントにお越しになった方で「えー!無料で公開しちゃうの!」と思った方はライブ会場などで鳥居にお詰め寄りください。何かしらの形でお詫びいたします。

「え、無料?全然課金するよ!」という奇特な方がいましたら、気が向いたときにnoteで公開中の記事を購入してください。サポートも随時受け付けています。勘違いなさっている方がいるといけないのではっきりさせておきますが、わたくしは断然ビッグマネーを掴みたいクチです。そのあたりをご考慮いただけると幸いです。

下のSpotifyのプレイリストは今回扱った音源をまとめたもの。ちなみにaikoと山下達郎はSpotifyにありません。音源を聴く場面で実際に聴きながら読み進めていただきたい。

トラップ・ビートが内包するリズムを分析

欧米のヒットチャートでヘゲモニーを握るトラップ的なビートは一聴すると珍奇なようでその実ベーシックなリズムの構造によって支えられているものである。例えばハーフタイム、ダブルタイム、ファンク、クラーベ、トレシージョといったキーワードからトラップを解析していくことが可能だ。トラップが内包するリズムの数々をひとつずつ取り上げたい。

本日取り組みたいものは以下の通り。

目次

  1. トラップは縦ノリ?
  2. “Mo Bamba”と同じBPMの曲を聴いてみる
  3. 倍なのか?ハーフなのか?二層式リズム
  4. トラップのフィールに近いものをファンクから探してみる
  5. ファンクに取り掛かる前にまずサブディビジョンを意識して聴いてみる
  6. We Will Rock Youを細分化
  7. 満を持してファンクに取り掛かる
  8. 水平的16ノート・フィールと垂直的16ノート・フィール
  9. クラーベについてかけあしでさらってみる
  10. サブディビジョンをグルーピングしてクラーベにしてみよう
  11. トレシージョ、3-3-2
  12. バックビートとは?
  13. クラーベ、ファンキードラマーをもとにトラップビートを作成するところをLogicで実演
  14. 脱中心化されたリズムの中心化

いやいや、ちょっと待て。そもそもトラップって何なの?と疑問に思われる方もいるかと思う。けれども「ジャズってなに?」「ロックってなに?」みたいな質問だと考えてここでは捨て置きたい。ほっといても現行のヒップホップを聴いていくうちになんとなくわかるかと思われる。

と言って次に進みたいところだが、やはりそれではあまりにも不親切なので、トラップのビートに限定して、その特徴について少し言及しておこう。まずローランド製のTR-808を用いたディケイの長いキックおよびベース、またはそれらを模した音源が低域を担う。2拍目、4拍目、いわゆるバックビートは808のクラップが鳴らされる。 キックとクラップの間を埋めるのは装飾的に配置されたスネアの音だ。クラップとスネアが中域を担う。そして、トラップで一番耳を引くであろうクレイジーなパターンのハイハットは8分、16分、32分、64分、3連、6連、12連という異なる単位の刻みを組み合わせたもので、これが高域を占めている。だいたいこれらのものがトラップ・ビートの特徴と言えよう。

トラップは縦ノリ?

定期的に開催している「邦ロックから遠く離れて」というトーク・イベントを通じてトラップビートメイキングに取り組むことになった。その際に、”How To Make Trap Beats”というようなタイトルのチュートリアル動画や、プロデューサーがビートメイキングの様子を撮影した動画を視聴して参考にすることが多かった。とりわけFACT MagazineがYouTubeで配信している名物企画”Against The Clock”はトラップと関係なくよく視聴した。”Against The Clock”は10分という制限時間内にビートを作成する企画だ。それににヒップホップのプロデューサー、Zaytovenが出演する回があり、その中で、彼がビートメイキングしている際のノリ方、つまり体の動かし方を観てトラップのノリ方に開眼したところがある。Zaytovenは上半身を縦に揺らしてリズムを取っている。こうやってリズムを取るんだと納得したのだ。

トラップは縦ノリであると強く印象づけたものとして、他にはSheck Wesのライブ動画も忘れがたい。

縦ノリ、そして大合唱。客はトラックの倍のテンポでリズムを取っている。ラッパー本人も同様。むしろトラックのほうがハーフテンポと考えることもできる。なんにせよBPM72とBPM144の二層構造になっているといえる。トラップビートというものは基本的にこの構造になっているといって差し支えないだろう。

“Mo Bamba”と同じBPMの曲を聴いてみる

“Mo Bamba”のBPMは72。BPM72の曲をすこし聴いてみたい。

BPM72周辺

♪ 中島美嘉 – 雪の華(BPM72)
♪ aiko – カブトムシ(BPM74)

いわゆるバラードのテンポ。コンサートにおいて聴衆は左右に手を振ってノってしかるべきテンポといえよう。むしろノらずにじっと歌唱に耳を傾けるのかもしれない。実際のところは不明。次は72の倍、BPM144の曲を聴いてみる。

BPM144

♪ Nirvana – Sliver
♪ Britney Spears – Toxic
♪ Offspring – Pretty Fly (For A White Guy)

早め、いわゆるアップテンポのロック、ポップス。

倍なのか?ハーフなのか?二層式リズム

トラップはこれらふたつのBPMが同居するような感覚を持つ二層式のリズム。こうした感覚を持つトラックは2000年前後からヒップホップ、R&Bにおいて流行した。

♪ Destiney’s Child – Say My Name
♪ Brandy – Never Say Never
♪ TLC – Fanmail

これらのトラックのサブディビジョンは32分音符。スネアを2、4拍目のバックビートだと解釈したときの話だが。早くもあり、また遅くもある。複線的なリズムと言って良い。SMAPの「らいおんハート」のトラックを同じ構造になっている。一方、先ほど聴いたバラードやロックは単線的といえよう。しかし、バラードを倍のテンポでリズムを取ってみるとなんとも言えないおもしろさがある。

♪ いきものがかり – ありがとう

余談だが、J-POPのバラードに倍テンの4つ打ちキックいれて踊り狂うイベントすでにありそうだと感じる。実際のところあるのだろうか。あれば盛り上がりそう。

トラップのフィールに近いものをファンクから探してみる

トラップにリズムの感覚に近い音楽がかつてなかったのか?なかったわけがないだろうと考えたときに、あるタイプにファンクが近いように思われた。それらを紹介したい。したいのだがしかし、その前に周到に取り組みたいことがある。

ファンクに取り掛かる前にまずサブディビジョンを意識してみる

サブディジョンってなんぞやと思う方のために、周辺の用語と併せて説明したい。

・ビート
拍、拍子。BPMとはBeat Per Minuteの略。1分間の拍数のこと。

・サブディビジョン
拍を細分化したものの最小単位のこととする。あくまで、このテキストにおける用法であって一般性は保証しない。

・パルス
脈。用法に幅のある用語だが、ここではビートを細分化したものある単位でグルーピングし、それを連続させたものをパルスとする。イメージとしては周期性をともなった波形。こちらも一般的な用法ではない。

今まではサブディビジョンとパルスをごちゃ混ぜにして使用してきたが、今回からきっちり分けたいと思う。現時点ではこれらの用語についてなんのことやらよくわからないかもしれないが、話が進むうちに意味がはっきりしてくると思われる。

We Will Rock Youを細分化

「ぶんぶんぶん」という有名な童謡をふざけて「ぶるんぶるんぶるん はるちるがるとるぶるん」と歌う遊びをご存知だろうか。これから行うことはこの遊びに近い。

課題曲に選んだのは”We Will Rock You”。最初に足と手を使って”We Will Rock You”のリズムをパターンをみんなで実演してみよう。映画『ボヘミアン・ラプソディ』では「みんなが参加できる曲が欲しいとブライアン・メイが考えて作った曲というエピソードが披露されていた。

