愛知県です

私は愛知県出身です。名古屋ではありません。名古屋から南南東へ下ったところにあります碧南市というところの生まれでございます。よくある地方のまちです。

出身地を尋ねられると、「愛知県です」といつも答えているのですが、そうすると「あ、名古屋ですか?」と返される事が多いです。名古屋ではないので最初から愛知県と答えるようにしているのですが、そう返されては二度手間になってしまいます。かといって、いきなり碧南と答えたところで相手からしたら、どこだよ、という話で、これがなかなかに面倒なのです。

さらに面倒なのは名古屋に関する知識が少ないので、美味しい食べ物屋さんなどを聞かれても答えられず、相手を興ざめさせてしまうことです。味噌カツやひつまぶしも日頃よりそうそう口にするものではありません。

母親の職場が名古屋にあったので、幼い頃から訪れる機会には恵まれていました。また、高校生になると友人と連れ立って買い物に行くようにもなりました。しかし行く場所は大体決まっていたので点と点を結ぶ数本の線でしか把握しておらず、地理的にも全く詳しくありません。

方言に関しても面倒が多いです。碧南というところは三河というエリアに属しており、我々が普段使用している方言は三河弁と呼ばれています。光浦靖子さんの訛りは三河弁です。厳密にいうと東三河弁です。碧南の人は西三河弁で会話をします。語尾に「じゃん」「だら」「りん」がつくというものです。三河の人間は、海老フライのことをエビフリャーといったり、ハイライトをヒャーリャートといったりはしません。さすがに名古屋の人も言わないと思いますが。

コミュニケーションの一貫として、相手の出身地をわざと小馬鹿にしてからかってみせることは普段よりよく行われていますが、名古屋弁を馬鹿にされても今一ピンと来ないので、リアクションに毎回困っています。「エビフリャーエビフリャー!」「だみゃあだみゃあ!」などという意味のわからないことを一方的に捲し立てられるのはあまり心地よいものではありません。音声的にもかなり不快です。これは出身地の問題ではありません。試しに松濤在住の幼稚園児に同じことをしても必ず泣くと思います。

かように名古屋に対する心情はかなり微妙なものです。その文化に精通しているわけでもないし、その一方で、人から馬鹿にされれば自分のこととして受け止めざるを得ないのです。名古屋のこととなるとどうも卑屈になってしまいます。

名古屋が小馬鹿にされるようになったのはタモリのせいだと母から聞きました。福岡出身の人に聞くところによると、九州には名古屋を馬鹿にする流れがあるそうです。関ヶ原以来の因縁でしょうか。

ここにきてこういうことを言うのも何ですが、はっきり言って名古屋がどうとか愛知がどうとか人からすればどうでも良い類の話題です。細けぇな、黙って馬鹿にされてりゃいいんだよ、というのが正直な感想だと思います。

アメリカ人に「ヘーイ、ブルース・リー!」と言われれば、「ホアチャー!」と怪鳥音をあげて、カンフーを真似てみせる、そういうのがマナーだと思います。そういったマナーをドメスティックな視点まで拡大する必要があります。ステレオタイプとセルフパロディのキャッチボールこそがコミュニケーションの基本なのではないかと思う今日このごろであります。

 

Masamichi Torii