“30 Days Kick and Snare Challenge”とは
リズムリテラシー向上のために、毎日1曲ずつ、ヒップホップ・クラシックスのキックとスネアのタイム感を完コピしていくという訓練。課題曲は全部で30曲。ひと月分。
なぜ課題曲がヒップホップなのかといえば、単純にループだから。以下、課題曲のリスト。
課題曲リスト
- Award Tour – A Tribe Called Quest – Midnight Marauders
- Shook Ones Pt. II – Mobb Deep – The Infamous
- Gin & Juice – Snoop Dogg – Doggystyle
- Regulate – Warren G – Regulate…G Funk Era
- Can I Kick It? – A Tribe Called Quest – People’s Instinctive Travels And Paths Of Rhythm
- Slow Down – Brand Nubian – One For All
- Aint No Half Steppin – Big Daddy Kane – Long Live The Kane
- Mass Appeal – Gang Starr – Hard To Earn
- Halftime – Nas – Illmatic
- Juicy – The Notorious B.I.G. – Ready To Die
- C.R.E.A.M. – Wu-Tang Clan – Enter The Wu-Tang (36 Chambers)
- Drop – The Pharcyde – Labcabincalifornia
- Luchini (A.K.A. This Is It) – Camp Lo – Uptown Saturday Night
- Ice Cream – Raekwon – Only Built 4 Cuban Linx
- California Love – 2Pac Feat. Dr. Dre & Roger Troutman – Greatest Hits
- ATLiens – Outkast – ATLiens
- Ambitionz Az A Ridah – 2Pac – All Eyez On Me [Disc 1]
- How I Could Just Kill A Man – Cypress Hill – Cypress Hill
- It Was a Good Day – Ice Cube -The Predator
- I Used to Love H.E.R. – Common – Resurrection
- N.Y. State Of Mind – Nas – Illmatic
- The Choice Is Yours (Revisited) – Black Sheep – A Wolf in Sheep’s Clothing
- They Reminisce Over You (T.R.O.Y.) – Pete Rock & C.L. Smooth – Mecca & The Soul Brother
- Scenario – A Tribe Called Quest – The Low End Theory
- In Da Club – 50 Cent – Get Rich Or Die Tryin’
- Paid In Full – Eric B. & Rakim – Paid In Full
- Still D.R.E. – Dr. Dre – 2001
- Southernplayalisticadillacmuzik – Outkast – Southernplayalisticadillacmuzik
- The Light – Common – Like Water for Chocolate
- Ms. Fat Booty – Mos Def – Black on Both Sides
やり方について
キックは右手、スネアは左手で、それぞれのタイミングに合わせて太ももを叩く。その際、佐久間正英方式(『直伝指導! 実力派プレイヤーへの指標 How to be a professional player?』を参考にされたい)に則り、太ももを叩く瞬間以外、手はギリギリまで動かさないようにする。また自分と音源のタイミングがきちんとシンクロしているかどうか厳しくチェックするために、太ももを叩く音はなるべく鳴らさないようにする。太ももにサンプラーのパッドが付いていると思い、指先でパッドを押した瞬間に課題曲の音源のキックやスネアが鳴るようにタイミングを調整していく。
主眼はあくまでキックとスネアのタイム感を完コピすること。ブレイクやオカズなどは良きように取り計らう。
精度は上げても上げすぎるということはない。寸分の狂いもないように完コピする。
これを1曲につき最低でも3回ずつ行うことにする。
1回目
パターンを覚える
2回目
音源と自分のタイミングを一致させる
3回目
音源と自分のタイム感を同期させつつキックとスネア以外の楽器に気を配り、他の楽器とどのように絡んでいるか意識してみる
4回目以降
可能な限り精度を高めていく
狙い
右手本位のリズム感から脱却するため。3点の主役はあくまでキックとスネアということを改めて体感する。主役にも関わらず、甘くなりがちなキックとスネアのタイミングの精度を高めるため。これが一番重要かもしれないが、音楽に同期する感覚を養うためでもある。
ドラム以外の楽器を演奏する者あっても、ドラムに対するアプローチをより正確なものにするための手助けになると思われる。
一週間経過・・・・・・
一週間取り組んでみて、気をつけるべきポイントが見えてきたので共有したいと思います。
気をつけるべきポイント
1.アタックを芯で捉えられているか / 手の動きと音源がしっかりと同期できているか
2.キックだけ、またはスネアだけに意識が向いてしまっていないか
3.きちんと音源が聴けているか / 体の動きに気を取られていないか
4.ぎりぎりまで手を動かさないようにしているか
ひとつずつ見ていきます。
1.アタックを芯で捉えられているか / 手の動きと音源がしっかりと同期できているか
この課題の主眼はキックとスネアのタイミングを完コピすることです。パターンをただコピーすることではありません。完コピとは、音源と手の動きを寸分違わずに同期することをいいます。完コピができるということは、自ずと自分の思い通りのタイミングで演奏できるという状態です。
「アタックを芯で捉える」ことについては、言葉にしづらい感覚なのですが、手の動きと音源のタイミングが一致したときに受ける独特のインパクトのようなものがあります。音源のキックやスネアが骨に響く感じといいましょうか。それをぜひとも体感してもらいたいです。
2.キックだけ、またはスネアだけに意識が向いてしまっていないか
タイミングを細かく聴き取ろうとすると、キックだけ、またはスネアだけに意識が向いてしまいがちです。キックとスネアに等しく意識を向けるようにしましょう。さらにキックからスネア、スネアからキックへ至る過程とその「間」も意識していきます。
3.きちんと音源が聴けているか / 体の動きに気を取られていないか
自分の体の動き、または動かし方にばかり意識していると、やはり音への注意力が散漫となります。この課題の裏テーマは「耳を鍛えることです」。注意の割合としては、耳が8割、体が2割というバランスで取り組んでみてください。体を意識しすぎないほうがかえって体が思うように動くものです。
4.ぎりぎりまで手を動かさないようにできているか
体の癖で音を出さないようにするためにぎりぎりまで手を動かさないようにします。さらに打面をヒットするときのスピードを上げるためでもあります。
2週目以降のメニューは?