♪ Queen – We Will Rock You

|ドンドンパン・ドンドンパン|
|パジェロ・パジェロ|
|めぐろ・めぐろ|

足踏みと手拍子によって演奏されるリズムパターンを聴こえたまま擬音で表記すれば上記の「ドンドンパン」ようになる。下の「パジェロ」および「めぐろ」という表記は日本語でリズムを模したもの。「パジェロ」といいながら再度実演してみよう。

実はこれらの解釈を悪い例として挙げた。この取り方だとロックや飲み会のコールは対応できてもファンクには対応できない。なぜならファンクはサブディビジョンが細かいから。”We Will Rock You”をファンク的に解釈すると以下のようになる。

|どつ・どつ・たつつつ・どつ・どつ・たつつつ|
|きよ・すみ・しらかわ・きよ・すみ・しらかわ|

「つ」の部分は実際には音が鳴っていないものの休符として感じるべきサブディビジョンを示したもの。「きよすみしらかわ」はサブディビジョンを日本語で模したもの。「き・す」で足踏み、「し」で手拍子を打てば”We Will Rock You”のパターンになる。なるのだが、「き・す・し」以外の部分も意識しなければ元の木阿弥。音が鳴っていない部分もしっかりとリズムを取ることを忘れずに。

なお、上記の文字をすべて合わせると16文字になるのはサブディビジョンが16分音符だから。言い換えると。1小節を16等分しているから。4/4拍子の1拍を4等分したと考えたら良い。

サブディビジョンを意識しながら、あるいは「きよすみしらかわ」と言いながら再度実演してみよう。「パジェロ」のときと曲の聴こえ方が変わったかどうか。フレディのボーカルにより接近して聴こえるようになったのではないか。

ちなみに、サブディビジョンについて改めて強く意識したのはモー娘。の加賀楓さんのインタビューをたまたま読んだのがきっかけ。

モーニング娘。’18加賀楓が「リズム」を通して発見したこと

https://rollingstonejapan.com/articles/detail/29611/1/1/1

満を持してファンクに取り掛かる

おそらくドラムの入門書にはファンクとは16ビートで演奏される音楽というような表記があると思われる。実際その通りだ。なお、すでに書いたがビートというのは拍のことなので、16ビートは本来16拍という意味になる。ファンクは多くのポピュラーミュージックと同様に基本的に4拍子で演奏されるものなので、16拍と言われても何のことを言っているのかよくわからない。そんなわけで、16ビートという用語は使用せず英語式の16ノート・フィールというふうに呼んでいきたい…ところなのだが、面倒なので16ビートと呼んでしまうことにする。ちなみにノートとは音符のこと。16ノートは16分音符を指す。

16ビートの何が16なのかといえばハットの刻み。16分刻みのハットでインパクトをもたらしたのはスライの”Stand!”のコーダ部分。細野晴臣だったか林立夫だったかが衝撃を受けたとどこかで言っていた気がする。

♪ Sly And The Family Stone – Stand!

水平的16ノート・フィールと垂直的16ノート・フィール

16ビートは2種類に分類できる。一般的な16ビートはハットを両手で刻んで1・3拍目にキック、2・4拍目にスネアを入れるというもの。ディスコ・ビートと呼ぶこともある。ドラム初心者が8ビートの次の取り組むリズム。実例を少し聴いてみよう。

♪ Blondie – Rapture
♪ Chic – Good Times

もう一方は右手でハットを16分で刻みつつ2・4拍目にスネアを入れ、さらにスネアのゴーストノートを鳴らしながらシンコペートしたキックを入れたりするパターン。その誕生はディスコ・ビートよりも古い。

♪ James Brown – Funky drummer
♪ Bill Withers – Use Me
♪ Childish Ganbino – Have Some Love

リズムの取り方として、前者が1拍ごとに水平に揺れて取るとしっくりくるものとすれば、後者は1拍につき2回ずつ、つまり8分の刻みで垂直に揺れて取るとしっくりくるものになっている。感覚的な話で恐縮だが、そういうものだと思っていただきたい。

前者を「水平的16ノート・フィール(以下水平的16)」、後者を「垂直的16ノート・フィール(以下垂直的16)」と呼びたい。横ノリ、縦ノリという言葉もあるが、解釈に幅がありそうなのと、あまりかっこよくないので、別称を考えた次第だ。

この二つのどこで差がつくのか考えてみると、パルスの取り分け方にある。つまり16個のパルスをどのようにグルーピングしていくかということだ。

まず、1小節を1枚のピザに見立ててみたい。4拍子なので4等分したのちに、さらに4等分して16切れのピザにする。水平的16では4人にピザを4切れずつ配るのに対して、垂直的16では8人に2切れずつ配る。つまり1枚のピザを4等分するか8等分するかの違いということ。言い方を変えればハット4つでパルスの波ひとつとするのか、ハット2つでパルスの波ひとつとするのかの違いとなる。サブディビジョンが4等分したピザをさらに細かく等分した最小単位だとすると、パルスは人数となる。

リズムアナトミーにお越しいただいた方にはすでにお話したことだが、ここで少しリズムの取り方の基本について説明したい。1拍は基本的にオモテとウラに役割が振り分けられている。4拍子の場合、1拍は4分音符に相当する。それを二つに割って二つの8分音符にする。そして、前半の8分音符をオモテ、後半のそれをウラとする。このオモテとウラをガイドに体を前後、左右、上下に往復させてリズムを取っていく。オモテが往路、ウラが復路。もっといえばオモテで筋肉を脱力させ、ウラで緊張させる。例えば頭を前後に動かしてリズムを取るする際は、力を抜いて顎を前方に突き出すと同時にオモテに突入し、ウラに変化するタイミングめがけて首に力を入れて頭を後方にひっこめる。これがベーシックなリズムの取り方。この往復運動をパルスと呼ぶこともできよう。

水平的16のほうはピザ4切れ分につき1度の往復運動を行う。垂直的16のほうはピザ2切れにつき1度の往復運動を行う。垂直的16は水平的16に対して往復する回数が2倍になる。パルスの幅が短くなった分、波形が鋭角になる。いわゆる縦ノリになるということだ。

水平的16のほうはキックとスネアがオモテのときにしか鳴らないのであまり緊張感がない。逆にいえばノリやすいともいえる。

わざわざピザに例えてみる必要があったのか不明だが、ともかく、サブディビジョンをグルーピングするという考え方はこの後に扱うクラーべにおいても大事なのでしっかりと押さえておきたい。

Sheck Wesのライブ映像を観ればわかるとおり、トラップの乗り方は垂直的16と言っても良い。トラップのフィールに近いファンクを他にも聴いてみよう。4という1拍のサブディビジョンを2つずつにまとめたパルス、つまり1小節を8等分するパルスで構成されたタイプのファンク。

♪ Betty Davis – They Say I’m Different
♪ Funkadelic – Hit It and Quit It

余談だが、パンク寄りのロックの産湯に浸かって育ったミュージシャンはピザを等分してリズムを作っていくという感覚が希薄でどうしてもブロックを積み上げていくようなリズムになってしまいがち。走高跳をすると踏切で歩数が合わなくなり棒につっこんでしまうようなリズム。ドラムでいうとフィルの後の1拍目が遅れてしまう。いいかえれば周期性がないということ。

クラーベについてかけあしでさらってみる

『文化系のためのヒップホップ入門』(長谷川町蔵・大和田俊之)でも指摘があったが、2000年ごろよりサザンヒッピホップの台頭とともにクラーベ的なビートのトラックが流行するようになった。トラップにもそうした感覚が根付いているように感じている。例えば・・・・

♪ Travis Scot – YOSEMITE

クラーベとは大雑把に言ってキューバ音楽で使われるリズムパターンのこと。通常クラベスという木製の拍子木のような楽器を打ち合わせて以下のように演奏する。

|X..X..X.|..X.X..|

ボ・ディドリー・ビートないしジャングル・ビートでもおなじみ。山下達郎の「ドーナツ・ソング」や「ジャングル・スウィング」のパターンといえば話が早いか。ニューオーリンズのセカンドラインと呼ばれるビートもクラーベと同じパターン。

♪ The Rolling Stones – Not Fade Away
♪ Dr John – Iko Iko
♪ 山下達郎 – ドーナツ・ソング

早速クラーベが鳴らされているキューバの音源を聴いてみたい。

♪ Sexteto Habanero – La Loma De Belen

こちらはソンと呼ばれるスタイルのキューバ音楽。ソン初期のヒット曲。1925年にリリースされたSP盤を盤起こしした音源。クラーベには3-2クラーベと2-3クラーベがあり、こちらは前者。

♪ Don Azpiazu – El manisero

こちらは2-3クラーベ。世界中でヒットしたソンの代表曲。日本では「南京豆売り」として有名。 アメリカでは 「ルンバ」として紹介されたが、キューバにおける「ルンバ」は打楽器とコール&レスポンスをベースとした音楽を指す。こちらは1930年のSP盤を盤起こしした音源。

クラーベの由来について決定的なことは言えないが、アフリカから奴隷としてキューバに運ばれてきたエウェ族が持ってきたハチロクないし12/8拍子で演奏されるベル・パターンがスペインから来た白人の2拍子と混ざって生まれたのではないという説が一般的・・・といって良いのだろうか。文献にあたっても決定的なことは書かれていない。だから、あまり迂闊なことは言えない。キューバ音楽は混血の音楽と呼ばれることがあるが、クラーベこそ混血のリズムだといえよう。

♪ Ewe musicians, dancers – Kpegisu

ガーナからナイジェリアに居住するエウェ族のベル・パターンを聴いてみる。12/8拍子で演奏されている。ベル・パターンと4分で打たれるもう一方のベルがいわゆるクロスリズムになっている。

♪ Drums of the Yoruba of Nigeria – Bata Drum

キューバ音楽の誕生に寄与したナイジェリアのヨルバ族のバタドラムの演奏。ハチロクと4拍子のクロスリズム。

|X.X.X..X.X..|

上記のパターンは標準パターンと呼ばれるベル・パターン。これがどのようにクラーベに変化したのか示した音源を作成したので聴いていただきたい。

まず、ベル・パターンとクラーベをそれぞれ2回分ずつ聴いてみる。最初にアゴゴで2小節分カウントいれている。そのあとに演奏されるのがベル・パターン、次がクラーベという順番。サブディビジョンおよびグルーピングを示したパーカッションを音もつけてある。

次に2回分ずつ交互に聴き比べてみる。

今度はサブディビジョンのグルーピングを示した音を抜いたベル・パターンのみ、クラーベのみの演奏を2回分ずつ交互に聴いてみる。

最後はベル・パターンとクラーベを同時に鳴らしたもの。パンを調整して、前者を左に、後者を右に振ってある。

サブディビジョンをグルーピングしてクラーベにしてみよう

クラーベの5つの打点を以下のように解釈してはいけない。

|な・か・め・ぐ・ろ|

これでは日本式の337拍子だったり、「伯方の塩!」のようになってしまう。ただしくは以下のように解釈する。

|うえの・おかち・まち・こま・ざわ・だい・がく|

上記の文字列の「う・お・ま・ざ・だ」でクラベスを鳴らせばクラーベになるということ。「うえのおかちまちこまざわだいがく」と唱えながら「う・お・ま・ざ・だ」のタミングで手拍子を打つとパルスを伴ったクラーベになる。我々は休符を文字通りお休みの箇所だと感じてしまいがちなのだが、実際は音が鳴っていなくともサブディビジョンを感じていなければならない。サブディビジョンをグルーピングしたものだと考えてクラーベを打つことが大事。日本語のアクセントおよび発音で駅名を唱えるとリズムにならないので、まるでロボットかのごとくアクセントをつけず一文字ずつぶつぎりで唱えなければならないことに注意。

クラーベは「33424」と表記されることがある。これはサブディビジョンをグルーピングした数の表記となっている。つまり、3(うえの)3(おかち)4(まちこま)2(ざわ)4(だいがく)ということ。以下のように別の駅に置き換えるとわかりやすいかもしれない。

|めぐろ・えびす・のぎざか・みた・あかさか|

ただし33424というふう表記してしまうと、2-3クラーベを一体どのように表記したら良いのかという問題にぶちあたる。なぜなら2-3クラーベは1拍目が8分休符だから。224332となるのか?最初の頭の2は休符なのだが・・・この問題は今は捨て置く。

日本語は子音が弱いので、あまりリズムを取るために使用するには向いていない気がする。妥協案として以下のように唱えながら取り組んでみると良いかと思われる。

|たつつたつつたつつつたつたつつつ|

クラーベ練習用音源を用意したので、それに合わせてサブディビジョンを意識しながらクラーベを打ってみよう。


クラーベのグルーピングを意識しつつキューバ音楽を再度聴いてみよう。

♪ Septeto Nacional Ignacio Piñeiro – Viva el Bongo

このようにサブディビジョンを意識しながらクラーベを聴くと自然と16分音符2つで往復する垂直的16でリズムを取りたくならないだろうか。この感覚はトラップを聴くうえで大事なことなので、頭の片隅に置いておいていただきたい。

トレシージョ(3-3-2)とは?

トレシージョとはスペイン語で三つ子のこと。クラーベの前半部分をこのように呼ぶ。16分音符8つを3-3-2でグルーピングしたものと考えて良い。例のごとく駅名で表すと以下の通り。

|めぐろ・えびす・みた|

トレシージョは3連符を無理やり2/4拍子に組み込んだしたものとも考えられる。アフリカ由来のハチロクと4拍子のクロスリズムを2/4拍子に落とし込んだものというか、クロスリズムに馴染みのない西洋の人間がそのように聴いてしまったのではないかという話。

クロスリズムは一聴するととっつきにくく感じられるかもしれないが、構造はいたってシンプル。12個のキャンディを6人に2つずつ配ったグループと4人に3つずつ配ったグループが同じ部屋にいると考えればよい。

もう少し具体的に説明したい。まず1小節を6等分して6つの点を用意する。それをさらに2等分して12個の点にする。ハチロクで刻む場合は12個の点を2個ずつグルーピングして6つのグループを作る。4拍子で刻む場合は12個の点を3個ずるグルーピングして4つのグループを作る。図示すると以下のとおり。

|X.X.X.X.X.X.| ハチロク
|X.. X.. X.. X..| 4拍子

例のごとく駅名で表記すると以下のとおり。

|あけぼのばしあけぼのばし|
|ひがしなかのひがしなかの|

上がハチロク(「あ・ぼ・ば」が打点) 、下が 4拍子(「ひ・な」が打点)。

「Groove Pizza」というアメリカの音楽教育家が開発したソフトがある。ピザの形をしたドラムマシーンのようなものだ。こちらを使用してクロスリズムを作成すると、視覚的にもわかりやすくより理解が深まるかと思うので是非確認されたい。

https://apps.musedlab.org/groovepizza/?source=pub&museid=HyITfxDmV&show-grid=true&multi-lock=&brainpop=false&midimap=&