2週目はもう少し難易度を高くしようと思います。
1回目
パターンを覚える
2回目
音源と自分のタイミングを一致させる
3回目
拍のオモテに合わせて顎を前方に突き出し、ウラに合わせて首をすくめて頭を後方に引っ張るという動きを維持する。そのうえで、両手でキックとスネアのパターンをトレースしていく。その際、頭の前後運動でハットの8分刻みをトレースするような意識をもつ。これを整理すると・・・・キックが右手、スネアが左手、ハットが頭となる。
4回目以降
うまくできなかった部分がなくなるまで繰り返し取り組む
狙い
拍という枠の中にキックスネアの位置をマッピングすることにより、キックがウラなのかオモテなのか、または16分刻みなのかはっきりさせるため。またシンコペーションにつられて拍が取れなくなるという事態を防ぐため。要素を増やすことで、右手だけ、左手だけに集中することがないようにするためでもある。
30日経過・・・・・
本日からセカンドシーズンが始まります。一周目よりも難易度を挙げたいと思おいます。
1回目
“One and Two and Three and Four and”と唱えながら、頭でリズムを取って行きます。オモテで顎を前方へ突き出し、ウラで頭を後方へ引っ込めます。オモテは弛緩、ウラは緊張ということを意識して動かしてください。オモテはパー、ウラはグーです。最初はなかなかスムーズに動かず違和感があるでしょうが、続けているうちに心地よくなってくるはずです。これは独自のリズムの取り方ではなく、黒人音楽ファンの間ではよく知られたリズムの取り方です。黒人音楽は根本的に脱力でリズムを刻んでいます。
2回目
右足で4分を刻みつつ、右手と左手でタイム感を完コピしていきます。その際に、右足の刻みに合わせて”One and Two and Three and Four and”と口で唱えてください。
注意すべきは”Three”を発音するタイミング。英語の発音では”Three”は1シラブルです。ちなみにシラブルとは音節のことです。日本語式の発音だと「スリー」の場合は、「ス」と「リー」で2シラブル。「スリー」以外の「ワン」、「トゥー」、「フォー」はそれぞれ1シラブルなのに対して、「スリー」のみ2シラブルです。
2シラブルの何が問題かというと、オモテのタイミングで「ス」と言ってしまう人と「リー」と言ってしまう人の2パターン発生してしまうことです。
キックスネアチャレンジで扱う曲のキックは2拍目4つめの16分で鳴らされることが多いです。これにつられて、そのタイミングで「ス」と言ってしまいがちです。
ですので、オモテに入ってから、つまり左足が床を踏むタイミングで「ス」というようにしてください。
3回目
右足の刻みを倍にして8分で刻んでいきます。口でカウントを刻むのはなんとなくで良いです。それよりも音源としっかりシンクロしているかということに意識をしっかりと向けてください。
8分で刻むことで、キック及びスネアが1小節を16分割したグリッド上のどこに位置するかしっかりと認識するという狙いがあります。
またおろそかになりがちな8分のパルスをアンサンブル上の縦でしっかりと揃える訓練をするという意図もあります。
4回目以降
おそらくスムーズにはいかないでしょうから、仕上げのつもりでもう一度行ってください。
“30 Days Kick and Snare Challenge”から遠く離れて
巷でディラがどうしただのポリリズムがどうしただのと言われて久しいが、それにに比べて自分のやっていることはなんと泥臭いのだろうと考え込んでしまう。どうしたらリズムキープができるのか。どうしたらクリックに合わせて演奏できるのか。初歩中の初歩だが、これを抜きにして何か新たな試みをしたところで、それはゼロに数字を掛けるようなものだから、どうにもならない。そこからやっていくしかない。
久方ぶりに”30 Days Kick and Snare Challenge”に取り組むにあたり作成したプレイリストの曲を聴いてみるとキックとスネアのタイミングを先取りしつつ自然と頭を前後させてしまう。小学生の頃、テレビで放映された『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作をビデオテープに録画し毎日繰り返し観ていた。たしかマーティーが織田裕二、ドクが三宅裕司のフジテレビ版だったはず。気づくと吹き替えのセリフを諳んじていて自然と声に出して観るようになっていた。これと似たようなことが”30 Days Kick and Snare Challenge”にも起こっている。セリフを諳んじてビデオ見ながら発生によって上書きすることも、キックとスネアを諳んじたうえで音源と体の動きを同期させることも共に身体的な快楽を伴う行為といえよう。そして、自転車の乗り方と同様に忘れようにも忘れられない感覚ではなかろうか。一度その味を覚えてしまったらもう後戻りはできない。リズムの快楽は永遠です。