両手で机や太ももなど叩いてクロスリズムを演奏したいときは、以下のように右手でハチロク、左手で4拍子を演奏すれば良い。右手、左手を入れ替えたり、両手、両足に割り振ってとっても良いだろう。

|R.R.R.R.R.R.| ハチロク
|L..L..L..L..| 4拍子

クロスリズムとトレシージョを比較した音源を用意したので聴いていただきたい。

4分のキックは鳴らしっぱなしにしている。2小節あって、最初に演奏されるハットがハチロク。それが2回繰り返された後に、演奏されるハットのパターンがトレシージョ。

少し脱線するがせっかくなのでクロスリズムを使ったアフロファンクを聴いてみよう。

♪ Fela Kuti & The Africa ’70 – Observation Is No Crime
♪ Jingo – Fever

後者は初めて聴いたときにリズムがどういう構造になっているのかまったくわからなかった。おそらくスネアをバックビートだと解釈してしまったから。ドラム単体で聴けばスネアがバックビートになるのだが、他の楽器のパルスを基準にするとスネアが鳴るのは2拍目、4拍目のウラになるからバックビートとは言えない。バックビートは通常2、4拍目のオモテで鳴らされるもの。我々はスネアのタイミング=オモテだと考えてしまいがち。

トレシージョの仲間にハバネラと呼ばれるリズムパターンがある。ハバネラは1800年頃フランス人によってカリブ海に持ち込まれたイギリスのカントリー・ダンスに黒人風のリズム感覚が加わって生まれたリズムで、4分の2拍子で演奏される「タタンタ・タンタン」「ターンタ・タンタン」というリズムが一般的なものだ。白人が作ったアフロ風パターンと言ってよい。

♪ Maria Callas – Carmen “L’amour est un oiseau rebelle” (Habanera)

ハバネラのパターンはトレシージョに2、4拍目(バックビート)がくっついたものだといえよう。ちなみに先程聴いたOffspringの”Prety Fly”のメインのリフはハバネラのパターンだ。

トレシージョはポップスにおいて頻繁に使用されるリズムフィギュアである。ウワモノのループ、ベースのパターンなどで散見される。現在はトレシージョの時代と言って良いほど。ビルボードの常連ジャンルのレゲトンはその代表と言ってよい。

♪ MIA – Bad Bunny Featuring Drake

Sheck Wesの”Mo Bamba”もウワモノのループはトレシージョになっている。

♪ Drake – Passionfruits

ドレイクの”Passionfruits”はトラップではないが、ウワモノのループが3-3-2になっている。

レゲトンとトラップが決定的に違うのはトラップはバックビートを遵守しているところ。

バックビートとは?

説明するまでもないが、2、4拍目に鳴らされるスネアのこと。アール・パーマーの録音を始祖とするのが定説。誕生以来ポップスの定番ビートとなった。昔(50年代ごろの話?)の日本人は2、4拍目に手拍子を入れるのが苦手でロックのコンサートでも1、3拍目に手拍子を入れていたなんて話があるが、本当か?

♪ Fats Domino – The Fat Man

クラーベ、ファンキードラマーをもとにトラップビートを作成するところをLogicで実演

※イベントではLogicの画面を観ながら説明していったが、テキスト上では同じようにはできないので、今回はそれをまとめた音源を聴いていただきたい。

音源はまずアゴゴベルの音色のクリックが2小節あった後以下のように進行していく。それぞれ4小節でひとつの単位となっている。

  1. クラーベのパターンを作成する
  2. クラーベを808のキックで鳴らす
  3. バックビートとして808のハンドクラップを鳴らす
  4. キックとクラップの重なるクラーベの最後の部分のキックを抜く
  5. “Funky Drummer”のリズムパターンを用意
  6. “Funky Drummer”のキックを消してスネアとハットを808で鳴らす
  7. ミュートしていたキックとクラップを戻す
  8. “Funky Drummer”のハットをトラップ的なハットに変える
  9. 完成

これでトラップのベーシックなビートが完成する。もちろん他にもベーシックなパターンは存在する。例えばクラーベの前半の3のほうの真ん中にあたる音を抜いたパターンだ。 ハーフテンポのトレシージョが感じられるパターンといえよう。 後半部分のバックビートとかぶって消した部分を後ろに16分音符ひとつぶんずらすパターンも多い。

脱中心化されたリズムの中心化

以上、見てきたとおり、トラップは様々なリズムを内在させつつそれを撹乱するようなところがある。脱中心化されたリズムと言って良いだろう。刻みの単位がめまぐるしく変化するクレイジーなハットのパターンなんて良い例だ。そして、トラップにおけるラップに3連のフローと16分のフローが同居するのは、トラップのビートの内部で様々なパルスが同時に進行しているからではなかろうか。

おもしろいのは撹乱されたリズムの要素が縦ノリに収斂していったところだろう。トラップがパンクなどの縦ノリでのってしかるべきタイプの音楽と決定に違うところは縦ノリのガイドとなる音がわかりやすく示されていないところだ。敢えて図式的に言ってしまえば、パンクが自ら手拍子している音楽だとすれば、トラップは手のひらをこちらに向けてハイタッチを要求している音楽である。(ここではどちらが偉いとか音楽的に優れているといったことまで言及はしていない。念のため。)我々は自らその音楽に参加する心づもりで聴いたり踊ったりしないことには楽しめない。というか、聴いていても大しておもしろくない。(そんなことを言えば、パンクのライブ、ひいてはどのような場であっても同様ではあるだろうが) 逆にいえば押し付けがましさのない音楽だといえよう。

 

ゆく鳥居くる鳥居(2018年営業報告)

Notoriious B.l.G.読者のみなさん、メリークリスマス!Torry Chistmasamichi!

昨年、一昨年と「ゆく鳥居くる鳥居」と題してその年の個人活動をひとつひとつ振り返る記事を書いた。例のごとく今年も書いていきたい。

一年の活動をまとめるのはわりと疲れるので今年はやめておこうかと思ったけれど、もはや自分のことは自分で丁寧に扱う以外にどうすることもできないからやはり取り組んでいくことにする。自分のことは自分で可愛がっていくほかない。まさに「期待は失望の母である」の精神。念のために補足しておくと、これは大瀧詠一が残したナイアガラ語録で最も有名なものだが、どうせ失望するはめになるから何かに期待するなという意味ではなく、他人に期待して失望するぐらいなら自分でやれというメッセージが込められている言葉だ。

話のついでにナルシシズムに関して思うところを申すと、他人の視線越しに自分にうっとりすることを望んで欲求不満を抱えるよりも、鏡を見て自分の目で自分を見つめてうっとりしたほうが断然良いと思っている。「非モテ」だの「非リア」だのお仕着せのくだらない概念とはおさらばして、ユーライア・ヒープの『対自核』よろしく自分と向き合えば良い。そして、愛でたら良い。それが最近の持論。これがなかなか難しいけどね。握手会でスルーされたこととか常に頭の片隅にあるもんな。ポスト・マローンが左右それぞれの目の下に”Always”、”Tired”と書かれたタトゥーを入れているけど、自分の場合は鏡を見る度に目の下に「握手会で」「スルーされた」と刻まれたタトゥーを幻視してしまう。いや、だからこそ自分で愛でろという話なのだが。

昨年は記事の冒頭でこんなことを書いた。

来年はもっと出世し、多くの人に認知され、一つ一つ振り返っていられないほど大量に仕事をこなし、その結果この企画が今年限りのものとなることを願う。ただ「期待は失望の母である」といったナイアガラ語録もあることだし他人に期待していてもしょうがない。自ら動いていかねばなるまい。邪魔するやつは上にスワイプして消すのがウチらのルールだよねって言うてます。こんにちは!

自ら積極的に動くこともあまりなかったし、現状として「一つ一つ振り返っていられないほど大量に仕事」をこなしているとは言い難い。鳥居も人の子だから忙しいのは嫌だけど、音楽のこととなれば別腹で、永遠に作業し続けることが可能だから本当はもっとたくさん仕事がしたい。けれども仕事というものは誰かから振られて初めて仕事の体をなす。依頼がないことにはどうしようもない。どこからか大量のオファーが舞い込んでこないものか。理想の生活は、ひたすら家に籠もって作業し、空いた時間で平日の昼間から映画を観に行き、ユニオンをすこし覗いて、何か美味しいものを食べて帰るというもの。そんな生活がしてみたい。来年は少しでも理想の生活に近づけたら良いのだが・・・良い感じのおうちに引っ越したいし、ハワイへ旅行に行きたい。ハワイへ行ってステーキやパンケーキが食べたい!

例年のごとくバンドの活動については振り返らない。『ボヘミアン・ラプソディ』のラストに感動し、涙したからこそ、活動中のバンドとして自ら物語風の何かを演出することは自粛したい。『ボヘミアン・ラプソディ』に何に感動するかといえば、フレディ・マーキュリーやメンバーたちが音楽に献身する姿の愚直さであろう。彼らは決して物語へ身を捧げていたわけではない。そこを履き違えてもっぱら活動における美談めいたものを吐き散らかした後に一体何が残るというのか。そんな具合に、大上段に構えてみたものの、自分が美談めいたものを書くとは思えないが。

なにはともあれ、2018年の仕事を振り返っていきたい。振り返るにあたって参考にしているのは、ウィキペディアのトリプルファイヤーのページだ。いつも編集してくださっている方にシャウトアウトを送りたい。本当にありがとうございます。

1/5 正月特別番組「More Than Liner Notes 私の1枚~世代を超えて~」(ラジオ)

新年一発目の仕事は、萩原健太さん、亀渕昭信さん、ピーター・バラカンさんがDJを務めるラジオ番組にゲスト出演という大仕事(収録は去年の暮れだったが)。身に余る光栄とはまさにこのこと。ゲストは他にGLIM SPANKYの松尾レミさん。影響を受けたアルバムを一枚選んで、レジェンドであるDJお三方と音楽談義するという内容。とってもとっても緊張した。放送を聞いたという方は「妙な緊張感が張り詰めていて良かったよ」と仰っていた。後日、放送を聞いたところ、松尾レミさんは堂々とお話しており、自分とは大違い。わたしは話すことがあまり得意ではないけれど、いつか「鳥ちゃんのとりいそぎご報告ッ!」というラジオ番組を持つのが夢だ。タイトルは再考の余地があるが・・・

後日、電子書籍版音楽雑誌「ERIS/エリス」第22号に放送内容が掲載された。申し込むとバックナンバーを読むことができます。未読の方は是非読んでみてください。

音楽雑誌「エリス」

2/6 トリプルファイヤー・リズムアナトミー vol.2 (トークイベント)

リズム・アナトミーが好評につき早速第二弾。ゲストは、新間功人さん(1983 / トクマルシューゴ etc)、 西田修大さん(吉田ヨウヘイgroup etc)、シマダボーイさん。こちらのイベントについてはすでに記事にしたのでそちらを参照されたし。

http://notoriious.wpblog.jp/?p=5477

2/17 Record Snore Day #5 (DJ)

小柳帝さん、ミツメのまおくん、ナカヤーンと始めたDJイベントが早いもので第5回目。ゲストは池田若菜さんと内藤彩さん。池田さんは、新間さんプレゼンツ「不明なアーティスト」でご一緒したときにレコメン女子であることが判明し、勝手にシンパシーを抱いていたし、内藤さんはかねてよりディープなリスナーだと存じ上げていた。現在彼女たちはThe Ratelというバンドを組んで活動されております。

3/10 HOPI presents “SUN” (DJ)

The Morningsがじゃんじゃん活動していた頃からよくお世話になっていたぽんたさんとじゅんやさんが現在取り組んでいるHOPIの企画でDJ。バレアリック、アフロ/コズミックを中心に選曲。DJの場合、ひとりで会場入りして、ひとりで準備して、ひとりで待機し、ひとりで帰ることになるのでやや不安に感じることもあるが、自分のペースで行動できるから気楽といえば気楽。普段あまり喋る機会のない人と話すタイミングもあったりして楽しい。

3/14 Music Voyage DJ ピーター・バラカン×鳥居真道 (DJ)

ピーター・バラカンさんとのB2Bの三回目!昨年に続いて今年もホワイトデーの開催となった。こちらも既に記事にしたので参照されたし、と書こうと思ったところ記事にしていなかった。当然書いているものだろうと思っていた。なんたる不覚。当日のセットリストは会場のCafe 104.5のHPで確認されたい。

Peter Barakan × Masamichi ToriiMusic Voyage : ピーター・バラカン × 鳥居真道 2018.3.14 wed. | cafe104.5(カフェイチマルヨンゴー)

5/25 RECORD SNORE DAY presents“PROJECT GEMINI”(DJ)

RSDの番外編として小柳帝さんとふたりで「PROJECT GEMINI」というイベント開催。ふたりとも双子座ということで、アメリカで60年代に行われた宇宙開発「ジェミニ計画」をもじってこのイベント名となった。ゴッドファーザーは小柳さん。洒落てて素敵なイベント名!RSDとは少し趣向を変えて予めテーマを決めておいて選曲し、コメントを付け加えるという内容にした。今回はふたりということもあり、小柳さんのレコード・ディグのディープさを改めて思い知り敬服した次第でございます。

6/25 邦ロックから遠く離れて(トークイベント)

リズム・アナトミーの流れで歌舞伎町でオープンしたRock Cafe Loftでアメリカヒットチャートについてあれこれ話すイベントを行うことになった。このイベントに関しては既に記事にしたのでそちらを参考にされたし。

http://notoriious.wpblog.jp/?p=6301

7/15 Record Snore Day #6(DJ)

年内二度目のRSD。今回のゲストは以前RSD鎌倉編でご協力いただいvivement dimanche店主である堀内隆志さんと、RSDのネット配信でご協力いただいた映像作家・デザイナーの関山雄太さん。

アフロ/コズミックやバレアリック的文脈で再評価されている安レコを中心に選曲。ほとんど3ケタで買ったレコードばかり。

7/30 邦ロックから遠く離れて vol.2(トークイベント)

「邦ロックから~」につき割愛。

9/3 邦ロックから遠く離れて vol.3 (トークイベント)

「邦ロックから~」につき割愛。

10/6 僕とジョルジュ 高円寺HIGH (サポート)

昨年の12月以来の僕とジョルジュのサポート。メンバーは佐久間裕太さん、厚海義朗さん、そして、姫乃たまさんと佐藤優介さん。今回もとっても楽しかった。最初と最後に長尺ジャムを行ったが、これがまた新鮮だった。サポートをやるとリッチな音色のギターが欲しくなる。ところで艶っぽい音ってどうやって出すんだろう。

10/12 僕とジョルジュ 西麻布SuperDeluxe (サポート )

一週間後、僕ジョルサポート再び。やはりサポートという立場でギターソロを弾く場合はきちんと矢面に立たなくてはいけないと思っている。キメッキメのギター・ソロを弾くことは屹立した男性器を公衆の面前に顕示し、それを自らの手でしごき倒すようなものと言う人がいてなんだか考え込んでしまったけれど、やはり弾くときは弾かなくてはいけない。The Only Onesの”Another Girl, Another Planet”のギターソロとか最高じゃない。元々そうしたギターソロばかりコピーしていたので、手練手管のスタジオミュージシャンっぽいギターソロは全然弾けない。自慢することではないけれど。

この日はトリプルファイヤーのライブとダブルヘッダーだったのでライブ終了とともに六本木から新代田へ移動。気が昂ぶっていたようで気がついたらバスで独り言をぶつぶつ言っていた。

10/10 邦ロックから遠く離れて vol.4 (トークイベント)

「邦ロックから~」につき割愛。

11/10 NEWTOWN2018「NEWTOWN屋上庭園」(DJ)

このイベントについては、既に記事にしたのでそちらを参照されたい。

http://notoriious.wpblog.jp/?p=6257

11/17 Record Snore Day #7 (DJ)

今年三度目のレコードスノアデイ。ゲストは岡田拓郎さん。岡田さんは、柴田聡子さんをトリプルファイヤーの企画にお招きした際にinFireのギタリストとして参加されており、そのときに話しかけてくれたおかげで、直接面識を得ることができた。その節はどうもありがとうございました!

今回も再び安レコ・バレアリック、安レコ・アフロ/コズミック路線。そもそもバレアリックとかアフロ/コズミック自体が底値をついた安レコを新たな価値観で評価するという側面を持っているはずだから、ことさら安レコを強調するのもおかしな話か。

11/20 明日のアーvol.4『観光』メインテーマ (楽曲提供)

ウチらの靖直吉田や張江さん、左右のふたりも出演する「明日のアー」を主宰する大北栄人さんからコントの中で使用する楽曲の制作依頼をいただいた。メインテーマになるとのことで、気合を入れて作業。

公演を観に行き、たくさん笑った。中でも印象に残ったのは四角い形をした一家が四角い家で繰り広げるコント。その家族が箱ゆえに物事が滑らかに進んでいかないのだが、そのことによって生じる気まずさが本当におかしかった

11/29 今月の25曲 | 2018年11月編 Selected by stttr、高橋アフィ、CH.0、鳥居真道、Lil Mofo(寄稿)

文章を寄稿することは、映画の試写に招待されることと並ぶ文化系ドリームのひとつである。文章を書くことはあまり苦にならないのでいくらでも書くことができる。だから寄稿でもなんでもしたいのだが依頼が来ない。その原因は一体なんなのか。単に存在を認知されていないからなのか。クオリティが低いからなのか。人としての魅力に欠けるからか。色々と思案していたところ連載企画が始まった。なんと愛読している音楽系ニュースサイトFNMNLからのご依頼。とってもとっても喜ばしいことだ。「今月の25曲」というテーマの連載で、5人の執筆陣がひそれぞれ5曲ずつ選んでコメントを寄せるというものだ。しかし、文章を書くとどうしても長くなってしまうんだよなあ。今後は改めたい。

11/30 おとといフライデー / 『東京』(楽曲提供)

昨年の1月頃に着手した提供曲が目出度くリリースされた。その提供曲とは小島みなみさんと紗倉まなさんからなるおとといフライデーの『東京』のことである。30歳のポップス初期衝動が込められた曲。サビに行くまでに展開が3つあるのも初、曲中で拍子が変わるのも初、Dメロ的な展開が2回あるのも初、サビで転調するのも初、3サビで転調するのも初、ギターソロで転調するのも初、ふたつめのDメロでハーフテンポになるのも初で、とにかく初物づくしの曲だ。

作詞は大橋裕之さん。トラック制作にあたり、鍵盤を佐藤優介さんに、ドラムを羽田正也さんにお願いした。作曲、編曲、ギターとベースの演奏はわたくし鳥居。小島さんと紗倉さんの声って本当にチャーミングだと思わない?

11/26 邦ロックから遠く離れて vol.5 (トークイベント)

「邦ロックから~」につき割愛。

12/20 ミュージック・マガジン 2019年1月号 「音楽評論家/ライター、ミュージシャンが選ぶ2018年のベスト・アルバム10枚」 (寄稿)

昨年に続いてミュージック・マガジンの年間ベスト企画に参加。こんなに光栄なことはない。音楽配信サービスにより、ますます新譜を聴くのが楽しくなった一年だったが、他の方の選んだベストを見ると全然追えていないことがわかる。来年もたくさん聴いていきたい。

今回はっきりしたことは、新譜を聴く際にどうしても個人史/音楽史ではなくて音楽史/個人史になってしまうということ。表現の新しさのようなものはわりとどうでも良く、自分にとって新鮮かどうかが問題となる。糸井重里の「ほしいものが、ほしいわ」というコピーのようなトートロジーになってしまうが、端的に言えば「好きなものが、好きだわ」ということでしかない。ただ、趣味に閉じるつもりはなく、これから何を好きになるかわからないという可能性を捨てることなく、開かれた趣味にしたいとは思う。うまいねどうも。

12/26 セキトオ・シゲオ / The word Ⅱ Remixed 
by 鳥居真道(トリプルファイヤー)(リミックス)

初めてのリミックス仕事。しかもそれがセキトオ・シゲオと来た日には。というわけで張り切って作業。この「ザ・ワード Ⅱ」のリミックスは『セキトオ・シゲオ スペシャル・サウンド・セレクション』という編集盤のために制作したもので、マック・デマルコの来日公演で前座をつとめたトリプルファイヤーのギタリストというわけで今回ご依頼いただいた次第である。どうしてマック・デマルコが出てくるの、と思った方がいらっしゃるかもしれないが、そうしたことも併せて、「なぜ今セキトオ・シゲオなのか」といった話はCDに収められたCHEE SHIMIZUさんによる解説を読むと理解が進むこと請け合いだから、絶対に読んだほうが良い。

「ザ・ワード」はⅡのほうが有名だけど、Ⅰのほうもコズミックな趣のあるチャーミングなジャズロックでオススメ。

以上、2018年の営業報告。FNMNLの連載がアップされたら追加する予定。来年1月に情報公開がとっても楽しみなものがひとつあると密かに予告しておきたい。トリプルファイヤーのライブ開きは1月14日(月・祝日)の新年会。是非おこしください。

心せわしい年の暮れ、何かと御多用とは存じますが、何卒お気をつけて年末をお過ごしください。

 

高輪ゲートウェイ

先日、山手線に新たに増える駅の名称が「高輪ゲートウェイ」に決定した。ネット上では「ダサい」という声が多かった。たしかにダサい。母音が「ああああ」と続いた後に1文字目に濁点のついた横文字が来て「ウェイ」で閉じるという語感の座りの良さがとてもダサい。ちなみに一番最初に連想したのは「漫才ギャング」。
漢字二文字の後ろに横文字を持ってくるというセンスは、昭和62年生まれの我々世代には椎名林檎のイメージが強い。「無罪モラトリアム」「勝訴ストリップ」「発育ステータス」「御起立ジャポン」など。「大正デモクラシー」「大正ロマン」のような大時代的な和洋折衷の世界観を演出するために多用されたのだろう。
椎名林檎のデビューから数年経つと、国内のロックバンドの曲名などで漢字二文字と横文字というネーミングを目にする機会が増えた。椎名林檎に影響を受けたのかはよく知らない。ただ言えるのはその時点で既に椎名林檎にあったアナクロなイメージは形骸化していたということだ。ちょうどその頃は色気付いた高校生で、メジャーレーベルに所属しながらオルタナティブな音楽に取り組んでいて且つ、私大に通う垢抜けない学生っぽい見た目のドメスティックなロックバンドがあまり得意ではなかったから、彼らが多用した漢字二文字プラス横文字というネーミングにあまり良いイメージを持っていない。だからなんなんだという話ではあるが。
ところで「高輪ゲートウェイ」のダサさは漢字二文字の後ろに横文字に持ってきたことにあるわけではない。そんなことはまったくもって問題にならない。世の中には「中央フリーウェイ」というタイトルの名曲も存在する。だいたい「高輪ゲートウェイ」が山手線の駅名であるという前提を欠いたままそのダサさを品評しても仕方がない。既存の駅名と比べるとどう考えたってバランスが悪い。だから皆文句を言っているのだ。自分たちがこつこつと続けてきたパーティーに特に面識があるわけでもないダイモンジの龍谷(仮名)が突然やってきて我が物顔で「イエーイ!最高~!」なんて言おうものなら興醒めするはずだ。そういうことをするような奴だよ、高輪ゲートウェイは。ダサ坊お断り!
高輪ゲートウェイのダサさは名前そのものにあるというよりは、名前を付ける際に余計なことをしないと気が済まないケチくさい心性にある。それは、スティーブ・ヴァイのギターについている持ち手、通称「モンキー・グリップ」のようなダサさだ。よく取り沙汰される国内メーカーの自動車や家電のデザインを例にあげても良い。なぜ我々はいらぬ工夫を凝らしてしまうのか。なぜ我々はシンプルな白のコンバース・オールスターを選ぶことができないのか。なぜ大人になってもキャラクターグッズの類を身に着けてしまうのか。なぜ無地のTシャツを着ることができないのか。なぜ裾を折り返すと裏地がタータンチェックになっているズボンを履いてしまうのか。なぜ別にオシャレなんか興味ないもんみたいな顔を装いつつ悪目立ちはしたくないけれどほんの少しだけ人とは違うことがしたいという気持ちを捨てきれずに腰の引けたいじましい選択ばかりしてまうのか。
子供の頃、アーケードゲームの高得点者ランキングで「あああ」だとか「aaa」といった名前をよく目にした。SNSのアカウント名が「あ」みたいな人を見ると感動する。そうした真っ当なつまらなさを忘れてしまったか。「おもしろきこともなき世をおもしろく」を座右の銘にする人々は自分のせいでますます世の中がつまらなくなっているかもしれないとほんの少しでも考えたことがないのだろうか。「おもしろいことがやりたいんすよ~」という空疎な言葉が凡庸な業界人の口癖であることはもはや誰もが知るところだろう。
仮に我々が我々の人生の主人公であったとしても、自動的に他人が人生の脇役、ましてや人生の観客になるわけではない。人は誰かの人生を観劇するために生きるにあらず。ステージ袖で共演者のライブを観るときに、客席から見える位置に立つのはわざとだろう。友達とじゃれ合ってるふりをして「おい!おまえまじふっざけんなよ~!ほんと馬っ鹿じゃねえの~!」などと窪塚洋介のような調子で叫びながら女子のほうをチラチラ見ている男子高校生のようにみみっちい真似はもうやめるべきだ。
我々がアセンションするために必要なのは、なんとなくおもしろい感じのことをしてウケてやろうとすぐ考えてしまう精神を一切捨てることだ。気の利いた風の「おもしろ」企業アカウントの中の人のような存在を見つけたら唾を吐きかけて吐きかけて吐き続けて全身をべとべとにしてやらねばなるまい。例えこの身が干からびて朽ち果てようとも。この世界に「おもしろ」好きのサブカル糞野郎や2ちゃんねらー的な価値観を内面化したマザーファッカーどもの慰みとして存在するものなどひとつもなし。この世界を「おもしろいこと」から解放することこそが我々に課せられた唯一の使命である。
https://www.youtube.com/watch?v=5XM1C5c0oxw

 

「邦ロックから遠く離れて」とは一体?

「邦ロックから遠く離れて」という一体何をやっているのかよくわからないトークイベントを新宿のROCK CAFE LOFTで定期的に開催している。先日、年内最後となる第5回目を行った。口下手で人前で話すのが苦手で声を発するのも危ういというなんとも情けのない30過ぎの良い大人がトークイベントを半年も続けていることはまるで奇跡のようなことだが、これは120%一緒にやっている張江さん、田村さんのおかげである。本当にありがとうございます。もちろん根気よくお付き合いいただいているお客さんがいなければイベントは成立しないわけで、そのことには感謝しても感謝しきれない。いつも本当にありがとうございます。
http://notoriious.wpblog.jp/?p=6009
そもそもこのイベントは、「リズム・アナトミー」でお世話になっていたロフトの日野さんから張江さんに鳥居と二人でアメリカのヒット曲について話すイベントをやってくれないかという話があって始まったものだ。リズムアナトミーでもアメリカのヒット曲についてすこし取り上げることがあったから、それがキッカケとなったのだろう。そこに張江さんの高校時代の友人で映像作家の田村さんが参加することとなった。音楽のトレンドに造詣が深く、また音響機器や機材事情についても精通していて、毎度毎度話を聞きながら刺激を受けている。その知識量はイベント一回目の後にお客さんから「田村さんって何者ですか?なんであんなに音楽詳しいのですか?」と質問のメールをいただいたほど。張江さんの名司会者っぷりはもはや言うまでもないだろう。いつも助けてもらっていて頭が上がらないし、足を向けて寝ることができない。
第一回は6月25日に開催。かなりリキが入っており、事前にビルボード・ホット100の曲を一曲ずつ聴き、周辺情報をリサーチ。もうちょっと肩の力抜いても大丈夫だよと言ってあげたいところ。しかし、最初にしっかり体力をつけておいたから5回も続いているともいえる。口下手の人間が事前にしっかり準備していかないでどうするという話もある。
そんな入念な下準備をよそにイベント内容はMVを見てツッコミを入れてゲラゲラ笑うというようなものになった。実際自分もゲラゲラ笑った。リズム・アナトミーの流れを汲んだイベントだと思ってやって来たお客さんはやや拍子抜けしてしまったそうだ。ただし滅茶苦茶笑ったとのこと。鳥居はというと、張江さんと田村さんの同級生アンサンブルに上手く入っていくことができず、二人を遠くから眺めるに終始。例えば、スタジオでセッション的なことをする場合もバリバリ弾きまくってみんなを引っ張るタイプではなく、場に慣れるまで様子を見つつ目立たないようにちょろちょろ音を出すタイプ。それが鳥居。
大学の入学式が終わった後に行われた語学のクラス別オリエンテーションに、体をこわばらせて足を踏み入れると、内部進学の者が固まって後ろのほうの席を占拠し、ずいぶんとリラックスした様子で会話しており、上京したてのうぶな心は大いにかき乱された。中学校は小学校と同じメンバーがそのまま持ち上がるだけだったし、高校も市内の高校に入学したからずっと同じような顔ぶれに囲まれており、大学生になるまで自分がこんなに寡黙で人見知りだとは気づくことがなかった。あのオリエンテーションの雰囲気にたじろいで以来、ずっと腰がひけたまま気づけば三十路。しかしシャイだの口下手だのそんな甘っちょろいアティテュードでは世の中を渡っていけない。これはプロフェッショナルなビジネスの話だ。やはりイベント後に「鳥居喋らなすぎ。これってなんのイベントだっけ?トークでしょッ!トーク・トーク!ミュージック・マシーン!シーン・ボニエル!」といったご意見をいただくことになった。ギターの場合はあまり弾かないほうがかっこいいという価値観があるのだが・・・
このイベントにおいて「ドレイクはいじられキャラである」という認識が参加者全員に共有されたのは特筆に値することだろう。音楽に対して属人的な評価を与えることに関して常に疑問を呈しているのだが、アメリカのヒットチャートという場が属人性で動いているのだから仕方がない。仕方がないけれど、「キャラ消費」の是非については考えていく必要がある。
第二回は7月30日。チャートがあまり変動しないこともあって、アトランタを中心にサザン・ヒップホップの勃興からトラップ的なサウンドがヒットチャートで覇権を握るまでの歴史をさらうといった内容のコーナーを設けた。現在のヒットチャートを追ううえで絶対に必要な知識だと思ったからだ。ただし、悪い癖で調べていくうちにどんどんボリューミーになってしまい、当日は尺が足りず駆け足となり中途半端な内容になってしまった。準備のためのメモ自体は良い具合にまとまっているだけにもったいないことをしてしまったと今にして思う。MVをいじってゲラゲラ笑うパートが激減したために、イベント後にもっとMVを観ながらゲラゲラ笑いたかったというご意見をいただいた。第二回はわりとトラウマ回。怒号も飛んだ。
第三回は9月3日に開催。田村さんからアメリカは音楽制作に関するチュートリアル動画が充実していると聞いた。そういうことであれば、それらの動画を参考に自分でトラップ・ビートを作り、それをイベントのワンコーナーにしようと思い立った。一ヶ月取り組んでみてどれだけ成長できたか当日に披露した。ちなみにプロデューサー名は「Victorii」。鳥居のビートはインテリジェントでトラップっぽくないという話になったが、昨今のトラップは、サウンドのテクスチャーがかなり洗練されており、2000年代中頃にあったドン・キホーテ的なギラギラ感はもはや皆無だと思う。次回は誰かにラップしてもらおうという話になった。後半はMVを観てゲラゲラ笑うパートもありイベントとしてもバランスの良いものになった。スタイルが確立された記念すべき回。
第四回は10月10日に開催。張江一門、いわゆるハリエボーイズのラッパー、猫まみれ太郎さんにラップしてもらうことになった。トラックは第三回以降にシコシコ作っていたものから3パターン用意。猫まみれ太郎さんにその場でラップをのせてもらい、その後トラックに対する意見やダメ出しなどをいただいた。USヒップホップを全然聴かないという猫さんの視点もおもしろく、このイベントのテーマのひとつとなっている日米の比較という点でもとても参考となる意見を聞くことができた。
第五回は11月26日に開催された。張江さんの提案ですこし邦ロック的なものを取り上げることになった。なまじ自分も音楽業界の末端にいるものだからあまり下手なことは言えない。けれどもクローズドな空間だから危うい発言も出やすい。危ういことをたくさん言いたいし、どんどんかましていきたい。けれどもかましたところで翌日に後悔することは目に見えている。
今回は猫まみれ太郎さんに鳥居からラップに関するリクエストを出して、そのラップを録音してもらうことにした。ネットでバズったMigosの「カープール・カラオケ」からヒントを得てリクエストをした。この音源が良い感じで、トラックを作った者としてとっても満足している。
次回は来年2019年1月23日の開催。まだ何をやるか決まっていないけれど、何かしら仕込んでおきたい。いや、当然のごとく仕込む。別に連ドラではないので、初めての方も一度お越しいただけたら様子がわかるかと思います。是非お越しください!
http://notoriious.wpblog.jp/?page_id=6304

 

【Playlist】NEWTOWN’18の思い出

11/9
帰宅後、翌日にデジタルハリウッド大学八王子制作スタジオで開催されるNEWTOWN’18でDJすることになっているのでビールを飲みながら準備。かつて小学校の校舎だった建物の屋上で土曜のお昼間にDJするということで、「さわやか」をテーマに選曲することにして盤を探す。レコードの収納が滅茶苦茶なのでお目当てのものを探すのも一苦労だ。部屋が散らかっているとレコードを二度Digることになる。お店と自室で一度ずつ。一粒で二度美味しい。
「あ、こんなの持っていたんだ」「コレとコレ持っててアレがないのは寂しいな」「これジャケ買いして失敗したな」「ジャズ・ミュージシャンのトロピカルっぽいジャケってホント内容読めないな」「あれ?ない?どこに行った?もしかしてこの前のイベントで他の人のところに紛れちゃったのか?」「あ、あった」「これ一回もターンテーブルにのせてないな」「意外にさわやかな曲の入ったレコード持ってなかったな」「新宿からユニオンのソウル・ブルース館がなくなってしまったの辛いな」「中古センターも行きにくくなったな」「これ流して微妙な空気になったら嫌だな」「結局いつもと同じような選曲かよ」
準備している間に、さまざまな思いが去来してどっと疲れた。気怠い。
Netflixでドラマを観ながら寝る。自分からしてみたら早起きの部類に入る時間帯に起きなくてはいけないが起きられるだろうか。3時間でも寝られたら良いのだがスムーズに寝付けるだろうか。
11/10
時間通りに起きられた。準備を整えて家を出る。眠い。京王多摩センター駅に着いた時点で時間に余裕があったので朝ごはんを食べることにする。朝マックでもするかと思って入店するものの11時過ぎだからもう朝マックの時間ではなかった。自分なりに早起きしたつもりだったから・・・
ビートルズでも聴くか~と思って有線のビートルズ・チャンネルが流れていることでおなじみのカレーショップC&Cに入店。しかしビートルズは流れていなかった。流れていたのはメジャー・ハリスの”Love Won’t Let Me Wait”。元デルフォニックスのシンガーによるヒット曲で、女性の色っぽい声が挿入されることで有名。カレーを食べながら聴く音楽ではない。
会場入り。昨年はトリプルファイヤーのライブで出演したので慣れたもの。けれどもなかなか屋上にたどり着けず苦労した。
会場のターンテーブルを見た瞬間にヘッドホンを持ってくるのを忘れたことに気づき冷や汗をかく。PAの方に確認するとやはりないとのことで困った。誰かに借りられないか考えたが借りられそうにない。ええい、ままよ。腹をくくりヘッドホンなしで対応することにした。針およびカートリッジを持参するのがDJとしての当然のマナーであるというような空気があたり一帯を満たしていたがお借りすることにした。どうもすみません。
出番までディープファン君のライブを見学。楽しいライブ。好みの音楽。改めて音源を聴きたい。
準備ができたのでぬるりと開始。頭出しはミキサーのレベルメーターを見て確認。なんとかなりそうで安心。しかし気は抜けない。
料理上手は片付け上手という言葉を聞いたことがあるような気がする。DJ上手は片付け上手とも言えよう。次にかけるレコードの準備をしつつ既に流したレコードをジャケットに収めてカバンに戻していく。まあ誰もがしていることだろう。今回はレコードが置けるテーブルのようなものがなかったので、片付けるためには地面にしゃがみこまなくてはならなかった。そうするとDJブースに誰も立っていないように見えてしまう。なんとなく寂しいではないか。それはあまりよろしくないだろうと思い片付けは後でまとめてやることにした。
選曲は結局ここ一年ぐらいハマっているバレアリック、アフロ/コズミックな感じになった。本当はもっと土曜のランチタイム感を演出したかったのだが。
初対面のKASHIFさんにご挨拶。そしてギターDJを見学。曲を流してKASHIFさんがギターを弾く。それがギターDJということなのだが、最高だった。ギターのトーンが艶っぽくて素敵。音にハリと潤いがある。自分の弾くギターのトーンはパサパサで潤いもなければ音にハリもなく、さらにけみお風に言うのであれば治安が悪い。なんというか噛んだ瞬間にパラパラに崩れてしまう手作りクッキーのようなところがある。そんなことはどうでも良し。KASHIFさんのギターDJに合わせて女の子たちが思い思いに踊っていてそれがとても良い光景だった。
イベントをすこし見学して帰ることにした。カップルや家族連れが多い。地域のお祭のような雰囲気が漂っていて素敵だと思った。
スリップ・ノットを小さめの音量で聴きながら京王線に揺られて帰宅。眠たいときに聴くスリップ・ノットってどうしてあんなに気持ちが良いのだろう。


Nina Simone – Funkier Than a Mosquito’s Tweeter
Penguin Cafe Orchestra – The Ecstasy Of Dancing Fleas
Quarteto Em Cy – Tudo Que Voce Podia Ser
Antena – The Boy from Ipanema
Shuggie Otis – Island Letter
Steve Miller Band – Wild Mountain Honey
Daryl Hall & John Oates – One On One
John Martyn – Couldn’t Love You More
Laid Back – Fly Away / Walking in the Sunshine
Little River Band – Curiosity Killed The Cat
Fleetwood Mac – Keep Going On
Stevie Wonder – Boogie On Reggae Woman
Lee Oskar – Sunshine Keri
War – Smile Happy
トリプルファイヤーの音源が様々なストリーミングサービスで配信開始となりました。私はSpotifyユーザーなのでこちらをシェアいたします。

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